バックアタック
ここまで偶然が続くと、もう必然にしか思えないわね……。
たまたまヤードに頼まれてたまたま船を襲って剣を奪おうと――正確には取り返そうと――した時、たまたまソノラがセンセに会って勝負をしようとした時にたまたま嵐にあい、船に帰ったのはいいけれどその船はたまたまこの島に流されて、しかも随分とひどくやられてしまっていたので材料を探している途中、たまたまセンセと出会って――アタシは初めてだったわ――戦い、それから色々とあってセンセはアタシ達の仲間になって、そしてこの島に住人がいないか捜して材料を分けてもらおうと思って一応見つけた事は見つけたんだけど彼らは人間を憎んでいて、そしてその彼らからの挑戦状。畑泥棒を捕まえるのを手伝ってくれないかと。センセが自分で決めなくてアタシ達にちゃんと相談してくれたのはありがたかったわ。まぁ、センセがそんな自分勝手な行動をする人だなんて、もちろん思っていなかったわよ。
もちろんその挑戦は受けたんだけど……その泥棒っていうのが、目の前でまるで魂が抜けかけた表情を浮かべてブツブツ言っているジャキーニ達だなんて誰が予想できるかしら? できればこのまま見なかった事にしたいんだけど……そうもいかないのが現実の厳しいところなのね……。
「あの……」
センセがこっちを向いて何か言いたそうに口を開くのを見て、そういえばセンセは彼らと初めて会ったという事を思い出す。アタシとした事が、こんな当たり前の事忘れていたなんて。
センセと目を合わしてから再びジャキーニを見詰める。「アタシらと同じ海賊よ」あんま、認めたくはないけど……。そうこっそり付け加えて。
彼らはアタシ達に気付いていないのか、まるでわざわざ説明してくれているかの様に勝手に喋っていたわ。どうやら嵐に巻き込まれてこの島に来たらしいんだけど、その原因をつくったのがアタシの隣にいるヤードだなんて知ったら、また大変なことになるわね……。追っ手から逃げている時に一度使ったらしいんだけど、制御しきれず嵐が起こってしまったらしいの。思わず自分でも意識してしまうほど同情の眼差しで再び彼らを見る。
まぁ色々あったらしく、一通り話し終わるとジャキーニはまた畑に行こうとし出したので止めに入ったら、何か色々理由をつくって戦いを始められたわ。こうやって一人暴走して、そしてあっけなくアタシ達に負けちゃうんだからそろそろその性格、直してくれないかしら? 巻き込まれるこっちの身にもなって欲しいわね。
手下達は、言わばジャキーニのマリオネット。ジャキーニさえ倒してしまえば手下達はどうすればいいか分からなくなって余裕でアタシ達の勝ちになるんだけど……そう上手くいかないのよねえ……。手下達は意外と――あら、失礼――多いし、ジャキーニは一番奥にいるから、やっぱり時間はかかるわ。……溜息が出そう。
仕方なく寄ってくる奴らから片付けていったんだけど、忘れていたわ、ジャッキーニの技……っていったら大袈裟になっちゃうけど。何て言う技なのかしらね、いきなり「あ」とか言い出して後ろの方を指差すのよ。今まで誰も引っかかった事なかったらかよく知らないけど、あのジャッキーニの事だわ、不思議に思って指先に何があるのか確かめる為に後ろを振り向いた隙を狙って攻撃してくるに決まっているわ。
ちらっと横目で隣にいるセンセを見る。絶対引っかかるわね……。今までのセンセの行動を見て、絶対に誰もがそう思うわ。センセには悪いけど……。まぁそうやって何でも信じてしまうのがセンセの良い所でもあって悪い所でもあるのよね……。何て考えていたらいつの間にかセンセにジャキーニが近付いてきて、本当に予想した通りアレをしてきた。そしてご丁寧に引っかかったセンセとアタシの目がぶつかる。ジャキーニの方を見ると口元を吊り上げて剣を振り上げていたわ。
……多分、頭で考えるより先に体が動いたと思う。軽く膝を曲げて地面を蹴り、センセとジャキーニの上を一回転してジャキーニの後ろに立つ。そして素早く右手に持っていた短剣を左手に持ち替えてジャキーニの右腕に自分の腕を絡めて逃げられない様にし、首に短剣の刃を軽くあてて耳元で囁く。
「ちょっと、おいたがすぎるんじゃないの?」
驚きのあまり何が起こったかまだ理解できていないジャキーニは「え、は?」なんて単語を口にしているだけ。センセもこっちを呆然と見ている。でもごめんなさい。アタシ、センセに微笑みかえるほど余裕はないわ。日頃のアレで……ね。
「正々堂々と勝負してくれなきゃ、こっちだってやってられないわ」
「な、何だって! あんな事に引っかかる奴が」
ジャキーニの口からそれ以上言葉が出てくる事はなかったわ。だってアタシが更に強く喉元に刃をあてたから。ちらっと表情を窺ってみると、目だけ動かして短剣――というよりも、アタシの手を見詰めている。んー……ちょっと情けなさすぎよ、これくらいで怖がっていちゃ。
「別にいいのよ、このまま殺っちゃっても。そろそろ終わりにしたいし、一人殺るのも二人殺るのも一緒だわ」
なんて嘘。本当は誰も殺したくないし、殺されて欲しくない。でもこうでも言わない限りジャキーニは諦めてくれないだろうし、仕方なく、ね。だけどアタシの予想は反して「やれるものなら、やってみろ!」最初に鼻笑い付き。声は少し震えていて動揺しているのはバレているのに……本当、諦めが悪いというか何と言うか……呆れてものも言えないわね。
仕方なく更に耳元に口を近づけて、近くにいるセンセにも聞こえないほど小声で呟く。すると横から見ていても分かるほどジャキーニの顔色は見る見るうちに悪くなり、「わ、分かった……負けを認めるから、それだけは止めてくれ」そう力なく呟くので、「分かればいいのよ」満面の笑みで微笑みかけて手を離すと、ジャキーニは力なく地面にへたり込んでしまう。
「センセ、終わったわよ」
軽く手を叩いてセンセに微笑みかけると、「は、はい……」いまいち状況が飲み込めていないのか、疑問系でセンセはそう答えてくれた。
†
ジャキーニ達への罰はセンセが考えて畑仕事。食べた分働いて返すって事になったんだけど、本当、甘いわねえセンセ。まぁそれがセンセなんだし、アタシが何だかんだ言う権利もないし……。
「スカーレル、ちょっといいですか?」
船へ帰る途中そう考えていると、センセがわざわざアタシの横に並んでそう尋ねてきた。「あらセンセ、どうしたの?」センセがわざわざアタシに聞きに来るくらいだから何か重要な話かと思ったら、先程ジャキーニに何を言ったか、ですって。あら、センセにしてはこだわるわねえ……。でも、
「……内緒よ」
人差し指をたてて口元にあて、微笑む。だっていくらなんでもアレだけは教えられないわ。それに秘密にしていた方が面白いじゃない。どんな事を考えているのかしらって。
考え出したセンセを見てアタシは自然に笑みをこぼした。それは多分、アタシ自身も気付いていない。
End
Thanks1000hitフリー小説。冗談ではなく本気で;持ち帰って一人で楽しむもよし(…;)。
珍しく真面目に一人称で挑戦。やっぱり書きやすい、一人称は。ただ、喋っている人物が一人だけになって、後ちらほらと入ってくるのは私だけですか?;最初ら辺なんて説明文が並んでて…読む気が起こりませんよ;
何か口調が変ですよね?;あと、“ジャキーニ”を“ジャッキニー”と打ってしまう;(何故)
バックアタックは絶対技の名前だと思い、勝手に妄想していました…;反省。
04年9月18日