好きな物
「……ヤード」
ヤードがこの部屋にいるという事を聞いてやってきたスカーレルは、ノックしてヤードに入る許可をもらってから扉を開け、一番初めに目に入ってきた光景を見て溜息混じりでそう名を呼ぶ事しかできなかった。額に手をあて、やれやれと首を振る。
そんなスカーレルの態度を見て気に入らないのはもちろんヤード。珍しく整った顔をしかめて「文句を言いに来ただけなら出て行って下さい」そう言った後に背を向けてすすったのは、薄緑色のした香りが良いお茶だった。
「あーあ、せっかくアンタのお茶好きから解放されたと思ったのに……で、きっかけは?」
あえてヤードの言葉には返事をせず扉を後ろ手で閉めてヤードの横に行き、テーブルに右手を付き背を曲げて、座っているヤードの顔を覗き込む。それでも気にせずお茶をすすっているので――久し振りに会った時はアタシの姿に驚いていたくせに――深々と溜息をつき、「別に止めさせようとしている訳じゃないわよ。アタシはただアタシに迷惑がかからなければそれでいいだけ」で、誰? 今度は短く鋭く同じ質問をしてみると、分かりましたよと諦めて湯飲みを置いたヤードの口からは意外な人物の名前が出てきた。
「へー……あのジイさまが……」
それだけ呟き、テーブルから手を離す。スカーレルが心配していたのは、この島の中で我慢していたヤードをお茶好きとして目覚めさしてしまったのがもしお茶の事を何とも思っていない人であれば、必ずヤードの面倒は自分に回ってくる事。しかしゲンジであれば、アティから聞いたのだが彼もそうとうお茶好きらしく、その心配はない様である。そこまで考えて、そういえばアティが二人で真剣にお茶の事を話していたのでゲンジはともかく、ヤードがお茶好きだ何て初めて知ったと驚きの表情を浮かべて言っていた事を思い出した。
ちらりと横目で見てみると目に入ってきたのは、いつもよりもきっと真剣な表情を浮かべているだろうヤードの姿――俯いて何かしているので分からないけど、結構の付き合いよ、大体分かるわ――。昔まだヤードと一緒にいた頃、永遠と続きそうなヤードのお茶話を聞いていた過去を思い出してしまった。ヤードだってただ自分だけ話すよりも、相手の意見を聞きながら話した方が嬉しいに決まっている。
「で、結局は何しに来たんですか?」
未だにこの部屋にいるスカーレルに違和感を覚えたのが頭を上げずヤードがそう尋ねてくるので、「あー……つまり、迷惑をかけないでねって事」正直にずばっと笑顔をつけてそう言ってやった。しかしスカーレルの顔を見ていないヤードは、それでも声だけでその意味を聞き取ったのか「分かってますよ」そう答えてそのまま黙り込んでしまったので、これ以上この部屋にいる必要のなくなったスカーレルはそっと扉を開けてこの部屋から去る事にする。
「ヤードのお茶好きは一度始まったら満足行くまで止まらないから……ね」
唯一その体験をしているスカーレルは、そのお茶話が二人の間だけで納まらなくてそのうち皆まで犠牲にならない事だけを、祈っている事しかできなかった。
End
やったよやってしまったよー…;;ただ書きたかっただけの話。
ヤードさんはお茶の事になると暴走すると面白い(え)。で、いつも暴走したヤードの面倒見ているのはスカ様。
ヤードの為に頑張って聞いているスカ様もいいなぁ…v
ヤードさんの真面目なイメージが壊れていく…;
……意外だったからってこんな変な小説書くなよなー;;
04年11月19日