相方

 

 ここはキカの町。ある学者が色んな便利な機械を発達したおかげでとても暮らしが良くなった町だったのだが、機械を動かす為の油のせいで川は水ではなく流れる油と化し、機械が全て仕事をするので暇となった人々は気を紛らわす為に他人で遊び、それでも笑顔で暮らしていた。他の町から見れば不幸な町に見えるが、この町の人達はそれでも幸せだったのである。何故なら、その暮らししか知らないから――。

「全く、幸せなんだか不幸せなんだか分からない町もあるもんだね」

 茶色に近いオレンジの肩にかからない程度の髪を持つ、左目を怪我したのか眼帯で覆っている全身黒服の少年が木の上からある光景を見詰めながらぼんやりと呟く。その言葉に、「本当、その通りだな……」同じくある光景を見詰めながら、腰まである漆黒の髪が風に弄ばれているのも全然気にしていない、同じく全身黒服の少年がちゃんと聞いているのか分からないくらいぼんやりと呟いた。

 この二人の少年、ある人からある者を抹殺してくるよう命令されて、どのように抹殺してもかまわないと言われたので他の人の手でその者を殺すように仕向け、今ちゃんと息の根を止めるか見届けている途中なのである。自分の手を汚さず任務を完了する、そう案を上げたのは茶色に近いオレンジの髪を持つ(けい)という名の少年。そしてその案に最初は反対していたものの仕方なく賛成した漆黒の髪を持つ(るい)。自分でやりたかったのか先程からその光景を羨ましそうに見詰めていて、話しかけても適当な答えしか返ってこないのであった。

「……しっかりしろよ、累。それに嫌々とは言えちゃんと自分の口から賛成の言葉を出したんだから、今回は僕の案に従ってもらうよ」

 冷たい風が体を包み込み、木の枝から落ちないようにバランスをとりながら両腕を擦り、長い付き合いなのに未だに喧嘩が耐えない相方の方を向いてなだめる様に言う。「…………分かってるって」今までちゃんと聞いているか分からない返事を返していた累が、しばらく間を置いた後背筋を伸ばし右手で頭を掻きながら苛立ちの混じった声で返事をしてくれた。やっと真面目な返事をしてくれて嬉しいはずなのに、苛立ちの混じった口調を聞いて慧の方も苛立ってしまい思わずちゃんと答えろよと怒鳴りそうになったが、取り敢えず今は任務を終える方が先だと自分に言い聞かせ、落ち着かせる。

 慧は累と違い、自分の手を汚すのは嫌いだった。なのでいつも累に任せていたのだが、累の仕方が残酷で見ているだけで自分の手も汚れているような気がして仕方がなかったので、今回はお願い――というよりも命令の方が近いかな――して自分達は見ている事にしたのである。が、思っていた以上時間がかかり、暇だった。累と同じにしたらダメだなぁとあくびを漏らしながらこれからは気をつけようと心に決める。

「……おっ! どうやら終わったらしいぜ」

 腕組みをしたり頬杖を付いたりして早く任務が終わるのを待っていた慧は、累の先程までとは全く違いとても嬉しそうな声を聞いて弾ける様に累の方を見た。浮かべる表情は、声と比例して嬉々に満ちている。立ち上がり、オレちょっと見てくるなんて言い出した累の言葉を聞いて慌ててポケットの中に手を突っ込んで携帯を取り出し、「累!」短く叫んで振り向いた累に携帯を投げつける。「証拠写真。ぶれない様綺麗に撮ってよ」

「言われなくてもバッチリ傷口の細かいところまで分かるように撮ってやるよ!」

 その言葉を残し、累は木の枝から飛び降りた。

 静かになり更に自分だけの気配しか残っていないと、何故か落ち着かない。普段は一人になりたいなどよく思うのに、いざその状況が訪れるとやはり前の方がいいだなんて、何て人間は身勝手なのだろう。

「そんな人間共を消し去るのが僕の役目なんだ……」

 その言葉がどういう意味を持っているのかも分かっているし、自分も特別でも何でもないただの人間なので人間を裁く権利などないのも分かっている。それでも自分はこの道を選んだ。「他に生きる道なんてなかったし……」例え近くに誰かがいても気付かないほどの声量で呟く。

「撮ってきたぜーっ!!」

 まるで買い物に行って狙っていた物を無事買えてそれを報告しに来たかのように、嬉しそうに携帯についているシンプルなデザインのストラップを持って振り回している累が帰ってきた。「ほらほら、綺麗に撮れたぜ。なぁなぁ見てみろって」そうやって携帯を目の前に持ってくるので「いい!」弾ける様に目を逸らす。近くで見たくないから他人の手を借りたのに、これでは意味がない。

「これでまた一人、要らない人間が減ったな」

 急に声が低くなったので視線を戻すと、携帯を片手で閉じて真剣な表情を浮かべている累と視線がぶつかる。「……早く努力が報われる人間だけになったらいいのに」慧も呟くと同意するように、今まで浮かべていた真剣な表情が見間違いのように満面の笑みに変わり、「それじゃ、さっさと帰ろうぜ」そして視線を逸らし再び木の枝から飛び降りた。

 慧も後に続こうと力を入れた足を一旦緩め、肩越しに後ろを振り向く。アンタも生まれ変わるなんてバカな事考えないでよ。たまたまターゲットにされた人物に向かって心の中で忠告し、そういえば先程自分が呟いた言葉を思いだして、鼻で笑い飛ばす。

「それは永遠に叶わないんだろうな……」

 そう呟いた後、急いで累の後を追う。

 善があるから悪がある。そう分かっていてもこの仕事から抜けられないのは、生きる希望を見失っていた自分に希望を与えてくれたのがこの仕事だからであった。

End

 

 

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ある日、私はお告げを聞きました。アナタはこの小説を書きなさいと………冗談です。
丁度考えていた話に、たまたま夢で見た町を付け加えただけだという…;で、この小説の目的はもちろん…眼帯少年を書く事!(え)もう響さんを見て書きたくなって、行動に移してみました!満・足!v思えば今まで満足の文字しか書いていないような気がしますが、
普通満足しないキャラが出ている作品をアップしませんよね;

機会があればまたこの二人を書いてみたいです。
黒い服好きです…。

04年10月29日