むかし むかしの話です。丹波の川北に、心やさしい大臣と村人が暮らしていました。
桜が咲き始めた朝のことです。いつものように大臣は氏神さん参りをしていますと、ぼうさんが道にたおれていました。
「よわっておわれるようじゃが・・・・。あっ これはひどい熱じゃ。 ほっておけへん。」
「おおきに、迷惑かけてすまん・・・・・ 」と、おぼうさんは、なみだ声いうのでした。
そのころ、ひでりが、続いていました。田植えときがきたので、あちこちの村では、田植えがはじまりました。でも、ため池のない川北は、雨が降らないと田植えができないのです。
「そうや。あっ、きっとそうや。むかしからこの村によそもんを泊めたらたたりがあると聞いたことがあるぞ。」「それにちがいない。あのぼうずや。」「よし、大臣さんに話をしてみよう。」
村人たちは、ぼうさんを早く追い出してほしいとたのみました。「いや、もう少しまってくれ。病気なんゃ。追い出すなんてでけへん。」
大臣は聞いてくれません。「わしらあ、米がとれないと飢え死にや。それでもええといわはんのか・・・・。」「わしらあ、自分のいのちがだいじや。ぼうずを追い出せ、追い出せ。」
きがくるったように、村人たちは、大臣の家に石をなげつけたり、かきねをこわしはじめました
ぼうさんは、はって出てきました。「みんなやめておくれ。わたしは出て行くから。そのまえに、お礼がいいたい。なんでも望みのものをいっとくれ。」村人たちは相談しました。「雨だ、雨がほしい。」といった村人の一人は、子供がおやつに食べている白いいりまめをよこどりして、「このまめをまいて、芽を出してくれへんか。」といりまめの袋をわたしました。
「よろしい。今日から三七、二十一日、お祈りをしよう。」と大臣の庭でお経をとなえはじめました。
おーい、雨だ 雨だ。田植えだ・・。」
あっ、 くろまめだ。大きなくろまめだ・・・・。」川北の人たちは毎年、くろまめがとれるたびに、ぼうさんのことを思い出すのでした。
●文:田中忠夫●カット:後藤秩里
丹波むかしばなし編集委員会編集の『丹波むかしばなし第1集』より出展させいただきました。
二十日目の朝になりました。朝からかんかんでりです。「やっぱりあいつは、くそぼうずだ。追い出せ、追い出せ。」と村人が押しよせようとしたとき、「ぴか ぴか、ぴか ぴか・・・。」といなびかりがして、黒雲のうずまきがおこると、雨が激しく降りだしました。