季節の庭 vol.3

 谷を渡す山村の七夕さま

  高知県高岡郡越知町桐見川 

 「笹の葉サラサラ、軒端にゆれる、・・・・」、子供の頃、七夕さまは、夏休みを目の前にした楽しいのひとときでした。でも、本当はちょっと違うんです。

 七夕さまにかぎらず、お祭りは、昔は月の動きを中心にしたこよみ(太陰太陽暦)の月日で行われていました。それが、明治の始めに、当時西欧諸国で使われていた太陽の動きによるこよみ(太陽暦)にあわせることになり、月日がそれまでより1ヶ月あまりくり上がってしまいました。
 そのため、お盆や秋祭りのように一月遅れで行われているものもありますが、七夕祭りは、一般的には暦日の7月のままで、梅雨のまっただ中のお祭りになってしまいました。でも本当は、一番暑い盛りの(暦の上では秋ですが)、上弦の半月の夜のお祭りでした。天気も安定し、星もきれいに見える時期です(それがいいことなのかどうかはわかりませんが)

 昔のまま、旧暦の7月6日の夜から7日の朝にかけて行われる七夕祭りがあります。
 もう10数年前になります。大学の卒論のためにまわった、高知県中西部の村々で行われていました。そこでは、むら中が集まって谷渡しに縄を張って、七夕さまをお祭りしていました。                

 その一つ、高知県高岡郡越知町桐見川の西浦集落は、越知町の中心から西へ、霊峰横倉山(御三嶽さん)南の谷の奥の、日浦(ひうら・谷の日の当たる側の斜面)にあるむらです。

  

七夕さまの縄に下げる飾りを作る。手前左のおじさんがわら馬を作っている。縁側には五色の幣が置かれている。

 旧暦7月6日の夕方、むら人たちは、みんなでない継いだワラ縄を、むらの下を流れる谷に、仮に張り渡しておきます。
 そして、その夜、谷近くの一軒の家に集まり、七夕さまの縄に吊す飾りを作ります。
 飾りができると、七夕さまの縄にお供えをし、月の光にの下で、ひとときの宴がおこなわれます。



  旧7月7日の朝、飾りをつけて張り渡された七夕さまの縄

仮に張った縄にお供えをする

 翌7月7日の朝、仮に張り渡しておいた七夕さまの縄をいったん下ろし、昨夜作った、わらの馬・犬、木で作った梭やチキリ(糸巻き)などの機織り道具と刀・庖丁、1対のワラ房、そして女性たちが作った1m余りある五色の幣を飾り、再び谷渡しに張り渡されます。

 「昇る朝日に夜露を放ち、馬が揺れぼうとう(わら房)を下げ、五色の願いを携えてしめなわは虹のごとくに天へと飛翔する。緑の峰を越え、うちそよぎつつ秋空高く−」
        (岩井信子『土佐の冠婚葬祭』高知新聞社 1983 より)

  そして、朝日に包まれて、
 谷渡しの縄の下の橋の上
 では、七夕さまのお祭り・
 宴がおこなわれます。
     
 


 このような谷渡しの七夕さまは、桐見川のむら々々でおこなわれていま
した。                                         
 むらの行事として、わら馬と機織り道具をセットにして、七夕さまの縄に飾
るのは桐見川などごく一部のようですが、季節の野菜とわら馬のセットで谷
渡しの七夕さまをする所は、高知県下に広く見られます。           

 

下の谷の七夕さま

 

 上左:中峰の七夕さま
 上右:潰野の七夕さま
  右 :田代の七夕さま

 左:桐見川から南へ山を越えた、葉山村舞の川の七夕さま。ここでは月遅れの8月7日に七夕をしていた。
 同様の七夕さまは、桐見川から西へ山を越えた、仁淀村でもおこなわれていました。

 
   

 わら房・わら馬・刀・梭(機織り道具)  
 ・五色の幣などの飾り。このような飾り 
 には、どのような祈りが込められてい  
 るのでしょう。両端のわら房は魔除け 、
 彦星が刀を差してわら馬に乗って織り  
 姫に逢いに行く、それを織り姫は機を  
 織って待つ、天の川を渡って二人が逢 
 えるように、谷渡しにしめ縄を張るの  
 だと聞きました。              

              

 中峰の七夕さまの飾り 

   
 もちろん、このような七夕さまばかりではなく、家の行事として、普通の笹飾りをするところもありました。
 また、川渡しの七夕さまを、家でする所もあります。


 越知町島の七夕さま










  須崎市多ノ郷の七夕さま
 

 七夕さまには、彦星と織り姫が天の川を渡って逢うので、晴れていないといけない、雨が降ると天の川が増水して逢えないといいます。
その一方で、3粒でも雨が降らないと悪い病気が流行るという所もあります。
 まあ、どちらがいいのかはともかく、昔からの行事を本来の季節の中で楽しんでみてはいかがでしょう。
満天の星に天の川、ひときわ輝く夏の大三角形。七夕さまの楽しみも、また増えるのではないでしょうか。

 

 

関係地図

 


田代の大松

※ 写真は、1984年8月および1986年8月に撮影したものです。
調査の際には、桐見川の皆さまをはじめ、多くの方々のお世話になりました。改めて、お礼申し上げます。

先日、私用で高知に帰った際に見ると、谷に高く七夕さまの縄が上がっていました。まだまだ健在のようです。
田代の大松はなくなっていました。残念です。(2001. 8.21.)

 

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