「・・・は?」

「・・・ガット、変えたらどうですかって」



部室で着替えてたら礼緒が入ってきた。

珍しい事に洸と一緒に来てなくて少し不思議だったが、そこはあまり深くは考えなかった。
考えたところで、答えはくだらないだろう。


そこで、小さな沈黙が生れたわけなのだが・・・。
いきなり礼緒が俺に話しかけてきた。



「え、何・・・ガット?」



訳が解らずに首を傾げた。
何故ガットを変えなきゃなんないんだ。



「陽平先輩のガット、緩くないですか?」



ドサ、と礼緒は自分の鞄を籠の中へ入れていた。
そんな様子を俺は耳だけで感じる。



「んー・・・よく、わかんねぇ」



くぁ、と欠伸をした。

そういえば、昨日は夜更かしをしたんだと欠伸で思い出した。
どおりで今日の授業が眠かったはずだ。

カチャカチャと音を立ててベルトを外した。
そして、ズボンからジャージに着替える。
もうそろそろ短パンでもイイかな、とか思うが未だ長袖のジャージをはいている。



「・・・ほら、これ」

「んー・・・っ!」

「・・・?」



上半身裸でいきなり俺の目の前に現れんなっ!!

マジでビビった。
振り返った瞬間に裸の礼緒だぜ?!
こんな美形の裸とか、俺じゃなくてもドキっと・・・・。



「『ドキっ』て何だよっ!!」

「・・・せ、んぱい?」

「あ、ゴメン。何でもねぇから」



ニコォと笑ってみた。
だけど礼緒はまだ変な顔してる。

そりゃーそうだよな。
俺がいきなり叫んだんだからビックリしたんだよな。


変人だって思われたかな・・・。



「・・・で?」

「あ、これ・・・」

「俺のラケット?」



礼緒が俺に見せたのは俺のラケットだった。
逆の手には礼緒のラケットがあった。



「ほら、ガットの緩さが違うの解ります?」



そう言って、礼緒は俺に俺のラケットと礼緒のラケットを交互に触らせる。
確かに、ガットの緩みが全然違う。

ていうか、礼緒の手ゴツゴツなのにうっすいな!!



「俺の緩すぎ?」

「まぁ、俺のが固いってのもありますけど、陽平先輩なら24か5ですかね」

「へぇ・・・」



礼緒はイロイロ知ってて凄いなぁ。
さすが中学校からテニスやってるだけあるよ。



「このラケットじゃ、テンションが18あるかないかですよ」

「・・・テンション?」

「ガットの緩さですよ」



ゴメンな、礼緒。
俺が何も知らないばっかりに・・・。


それから俺は礼緒にイロイロ聞いた。

ついでにグリップも変えろと言われた。


あー、確かにグリップはボロボロだもんな。
今日は部活終わってから買いに行くかな。



「・・・っと、じゃぁ俺先に行ってスマッシュ練習してくる」



トントン、とつま先で地面を叩いた。
そしてテニスシューズを履き終えて、ドアノブに手をかけた。



「あ、せんぱ・・・っ」

「・・・ん・・・ゥオ?!!」



ガタン、とイロイロなものが崩れるような音が鳴った。

俺もどうやら、頭をドアにぶつけたらしい。
すっげぇ・・・痛い。



「・・・った」

「・・・っつー・・・!」



俺が目を開けた。
その瞬間目に映ったのは、礼緒の頭。


礼緒の・・・頭だぁあ?!!


え、ちょっと待て。
今の状況を理解せよ。
俺ってば、座ってるけども・・・微妙に礼緒に押し倒されてる感じじゃんね?

ていうか、俺の腹辺りに礼緒の顔が蹲ってるんですけど。



「れ・・・れおー?」

「・・・・・っ、あ・・す、すみませんっ!」



今の状況にようやく気付いた礼緒が慌てて俺から離れようとした。

だが、礼緒が床に手をつけたと同時に、俺の上半身を押さえていたドアが開いた。
その拍子に俺の上半身は床っていうかコンクリートに打ちつけになった。



「うわっ?!よう・・・っ」



そこまで言ってドアを開けた主こと翔己は固まった。


俺から見える翔己の表情ははっきり解らない。
けど、礼緒からは丸見えだろう。



「・・・礼緒?」

「・・・・・・ぶ、ぶ・・ちょ」



俺は仰向けになったまま、翔己を見ていた。

なぁ・・・。
俺、何時になったらこの状況から逃げれるんだろう。

そんな事を考えていると、翔己の顔が目の前に現れた。
いきなりすぎてギョっとした。



「なっ・・・何?」



ニコリと笑った翔己は俺の上半身を起こした。
そして、俺の耳元で小さく囁いた。



「場所ぐらい考えてよねー」



バタン、とドアが閉まった。

そのまま俺は数秒固まっていた。
だけど、礼緒が俺の名を呼ぶ声にハっと我に返った。

その瞬間に、俺の頬がカァと赤くなるのが解った。



「ごめ・・・俺、行くわ」



既に俺から離れていた礼緒にそう告げて俺は部室から出た。

部室から出た瞬間に、気の抜けた俺はその場に座り込んだ。



「・・・〜っんだよ」



男が男に反応するとかありえねぇ。
ていうか、それ以前に



「あんっの・・・翔己めっ!」



あいつ。ブっ殺す。

ていうか・・・礼緒だよなー。
あいつにはホント御免としか言いようがない。
怒んなきゃイイけどなー・・・ホント。




















「本日、陽平がホモ化しましたーっ!!」

「しょーきぃいいいいいい!!!」