競馬よみもの その55


                           『4月14日(日)PM 2:35』

「決まりましたか?」
その男、カゲヤマと言っただろうか、彼は至極落ち着いた様子で、俺に問いかけてくる。

ノドがカワく。手が震えているのが自分でもわかる。
カゲヤマが言ったとおりだ。「いつもやっている事、慣れている事であるほど、その大事さが身に染みる」
たった2週間、、、そう、たった2週間前の事だ。

                         『3月30日(金)PM 3:45』

43号線を西に向かって走ると、夕日がかなり差し込んでくる。
車のバイザーを下ろしながら、東行きの反対車線を見ると、パトカーが列をなして止まっている。
どうやら、事故のようだ、パトカーに囲まれるように、軽のワゴンと高齢者マークを付けた古いセダンが
ハザードを出して止まっている。
その後ろには、1車線潰されたことでできた渋滞が生き物のように生み出されていく。

あぁ、アレがこっちの車線だったら、あと4件残っている得意先回りは絶望的だな。と思いながら
俺はアクセルを少し強く踏んだ。年度末の神戸の街はその活気を取り戻したかのように混み合い
高速道路は上下線とも20キロの渋滞。コインパーキングは満員御礼の雨あられとなっている。
年度末だから・・・と言えばそうだが、じゃあ普段はこいつらはいったい何をしているんだろう?と
疑問にも思う。そう思いながら、ロイヤルホストの看板を目印に左折ウインカーを出す。高速下の
脇道は路上駐車をしても誰も取り締まりに来ない。ここで残りの得意先3件は一気に徒歩でまわり
残りは三ノ宮の駅前で駐車場を探そう。

いつものように、いつもの得意先回り。最後の1件は駐車場を探すのに苦労して、ようやく16時30分に
ドアをノックすることができた。担当の蒲山さんは旧知の関係で、気心が知れている。終業寸前に来ることも
織り込み済みで、嫌な顔一つせず、事務員にお茶を出すように促してくれる。
もう孫がいてもおかしくない事務員は、この時間の来客にさも迷惑であるとアピールするかのように
洗ったばかりの急須を面倒くさそうにもう一度引っ張り出す。

「で、どうだよ、今週は?」

「ズバリ軸はアルアインでしょう」

「え〜、なんかベタやんかいさ!!」

この事務所を最後の訪問先にしている理由はコレである。特に春と秋のG1シーズンは蒲山さんが
競馬の話題を必ず引っ張り出す。担当になった矢先にコレにあたったときは残り3件の訪問先が
すべて明日に持ち越しになってしまったことがあり、以降は必ず最後の訪問先にするようにしている。
まぁ、月曜の訪問にすれば、大概蒲山さんの競馬熱は落ちており「おれもう競馬辞めようと思うねん」
と言う毎週恒例の「引退宣言」を聞くだけになるのだが…それはそれでかわいそうなのでやっぱり週末
に来れるよう調整をしている。

「1番人気かもしれませんが、個人的には3着付けですね。行儀のよい競馬をするので崩れないですが
逆に勝ちきれない。相手はG1実績のあるスワーヴとペルシアン、あとはダンビュライトでいいんじゃ
ないですかね?」

「俺はダンビュライトが良いと思うのよね〜、それほど上位の馬と差がない競馬しているしなぁ」

「あ、じゃあスワーヴ勝ちですね、『蒲山さんの選ぶ馬の隣を選べ!』は鉄則ですからね(笑)」

「それを言うな〜、お前そればっかり言うて馬券買うから・・・しかもホンマに来るしなぁ」

こうやって、予想の講釈を垂れるだけで蒲山さんは満足なのである。「お前の予想あたるよな!」と
言ってもらえるのはありがたいが、ついでに回してもらえている仕事のほうがありがたい。
とりあえず後は帰社し日報を纏めて、伝票と書類を処理すれば終了。
蒲山さんとの競馬談義で帰社が18時を過ぎても、20時には会社を出ることができるだろう。

年度末とは言え、何もない金曜日。20時に退出したって、寄るところもない。
ただ、家に帰って、土曜と日曜はボ〜っとしているだけ。気が向けば馬券を元町に買いに行くかもしれないが
あわせて買い物なんて考えることもない。4月になって新入社員が来るわけでもない。
平穏と言えば平穏、単調と言えば単調。世の中のほとんどの人がそうなのかもしれないが、
「なにもない普通の人生」がずっと繰り返されている。それはこれからも延々と続くのだろう。。。
そんな事を考えているうちに、事務仕事は終了し、残業なのか雑談なのか分らない作業をしている
先輩社員達を置き去りにして、ノロノロと事務所の階段を下りていく。


事務所の階段を降り、自転車置き場でカギを差し込もうとしたときに、
誰かが近づいてくるのが分かった。
「この時間にこんなところに・・・?」と疑問に思い顔を上げると、初老の男が近づいてきていた。

「あの・・・なにか?」

「木村哲也さんですね、わたくしカゲヤマと申します」
落ち着いた、非常に穏やかな口調でカゲヤマと言う男は話しかけてきた。違和感があったのは穏やかな口調の
わりに表情に笑顔がまったくなかったことだ。

「はぁ、、、なにか御用ですか?」

「突然で申し訳ありませんが、貴方をスカウトしに参りました」

「はぁ?いったい何の??」

「わたくし、芸能プロデューサーの『越沢隆一』の事務所のものです」
差しだしてきた名刺には「OFFICE KOSHIZAWA」と書かれていた。越沢隆一…名前を聞けば
ほとんどの人が「あぁ、あの越沢隆一」と言えるくらいの有名人だ。
10代のころから俳優として活躍し、20代ですでに脚本家に転身。以降、プロデュース業を中心に
事業を展開、プロデュースした芸能人はほぼすべて売れっ子になっている、いわばヒットメーカー。
そのプロデュース方法は独特で、オーディションや公募ではなく、完全スカウト制で、越沢自らが
見込んだ者のみをチョイス。それも、ズブの素人から育て上げる事でも有名だった。

ここまで俺が知っているのも、つい最近情熱大陸でやっていたからだ。
その時は全く芸能活動などしていない16歳の高校生を舞台俳優に育て上げていた。
たった3か月ほどで、見ているこちらが驚くほどの成長を見せていたので印象に残っていた。
それが、まさか俺の目の前に?詐欺?そんなことがチラチラ頭に浮かんでいた。

「越沢が貴方に可能性を見出しました。もし貴方が希望されるなら入所契約をすることができます」

「いや、、、突然そう言われても・・・その、、どこで越沢さんが俺の事知ったんですか?」

「存じ上げません。ただ、越沢はいつも国内の色んな所に出向いております。その中で木村様の
ことも発見されたんだと思います」

「すみません、疑うつもりはないんですが、本当に越沢さんの事務所の方なんですか?」

「こればかりは、事務所に来ていただければわかるんですが、今はこの名刺しか証明するものがありません。
もちろん、不審であれば、お断り頂いても結構です。ちなみにわたくしは正確には越沢の事務所の者では
ありません。わたくしは越沢から直接委託を受けてスカウトをさせていただく代理人のようなものです。
その辺は面倒なので、越沢の事務所の名刺を使っておりますが」

「はぁ、、、困ったな。。。俺何も特技ないですよ、それに今の仕事もあるし」

「えぇ、それも存じております。当方も今すぐどうしても来てほしいというわけではりません。
木村様に来ていただくには越沢の指定する『最終試験』に合格いただく必要がありますので…」

「なんですか?それ?」

「ご存知かどうかわかりませんが、越沢がスカウトをする際に最も重要視しているのは「運」です。
運のない人間は才能があっても輝けません。無論、越沢の眼に叶ったというだけでも相当の運の持ち主
であることは間違いないのですが、最後、ご本人がその運を引き寄せることができるかどうか?そこを
越沢は重要視しています。
ちなみに越沢は「いつもやっている事、慣れている事であるほど、その大事さが身に染みる」と常々申して
おります。慣れている事ほどその重要性が増せば増すほど、想像以上に難しいものになるようです」

「で、その試験ってなんなんですか?」

「それは、その方その方によって違っております。越沢からその方がもっとも得意とするものに関して
テーマが提示されておりますので、それにチャレンジしていただきます」

「はぁ、それってみんなやってるんですか?」

「えぇ、すべからく皆さんそれをチャレンジいただいております。例えば先日テレビに出ていた16歳の少年は
たしか『リフティング100回』でした。あの方はレアルマドリードのユース試験とどちらに行くかを迷われるほど
サッカーが得意だったので。ほかにも、演歌歌手として紅白にもでたM氏は特技のけん玉で試験を受けられ、
変身ヒーローものから有名俳優になったS氏は、特技と言うかなんというか、所謂「ナンパ」が最終試験でした。」

「いやいや、それってなんか、ドッキリみたいなもんなんじゃないですか?これで素人騙してなんか
わけのわかんないことやらせようとか??」

「そう思われるならお断りされても構いません。越沢はそう言ったものも含めてその方の『運』であると
もうしておりますので」

突然こんな事言われて「はいそうですか、頑張ります」って言える人間ってどんな奴なんだろう…
ただ、もし本当なら。。。こんなつまらない生活は終わりを告げる。ただ、試験って何をするんだ?
もしかして途方もない事を要求されるならたまったものではない…まぁ、そんな幸運掴むためなんだから
相当途方もない。。。ハズだが、サッカーでバリバリの少年にリフティング100回はかなりハードル低いだろう…
けん玉とか、ナンパとか・・・どれが難しくてどれが簡単なのかさっぱりわからん。。。
この瞬間に俺の頭の中ではそんなくだらないことがフル回転でまわっていた。

フル回転の割りに、思考はまとまらない、結局口をついてでてきた言葉はこんなつまらない質問だった。

「で、俺何やるんですか?」

「簡単です。再来週の皐月賞の『勝ち馬』を当てていただく・・・とのことです」

「え?競馬っすか??ほかにないんですか?例えば…、、、、え〜、、、」

そうか、俺、競馬以外に何かできる事って特にないんだった…今思えばそうだった。
つまらない人生って思っていたのは、人生がつまらないんじゃなくて、多分、その程度の事しか人生で
やってないからつまらないんだな・・・となんとなく悟った。

「よろしいですか?お受けになりますか?これに合格されたら、越沢のプロデュースにより、木村様の
最も適性のある世界で芸能活動を進めていただく事になります。越沢の過去の「作品」でおわかりと
思いますが、芸能活動と言っても「俳優」「歌手」だけではなく、映画監督や脚本家、カメラマンや美術スタッフ
など、芸能に関わるありとあらゆるポジションが選択肢ですので、方向性は一つではありません。ただ」

「ただ?」

「おそらく木村様が今感じているであろう『つまらない人生』はその瞬間終了いたします」


                          『4月1日(日)PM 4:00』


「3連単17450円、3連単12点でゲットならOKだろ」
アルアイン3着固定の馬券は見事に的中した。G1勝ちのペルシアンナイトが予想以上の低評価だったこと
もあり、所謂「美味しい馬券」になった。たぶん蒲山さんはダンビュライトから行って撃沈してるんだろう…
今頃は「また俺の選んだ馬の隣が〜〜〜〜〜!!と叫んでいる事だろう。。。と
思いながら、最終レースのパドックの映像と、リノリウムに撒き散らされた無数の外れ馬券とマークカードを
交互に見つめながら、元町の駅前に出た。目の前にある第一旭でラーメンとチャーハンに餃子をつける
「勝者です」と言わなくてもわかるくらいの遅めの昼食、、、いや早めの夕食がテーブルに並べられた。
それをかきこむ前に、俺の頭の中にある結論めいたものがよぎっていた。

「これは・・・やれるんじゃないか?」

皐月賞は来週の桜花賞同様、無敗のダノンプレミアムが一番人気で、その勝率は桜花賞のラッキーライラック
より高いと思える。
不確定要素の多い牝馬より、直接対決で負かしている馬が多いダノンプレミアムのほうが堅いだろう。

あの男に出会った夜は、そんな突拍子もない事をできるだろうかと言う不安と、そもそもやっぱり騙されて
るんじゃないか?と言う不安だらけだったが、よくよく考えれば別に大金が必要なわけでもなく、騙されて
いたとしても失うものはほとんどない。むしろ、これが万に一つも真実であった時に得るものが大きいのは
明らかなので、乗らない手はない。それに皐月賞は堅そうだ。。。
ふと横を見ると、並のラーメンだけをすすって、そそくさと出ていく同年代の男の姿があった。
そうか、俺はアイツじゃないんだな・・・なら、この「運」を使わない手はない。


                         『4月6日(金)PM 12:00』


「承知いたしました。では、4月15日の14時頃にご自宅へ参ります。それまでに選択された「勝ち馬」の
単勝馬券を購入いただいておきますようにお願いいたします」

カゲヤマの返答は相変わらず穏やかなものであったが、別に励ますわけでも、盛り上げるわけでもない
かといって、この幸運をつかんだ若者を疎ましく思うものでもなかった。

今日の外回りは心がフワフワとして、イマイチ集中できない。もしかしたらこの仕事もあと1週間程度で
終わってしまうのかもしれない…そう思うとさらに身が入らなくなる。。。どちらにせよ、今考えることは
事務所にあるあのグラフの赤色や青色を一つでも多く塗りたくることではなく、ダノンプレミアムが来ない
可能性と来る可能性の整合性を整える事だけだ。

「おぅ!今日は早いやん!」
蒲山さんは一応的中したそうだだった、そうか、今回は怖くて馬連ボックスも買い辛うじてチャラにしたそうだ。
桜花賞の予想に力が入っている蒲山さんの熱弁は、申し訳ないが頭に入らない。
やっぱり外国人騎手だなんだ、今回はルメールよりデムーロだとかなり熱くなっているが、桜花賞は頭にない。

馬柱はすでに皐月賞しか頭に入っていない。適当に相槌を打っていると、蒲山さんの一言で
現実に引き戻された・・・いや、地獄に叩き落とされた。

「それにしても、皐月はダノンプレミアム回避だから結構難しいよなぁ」

                         『4月8日(日)PM 15:45』

ルメール騎乗、アーモンドアイの鮮やかな差し切りも、何処か違う世界の話のような感じで頭に入ってこない。
「いつもやっている事、慣れている事であるほど、その大事さが身に染みる」
その言葉の意味が少しわかりかけてきた。一番人気が回避した…ただそれだけの事で珍しくもなんともない
ただ、この状況では、それがどれほど大きな事か、それがどれほど難解な事かを身に染みて感じている。

                         『4月13日(金)PM 19:00』

「心配したよ、今週ずっと会社休んでるんだって?まぁ、注文は電話でやってるからいいけど
 なんかあったのか?」

蒲山さんが、俺が来ないことを不審に思って事務所に聞いたそうだ。
事務所には「忌引き」と「体調不良」と伝えこの1週間は休みにしてもらった。
蒲山さんの声を聞くと、深く引きずり込まれた沼の中から、ようやく抜け出して息をついたような気持になる。

「すんません、ちょっとプライベートで色々・・・それはそうと、どうっすか?皐月賞?」

「おう、むしろそっちよ。桜花賞の負け分を取り返さないといかんのでな、ご高説を賜ろうって寸法さ。
で、どうだい本命は?」

「それが、、、わからんのですよね」

「珍しいな、だいたい金曜日には決まってるのにな。まぁ、でも土日が雨だろ?直前じゃないと決まらんわな」

「蒲山さんは、何買うんですか?」

「あれまぁ、俺の買い目なんて聞くことないのに珍しいねぇ。ここは素直にワグネリアンで行くわ
 とりあえずダノンプレミアムいないんだったらコイツだろ?後の要素はゴチャゴチャ考えても
わかんないよな。だいたいどの馬も道悪なんて未経験みたいなもんだし、だったら自分の好きなの買うよ」

「好きなの・・・ですか」

電話を切って、もう一度馬柱を見つめなおす。
確かにそうだ。当てたいのは当てたい。ただ、今までの自分のやってきたことや、見てきたことや感じた事
そう言ったものを無視してただ勝馬を見つけようとしても何も見えなくなるだけだ。

もう一度、整理しよう

@ ダノンプレミアムと対決済みの馬の序列
A ホープフルステークス組の現状の序列
B 未対決路線の馬のレベルと個体能力

まずは@だ。
ダノンプレミアム対戦経験のある馬たちの中で人気になりそうのはワグネリアン。
この馬は、確かに瞬発力があるがスローの経験しかない。これでは道悪多頭数のレースで内枠は不安
弥生賞3着のジャンダルムはどちらのG1馬にも負けたが戦ってきた相手は強い。
道悪が悪い方に向く可能性もあるが、どちらかと言うといい方に向く可能性もある。
サンリヴァルは上位馬との差があるように感じるが、道悪の恩恵を受けるのはこの馬だろう
ステルヴィオは朝日杯での敗戦は展開の向き不向きのレベルだろう。あとは未経験の2000が課題か?
先週のアーモンドアイも距離は問題ないと言われているがベストパフォーマンスは1600なのは間違いない

Aに関しては、現状ではジャンダルムが頭一つ出ている。タイムフライヤーは皐月賞1枠にトニービンの
血を持つ馬が入ると出遅れて凡走するという呪いの通り行けば出遅れるはず。

B未対決ではキタノコマンドールが人気だがスローの経験だけでは買えない
オウケンムーンは非サンデー系で、共同通信杯勝馬という事で人気をしているが、
例年に比べてやや見劣るレベル。さらに小回り適性があると思えない血統構成

そうなると、やはり軸となるのは@から。さらに未対決組の多いスプリングSで結果を出しているステルヴィオ
そして、弥生賞からの巻き返し可能なジャンダルムあたりか…
大雨が降って馬場がぐちゃぐちゃなら、ルーラーシップ産駒のサンリヴァルが強気に前々で進めることもあり
さらに中山適性を見るとステイゴールド+ロージズインメイ+ブライアンズタイムのマイネルファンロンは
大穴の可能性もあるが連下というところか・・・

三連複あたりならすんなり馬券として絵を描けそうな気がしてきた…あとは

自分の好きなのを選ぶだけだ。。。

                         『4月15日(日)PM 2:35』

「決まりましたか?」
その男、カゲヤマと言っただろうか、彼は至極落ち着いた様子で、俺に問いかけてくる。

ノドがカワく。手が震えているのが自分でもわかる。
カゲヤマが言ったとおりだ。「いつもやっている事、慣れている事であるほど、その大事さが身に染みる」
たった2週間、、、そう、たった2週間前の事だ。

いつものように、好きなのを・・・選ぶだけ。


「この馬です」

持っている単勝馬券は小刻みに震えている。この紙切れが人生を変える切符になるか、
それとも文字通りのただの紙切れになるかは、あと1時間でわかる。。。

「そうですか、、、よろしいですね」

「はい」

「では、あとはテレビで結果をご覧になってください。我々はその馬券を頂いて、結果が判明し
最終試験に合格の場合は再度こちらに伺います」

「わかりました」

「最後に、つかぬ事を伺いますが…この馬を選ばれた理由は何ですか?」

「理由・・・ですか?それは・・・まぁ、何というか・・・簡単な事なんですが…」

「ジャンダルムと言うのはたしかアイガーの絶壁の名前ですね、武豊騎手と言うのも私も存じておりますが
そのあたりが理由ですか?」

「いえ、そうじゃないです。その・・・隣なんです」

「隣?」

「ええ、隣にワグネリアンと言う馬がいるので。。。それが理由です」

手の震えが、少し止まった気がした。発想まで1時間を切った。



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