装画 榎俊幸  カバー 牧野鈴子
(単行本)          (文庫本)

『時を青く染めて』(新潮社、新潮文庫)
1990年4月新潮社から刊行。
著者初の書き下ろし長編小説。
著者の作品の中で唯一函入り装丁の本として上梓されていることからも
著者の並々ならない思いが伝わってくる。
作品としてもこの作品の頃から「恋愛」にテーマを絞った作風が確立してくる。
「『その細き道』で、作家として出発して以来、
十年近い年月が経った。その後(中略)『その細き道』の主人公たちは、
いつも心の底で生き続けていた。
(中略)この作品は、続編ではないが、
二十年後の彼らを描いたものである。」と著者が語るように
、『その細き道』で描かれた恋愛と友情が、
20年の歳月を経た時の物語として描かれている。


            装画 ヘンリ・マティス  装画 田中一村
(単行本)             (文庫本)

『ブラックノディが棲む部屋』(文藝春秋社、文春文庫)
1990年10月文藝春秋社から刊行された短編集。
著者の趣味でもあるダイビングを題材に取った表題作の他に、
『花標』『海の神様』『白隠』『蛍の晩夏』が収められている。
単行本のマティスのシンプルな装画も、
表題作を見事に具現したと思われたが、
文庫本の一村のカバーも美しいく、
どちらがいいかは好みの分かれるところか。


           装画 山内和則   カバー写真 篠山紀信
(単行本) 装丁 菊地信義    (文庫本)


『霧の子午線』(中央公論社、中公文庫)

1990年11月中央公論社より刊行された長編小説。
自ら全共闘世代ということもある著者らしい
、学園紛争の最中に出会った一人の男と女二人の物語。
しかし三角関係の物語というよりは、
女同士の友情の物語といってよい内容に仕上がっている。
1996年に出目昌伸監督、
岩下志麻、吉永小百合の二大女優共演の映画として公開された。


          装画 山本容子 カバー装丁 宇野亜喜良
(単行本) 装丁 阪川栄治    (文庫本)   

『哀歌は流れる』(新潮社、新潮文庫)
1991年1月新潮社から刊行された連作短編集。
『小説新潮』の'88年11月号「十四年目のイヤリング」、
'89年2月号「岸辺の家」(改題)、'89年6月号「菊五郎の首輪」、
'89年9月号「画家の庭」、'90年1月号「冷たい猫」、
'90年3月号「生命(いのち)の雫」がそれぞれ掲載された。


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     (単行本)      (文庫本)

『サザンスコール』(日本経済新聞社、新潮文庫)
1991年6月日本経済新聞社より初の上下巻本として刊行。
著者二作目の新聞連載小説。
1990年3月26日〜1991年5月2日日本経済新聞夕刊に連載された。
日経読者を意識してか、
男の盛りを過ぎたことを味わい始めた主人公隆三に、
謎めいた美少女耀子と彼女の織る宮古上布の謎がサスペンス色を高め、
ミステリーとしても読みごたえのある作品に仕上がっている。


   写真 ルイス・ティファニー  now printing
(単行本)  装丁 坂田政則      (文庫本)

『フラッシュバック〜私の真昼』(文藝春秋社、文春文庫)
1991年文藝春秋社から刊行された二冊目のエッセイ集。
'87年〜90年の各誌に発表したエッセイが収録されている。


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(単行本)  (文庫本)

『白い光の午後』(文藝春秋社、文春文庫)
1992年2月文藝春秋社から刊行された。
1991年『文学界』10月号に原稿用紙200枚の中長編作品として掲載される。
現実と狂気のあわいの中で、
うたかたの関係を築いていく男と女の物語。
読む者までもその危うい境界に引き込まれるような錯覚を覚えさせられる、
不思議な味わいの恋愛小説。


   装画 菅野研一   now printing
    (単行本) 装丁 成田郁弘     (文庫本)       

『これは懺悔ではなく』(講談社、講談社文庫)
1992年5月講談社から刊行された短編集。
'87から92年までにかかれた作品がまとめられている。
『これは懺悔ではなく』(群像'92年2月号)、
『トマトの樹を焼く』(群像'88年11月号)、
『パラパラザザザー』(すばる'91年1月号)、
『風邪の白刃』(すばる'90年1月号)、
『月への翼』(群像'87年2月号)が収録されている。
表題作は後に描かれる『熱』の前身的作品かとも思われる。


           装画 宇野亜喜良 装画 JANSEM JEAN
(単行本)           (文庫本)         

『彩雲の峰』(福武書店:現ベネッセコーポレーション)、新潮文庫)

1992年9月福武書店より刊行された長編小説。
『カルディエ』('91年5月号〜'92年4月号)まで連載された。
八ヶ岳の美しく移りゆく自然を舞台に、
主人公静香と少女蛍の交錯する愛情を描く。
蛍の張りつめた心が、
そのまま働いて作品の緊張感を高めてゆき、
哀切の余韻を残す物語に仕上がっている。


 装画 安久利徳  now printing
(単行本)  AD 上野和子    (文庫本)

『湖底の森』(文藝春秋社、文春文庫)
1993年2月文藝春秋社より刊行された、
八編からなる短編集。
表題作(別冊文藝春秋'92年200号)他
『霧の花』(オール読物'89年11月号)、
『紅葉谷』(オール読物'91年11月号)、
『晩秋』(オール読物'90年11月号)、
『霧のそこ』(別冊文藝春秋'91年194号)、
『飛花まぼろし』(オール読物'91年5月号)、
『スイカズラの誘惑』(オール読物'90年6月号)、
『午後のメロン』(オール読物'89年4月号)収録。


 装画 竹内浩一 now printing
(単行本) 装丁 菊地信義  (文庫本)

『氷炎』(講談社、講談社文庫)
1993年5月講談社より刊行された長編恋愛小説。
『マダム』'91年8月号〜'93年3月号に連載された。
京都洛北を舞台に20年の歳月を経て再会した男と女の物語。
それぞれの家族を崩壊へと誘う再会であったにもかかわらず、
なお惹き合う二人の行く末が心に迫る秀作。
東海放送系で昼の連続ドラマとしてテレビドラマ化され、
主演を小川知子が務めた。


 装画 竹内浩一 now printing
(単行本) 装丁 菊地信義  (文庫本)

『銀河の雫』(文藝春秋社、文春文庫)
1993年9月文藝春秋社から刊行された長編小説。
'92年1月4日〜'93年2月27日「西日本新聞」「中日新聞」
「東京新聞」「北海道新聞」「神戸新聞」
「河北新報」の夕刊に連載された新聞小説をまとめたものである。
主人公45歳のバイオリニスト鏡子と、
53歳のTV局長一草の恋愛、
鏡子の同い年の医師の夫の公憲と、
一草の娘で28歳の水泳インストラクターの万里子の恋愛。
二つの恋愛が、一草の妻に事故を起こして死なせた男の
不思議な力を宿した祖母の登場で、
恋愛への昂ぶりと苦悩と焦燥の不協和音が、
不思議な再生、癒しを奏でるシンフォニーのようになりながら物語が進んで行く。


   装画 奥村光正 now printing
(単行本) 装丁 菊地信義  (文庫本)

『熱』(文藝春秋社、文春文庫)
1994年5月文藝春秋70周年記念書下ろし作品として刊行された長編小説。
著者二作目の書下ろしとなる。
主人公「わたし」は、
かつて不倫で別の若い女に子供を身ごもらせた
別れた夫と不倫するというパラドックス的な恋愛関係が展開する。
このパラドックス的な物語の仕掛けが、
心苦しい閉塞感を覚えさせられる恋愛小説。
『氷炎』の氷見子の延長線上に、
この物語の主人公があるように感じられるが、
もっと理知的で冷静な目をもっているゆえに、
淡々とした哀しみが描かれている。


     装画 竹内浩一 
(単行本)   (文庫本) 装丁 菊地義信 

『蔦燃』(講談社、講談社文庫)
1994年講談社より刊行された長編小説。
同作品は島清(しませ)恋愛文学賞初代受賞作となる。
『ラ・セーヌ』'93年1月号〜'94年3月号に連載された、
『蔦の沈黙』が改題されて『蔦燃』となった。
何不自由なく暮らしていた真砂子の前に、
突然現れた夫の異母兄弟の末次郎。
末次郎の抱える闇の部分に触れ、
次第に惹かれていく真砂子。
物語は二重三重の禁忌が用意されていて、
ラストまで一気に緊張感が高まって行く。