映画の中のちょっと話



1.ある朝カリンのみていたテレビ番組

 ある朝、娘のカリンがテレビをみながら朝食をとっていたが、レイがテレビを消してしまう。

「面白かったのに。」
「面白くないよ。あいつは変人なんだ。」

 カリンが見ていたのは、ジェームズ・スチュワート(James Stewart)主演の「ハーヴェイ」という1950年のアメリカ映画。

 祖母の遺産でのんびりとした毎日を送るエルウッド(J・スチュワート)。 彼は身長6フィート(約190cm)の巨大な空想のウサギ"ハー ヴェイ"を連れ回し、相手構わず他人に姿の見えないこのウサギを紹介していた。弟の奇怪な行動が娘の縁談に影響するのではないかと恐れた姉のヴィータは、エルウッドを精神病院に入れようとする。しかし、病院の医師や看護婦たちはエルウッドの純真さの虜となり、彼らも巨大ウサギを見るようになってしまう・・・

 この映画、「フィールド・オブ・ドリームス」の源流になったのではないかと思われます。他人には"みえないもの"を信じる人がいる。その人の純真さに引かれて、いつの間にか周りの人々にその"みえないもの"が見えるようになり、その輪がどんどん広がっていく。

 このシーンは、レイがとうもろこし畑できいた"声"をまだいぶかしがっている時のことです。レイは「あいつは変人なんだ。」と切り捨てますが、この後、レイ自身がエルウッドになり、次々と"ハーヴェイ"の輪が広がることになります。このシーンはそれを暗示しているのです。

 ちなみに、ジェームズ・スチュワートは、『素晴らしき哉、人生!』('46)やヒッチコック監督の『裏窓』('54)、『知りすぎていた男』('56)、『めまい』('58)などに出演し、実生活でも、誠実で正義感が強く家族を思いやる映画の役柄そのままの好人物として知られ、「アメリカの良心」とまで呼ばれた名優です。



カリンのみていた映画「ハーヴェイ」

「ハーヴェイ」のジェームズ・スチュワート

若かりし日のジェームズ・スチュワート
2.レイ・リオッタは野球初心者

 冷めた目で映画をみていると、映画のシューレス・ジョーは野球が下手だ。
 レフトの守備は何とかみれるが、シューレス・ジョーのバッティングフォームはなっちゃいない。(ついでにいうと、レイとキャッチボールする父親ジョンはもっとぎこちない。)

 じつは、シューレス・ジョー役のレイ・リオッタは、この映画に出演するまで野球をするのは20年間ぶりだったそうです。
 撮影までに猛特訓して、なんとかヒットが打てるぐらいには上達したらしいが、撮影後のインタビューで「野球は苦手だ。」と告白している。
 おまけに、本物のシューレス・ジョ−は、右投げ左打ちであったのにレイ・リオッタは左投げ右打ち。
 それでもリオッタを起用したのは、すべては彼のもつ独特の視線のようだ。

 何かを悟ったような視線、彼の人の内面まで見透かすような視線、これがシューレス・ジョー役にぴったりだったのではないかとおもう。
 ジョーは答えを分かっているのに、レイには最後までいわない・・・
 映画の中で果たす彼の夢前案内人のような役割は、あの独特の視線があるから可能になったともいえます。



レイ・リオッタの素顔 かなりイメージが違う

バッティングフォーム
3.アニー役のエイミー・マディガン

 映画ファンにとって、彼女の名前を聞いて思い出すのは、 ダイアン・レインとマイケル・パレが主演した映画「ストリート・オブ・ファイアー」での女戦士マッコイでしょう。

 「ストリート・・・」でみせる、マディガンのふっくらして男顔負けの豪快な口ぶりは、「フィールド・・・」のアニーとは、まったく似つかないもの。
 「フィールド・オブ・ドリームス」の前に「ストリート・オブ・ファイアー」を見ていた私には、あのマッコイとアニーが同一女優が演じているとは、すぐに分かりませんでした。
 およそ女優らしくない顔立ち、もっといえば特徴のない顔立ちが、この映画におけるアニー役にはぴったりだったと思います。

 ちなみに、私生活での彼女の夫はあのエド・ハリス。
 『トゥーマンショー』('98)のディレクター、クリストフ役、『アポロ13』('95)のNASAの打ち上げ責任者ジーン・クランツ役、そして最近では『ポロック』('00)で主演と監督をしている大スターで、いまさら語るまでもないでしょう。妻のエイミー・マディガンとは『ポロック』を始め数多くの映画で共演しています。



映画の中のエイミー・マディガン
エド・ハリスとのツーショット
4.ラストシーンでの車の列

 ラストシーンでみる野球場に向かう自動車の長い列。
 これは、地元の人達に協力してもらって数百台の車を並べたものです。
 これだけの台数の車を本当に野球場に向かって動かすと、撮り直しが利かないばかりか、駐車スペースが本当に足りなる。そこで、並んだ車にはヘッドライトを点滅してもらうことで、"動き"をだしています。

 このシーンは原作にはなく、映画のオリジナルで、監督フィル・ロビンソンのアイディアといいます。

 このシーンには賛否両論あるようですが、私はレイのフィールド・オブ・ドリームスが、すべての人々のフィールド・オブ・ドリームスに広がっていくことを表現していて、物語のエンディングとしては、とても分かりやすく印象的だと思っています。



映画のラストシーン
5.レイ・キンセラの家

 映画ではレイの家の中のシーンがかなり出てきますが、よくみてみると農家としては、少し変わったインテリアをしています。

 まず、部屋の間仕切壁がほとんどありません。2階などは映画のシーンでは、レイとアニーの寝室とカリンの寝室の二部屋があるはずなのに、階段を上がると広い部屋が広がっています。
 撮影のしやすさを考えて、仕切り壁を取り払ったようなのです。

 また、農民の家らしい薪の暖炉やキルトにまじって、玄関の横にアンディ・ウォーホルのマリリン・モンローのポスターやジョン・レノンの写真がかざってあります。1960年代の先端を生きた夫婦なので、その名残を感じさせるもので、それなりに納得も出来てしまいます。



6.とうもろこし畑の苦労

 レイのトウモロコシ畑は実際の畑を映画撮影のために借りたかしたそうですが、その場所の選定にはかなり苦労したようです。
 周辺に家が見えず、裕福な大型サイロ設備のない農家で、野球場を作れるほどの平地はあるが家は少し小高い場所にある場所を探した結果、映画に映るこの場所が選ばれたようです。

 そこに、わざわざトウモロコシの種を植えて栽培して、撮影に備えたというのです。

 レイが最初に声を聞くシーンは、トウモロコシがレイの肩の高さの150cm程度にしたかったため、4月に種をまき、6月半ばにその大きさになる予定で、そこまで育つまでは、後のシーンを撮ることにしていたそうです。  しかし、その年は30年ぶりの干ばつで、トウモロコシが予定通り大きくならず、一方で、8月15日を過ぎればケヴィンには次の映画「リベンジ」の撮影が始まるため、撮影期日(8月半ば)は決められている。スタッフはトウモロコシの育成状況には、相当頭を痛めたようです。

 また、野球場はわずか二日でつくったといいます。ただし、芝の生育には間に合わなかったため、生育当初の芝に着色して、撮影に間に合わせたのだといいます。
なんとも、映画撮影は大変なのです。



この肩の高さが目標だった

現在の野球場の姿
7.ロケ地の街

 ロケはすべてアイオワ州のドビュークという町で行われました。
 そこは、シュールなほど古めかしくロケ地にはうってつけの街だそうで、ドク・グラハムの住んだミネソタ州チゾムの街も、テレンス・マンを訪ねたシカゴの町も、そして、テレンス・マンの仕事場も地元PTA集会の体育館も、すべてこの街とその周辺で撮影されたのだそうです。
 すっかりだまされてしまいました。




ドビュークの街
8.映画広告のポスター

 この映画は世界中で公開されたのですが、その宣伝ポスターにはそれぞれのお国柄がでているようです。

 アメリカでは、ケヴィン・コスナー本人を前面に打出したとても明るい感じの仕上がりで、ここから受けるイメージはケヴィンのコメディ映画のようです。
 ヨーロッパのそれは、とても神秘的なものを感じるもので、私には少しジメジメしたイメージが残ります。
 やはり日本人の私には、日本のポスターが一番イメージに合っているように思えます。さわやかで、家族愛が感じられるのは私だけではないはずです。

でも、ロビンソン監督はポスターに書かれていた文言が気に入らなかったようです。
  *****
レイ・キンセラ、36歳
不思議な"声"に導かれ
アイオワのとうもろこし畑を
吹き渡る風の中で
彼は21歳の父に出会った・・・
  *****
この映画の最大の"オチ"である、レイの父親との出会いをばらしているためです。



アメリカのポスター
.
ヨーロッパ(左)と日本(右)のポスター
9.ついでに製作者、監督、原作者

制作 ラリー・ゴードン

 20世紀フォックスの社長として「コクーン」「エイリアン2」などのヒットを飛ばし、独立後も「ダイハード」「リーサルウェポン2」等を作成した辣腕の大物プロデューサー。
 映画においても原作通りJ・D・サリンジャーを劇中に登場させようとしたが、代理の弁護士を通して、「映画では自分の名前は使わせない。プライバシーの侵害だ。」といわれたそうな・・・


監督 フィル・ロビンソン

 原作「シューレス・ジョー」に惚れ込み、脚本も書いている。  この映画が監督2本目になり、初監督作品は「ウーウーキッド」という映画で興行的には大失敗している。
 「さよならゲーム」という野球をテーマにした映画を撮り終えた直後で、人気上昇中のケヴィン・コスナーが、こんな無名監督の映画に出演してくれるかどうか、とても不安だったそうだ。


原作 W.P.キンセラ

この映画の原作「シューレス・ジョー」の作者。
正直言って、小説を読んだときのイメージとはかなり違う・・・
彼の著作に「アイオワ野球連盟」というのがあり、これは「シューレス・ジョー」以上の野球ファンタジー小説だそうです。



制作 ラリー・ゴードン

監督 フィル・ロビンソン

原作 W.P.キンセラ





トップ に もどる