第181回国会 質問主意書

                    (20130310)




 加藤修一参議院議員により、二つの質問主意書が第181回国会で提出された。
一つは「低周波音による健康被害の防止に関する質問主意書」(37号)(2012年11月12日)であり、一つは、「低周波音の健康被害対策に関する質問主意書」(63号)(2012年11月16日)である。
 エコキュートの低周波音問題は2010年のNHK報道をはじめとして、2011年から各地ではじまった訴訟や消費者庁事故調の調査対象選定(2012年11月)などを通じて、世間に徐々に知られるようになってきているが、エネファームはまだ販売数も少なく、その低周波音問題については、建築ジャーナルに掲載されたとはいえ、いまだ一般的な周知に至っていない。ゆえに、第63号質問主意書でエネファームが言及されたことは、エネファーム問題にとって、大きな一歩となった。
 また、エコキュート、エネファームのみならず、エコウィルや床暖房器(ヒートポンプ式温水床暖房)も、この問題とは無縁ではなく、低周波音を発生させる家庭用製品として同様に考えられるべきであると思われる。

 さて、63号質問主意書に対して、政府から出された答弁書であるが、次の3点について疑問を抱く。
  @ 「指摘の機器について低周波音に関する苦情があることは承知しているが、一般環境で観測されるような低周波音の領域では、人間に対する生理的な影響は現時点では明らかとはなっていないため、政府においては、低周波音による影響について、今後とも最新の科学的知見等の収集に努めてまいりたい。」
 
  「人間に対する生理的な影響は現時点では明らかとはなっていない故、科学的知見の収集に努める」この言葉は、37号や63号答弁書だけではなく、過去にも(1980年前後から)何度も同じ言葉が使われてきた。現に被害に苦しむ人々が存在し、被害現場を離れれば速やかに症状は消失する事実がある。それがわかっていながら、長年、研究が放置され、依然として因果関係は不明とされている。裁判においても、この科学的因果関係を被害者が立証する必要があるが、そのようなことがはたして一市民に可能だろうか。また、政府がすべきことは、苦しむ被害者を前に、科学的知見の収集に努めることではないはずである。科学的知見の収集に一体何年かけるつもりなのだろう。
 また、十分な科学的知見がなく、また因果関係がないとは言えぬ状況では、少なくとも予防原則の見地から判断すべきではないか。エコキュートでは、参照値以下の低周波音による被害の事実があり、同様に低周波音を発生させるエネファーム・エコウィルでも、同様な被害が起こっているという事実を認めて、被害の拡散を防ぐ手立てを講じてほしい。

A 今後、業界団体に対して、エネファームの低周波音に関する苦情が寄せられた場合には、状況を調査し、必要があれば、騒音の測定や吸音材の取り付け等の対応を取るよう指導してまいりたい。
 
 エネファームの低周波音に関する苦情が寄せられた場合において、低周波音ではなく、なぜ、騒音の測定をするのだろうか。被害をもたらすのは騒音ではなく低周波音であり、業界のみならず、政府まで、騒音と低周波音を混同したような回答である。2012年9月号建築ジャーナル記事には、業者が吸音材の取り付けなど、どのような対策をとろうとも問題解消とはならなかった。そのために問題がこじれ、近隣関係も悪化しているが、政府がいまだにその事実を確認しようとせず、吸音材の取り付け等の対応を取るよう指導するなどというのはいかがなものか。消費者庁事故調にはエネファームやエコウィルの事故調査の申請が複数あるはずだが、早急に事故調査の対象にすべきである。

 B これは経済協力開発機構(OECD)加盟国のうち、デンマーク、ドイツ、オランダ、ポーランド、スウェーデン、アメリカにおいては、住宅における低周波音に関して推奨される基準等が定められており、ポーランドにおいては、職場における低周波音に関する規制基準がさだめられていると承知している。台湾においては、工場棟における低周波音に関する規制基準が定められていると承知しているが、我が国においては、一般環境で観測されるような低周波音の領域では、人間に対する生理的な影響は現時点では、明らかとはなっていないことから、低周波音に関する規制基準は定めていない。
 
 OECD34か国のうち6か国に住宅における低周波音の規制基準があり、ポーランドには住宅・職場に、また、台湾(OECD加盟国ではなく参加国)には、工場における規制基準がある。
 これらの国々では、低周波音は生理的影響を及ぼすという科学的知見があるからこそ、規制基準を定めているはずであるが、同じ人間であるにも関わらず、日本人には、生理的影響が明らかではないという理由で、規制基準は定めず、被害そのものも積極的には認めようとしない。欧米の科学的知見は、日本人にとって、科学的知見にはならないのだろうか。あるいは日本は自前で研究ができない国なのか? 科学技術大国ではなかった? 人権を軽視する国なのか?

 日本では、質問主意書に対する答弁書は、主意書が提出されてから、7日以内に作成されるようだが、おざなりな答弁書を出しても無益である。一週間といわず、時間をかけ、しっかりと検討して、問題点を抽出し、質問主意書が有益なものとして機能することを願いたい。


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