第167回公害教室最終章 「汐見文隆氏を偲ぶ会」

2016年11月3日



 
 11月3日、和歌山勤労総合センター6Fで、第167回公害教室最終章「汐見文隆氏を偲ぶ会」が行われました。160人収容のホールは、ほぼ満席状態で、北海道や九州、東京、関西近辺からも多くの方が来られていました。そして、公害教室の講師であった大学の先生や研究者、市民運動に関わった方々、10人が汐見先生との出会いや思い出などをお話しをされ、興味深く聞かせていただきました。
 
公害教室”最後の授業。
汐見文隆さん「偲ぶ会」
映像と遺稿集で振り返る
汐見文隆さん「しのぶ会」
に100人
 

 本当に汐見先生は「デパート」と評されるくらい、多岐に渡る分野で活動され、お集まりの方々もいろいろな方面でご活躍されており、公害教室で取り上げたテーマの広さをうかがわせるものでありました。私が先生にお会いしたのは、先生の最晩年で、おそらく、先生の薫陶を受けた期間も一番短いと思いますが、先生のライフワークであった低周波音被害の被害者本人として、私もスピーチする機会をいただきました。以下、スピーチ内容です。

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 NPO法人STOP低周波音被害のHです。NPOのメンバーはほとんどが家庭用機器による被害です。まず私の被害についてお話しさせていただきます。

 私は、低周波音により自宅を離れ、今、避難生活6年目です。そして自宅に戻るために、大阪地裁で裁判をしております。

低周波音の音源はエネファームというコージェネタイプのガス給湯器です。これは、発電して、その排熱で湯を作るという一見、理想的な給湯器ですが、これが隣家に(当方の寝室やリビングのすぐ近くに)設置され、124時間の連続稼働が始まってから私は不眠や体調不良となりました。2か月半で、体重7kgの減少という症状の厳しいものです。低周波音は誰にでもわかる騒音とは異なり、煩いものではありません。当初、なぜ、こんな音で大騒ぎするのかと夫も不思議がっていました。皆様ご存じのように、低周波音の感受性は個人差が大きく、症状の出る人、出ない人がいます。ですから、周囲に理解をしてもらうのは難しく、特に機器を所有する隣家には当方の苦情は受け入れがたいものとなります。
 問題を解決するにはどうしたらよいのか、
 神戸市環境局や法律相談、生活相談に出向き、また、弁護士さんも何軒か行きましたが、まったく何の助言も得られず、絶望が増していくばかりでした。

そのような暗中模索の、苦悩の時期に汐見先生の著作に出会い、汐見先生にお会いすることができました。20118月のことです。

汐見氏は私の話を親身になって聞いてくださり、データを見て私の問題が低周波音被害によるものだと断言され、「自前でデータをとるように」と、高価な機械を初対面の私に貸してくださいました。そして、その2週間後、先生から手紙を頂きました。その1節をご紹介いたします。 

「予想されるこの悲惨な国の未来、さらには低周波音地獄化するであろうこの地球の未来をふせげる者は、不幸な先駆者である低周波音被害者しかありません。それは低周波音被害者になった者に与えられた人間としての使命です。堂々と自分の感覚を正直に主張することは自分のためだけではなく、人類の幸福をまもることになります。同時にそれは自分の不幸を理解してもらう唯一の手段でもあります。」(注これは”低周波音過敏症(低周波音被害)を考える”の中にある1節です。2011年9月発表)

 この言葉によって、私は解決困難なこの問題から逃げるのではなく、真正面から向き合う決心をしました。HPを立ち上げ、同じ被害に苦しむ仲間を見つけ、仲間とともにNPO法人を設立しました。

今、住宅地にはエコキュート、エネファームなど大きな貯湯タンクをもつ給湯器、さらに太陽光発電、床暖房、エアコン、24時間換気と多くの機器が家を取り囲み、長時間稼働して、低周波音を発生させています。汐見氏の仰ったように、低周波音地獄がすでに一部の人には始まっています。安全な場所を求めて、転々と引っ越しをしている被害者もいます。幸運にも今、被害に縁のない方も、いつこの災難が降りかかってくるかもしれませんし、また、知らず知らずのうちに、自宅が加害源となっているかもしれません。 

私たちNPOは被害未然防止、被害の解決のためには世間周知が必要と考え、活動しています。その活動の成果も徐々に表れ、メディアにも取り上げられ、いくつかの自治体のHPや広報にも「機器の設置の際には、近隣へ配慮するように」と記載されるようになってきました。このような世間周知が徹底すれば、当方のように裁判に至らずとも、円満に解決に至り、また被害の多くは防げるかもしれません。

 汐見先生が生涯をかけて取り組まれたこの問題に皆様がたにも関心を持っていただき、ご支援していただきたいと思います。宜しくお願いいたします。

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 11月4日、「低周波音被害をおって」(寿朗社)という本が先生の遺稿として出版されます。
 また、当日の参加者には、「医師汐見文隆の行跡」という表題の本が配布されました。立派な装丁の貴重なものです。