解説   湯 谷


 平の宗盛は、遠江の国の池田の宿の、湯谷という女を、手元に置いていました。
 その湯谷の母は、病床にあって、娘を呼び戻すために、朝顔という侍女に手紙を届けさせました。湯谷はその手紙を、宗盛に見せて暇乞いをしますが、宗盛は、この春の花見の供のためと言って暇をくれず、却って花見車を仕立て、力 なく従う湯谷を連れて、清水へ花見に行きました。
道中の風景を眺めながら、車を進めて、清水に着きました。湯谷は観世音に詣で、母親の無事を祈念しました。
 花見の宴席にて湯谷は、宗盛に酒を勧めます。宗盛は、湯谷に舞を所望します。湯谷が舞い始めますと、途中で村雨が降ってきて、花を散らしました。湯谷は舞をやめて、和歌を一首詠み、短冊に書いて、宗盛に見せました。
 その和歌の心に打たれた宗盛は、即刻湯谷に暇を与えました。湯谷は母親の待つ故郷へ、その場から帰って行きました。

喜多流以外は「熊野」と書きます。


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