解説   巴


 木曽の僧が都へ上る途中、近江の国粟津の原(滋賀県大津市)で、一人の女性が神前で、涙を流しながら拝んでいるのを見て、不思議に思い尋ねますと、女性は、木曽義仲を祀った社であると教え、僧に同所の縁を持って回向を進め、自分もまた亡者であると言い捨て、姿は消え失せました。
旅僧が義仲の菩提を弔ってますと、先刻の女性が武装して現れました。「私は巴という女武者です」と名乗って、義仲が信濃の国より上京し、粟津の原で敗れ、自害をするまでのこと、また、その形見を持って、巴が一人で泣く泣く木曽に帰った有様を語り、再現して見せ、後を弔ってくれと頼むのでした。
 「巴」は、修羅物の中でただ一曲、女性をシテに扱った曲です。前シテの里女の姿、後シテの女武者の姿、最後の武具を捨て木曽に帰る姿と、その変化の中に、巴の女としての心情を、見せてくれます。


解説目次へ     展示室TOPへ     平成13年1月1日更新