解  説   錦  木 (にしきぎ)


 諸国行脚の僧(ワキ)が、陸奥の狭布(きょう)の里に着き、里人の集まる市に行きますと、夫婦と思われる男女(前シテとツレ)が、珍しい物を持ってました。女性の持つ物は、鳥の羽で織ったと思われる巾の狭い布でした。男性の持つ物は、錦で飾った木の枝でした。僧はその二人にそれぞれについて謂われを尋ねました。幅の狭い布は、古歌にも詠ぜられていることを、また錦木は、男女の仲を取り持つ物であると教え、想う女性の家に錦木を立てても、女性が取り入れないので、三年以上も立て続けた男性を葬った錦塚のことを語り、夫婦は僧を錦塚へ誘い、姿を消しました。
 僧は哀れに思い、夫婦を弔っていますと、男女の霊(後シテとツレ)が現れ、昔を再現して僧に見せます。塚は女性の家となり、女性はその中で布を織ります。男性は趣向を凝らして飾った錦木を、女性の家に運びます。しかし、三年の月日が流れても、この想いが遂げられなかったのですが、今宵の僧の弔いによって成就し、夫婦の盃を交わすことが出来たと云って喜びの舞を舞います。やがて夜明けになって、野原の虫の音と共に消え去りました。


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