解説   六 浦


京都の僧が、東国修行の途中で、相模の国(現在は武蔵)六浦の称名寺に着きました。付近の山々は紅葉の最中で、見事な眺めでしたが、何故かその寺の本堂の前にある、楓の樹は紅葉をしていませんでした。不思議に思って休んでいると、女性が一人近づいて来ましたので、そのわけを聞きました。
 昔、鎌倉から中納言為すけがこの寺の紅葉を見に来た時、時期が早くて山の楓は、まだ見頃になっていなかったのですが、この本堂の楓だけが、紅葉して見事だったので、為相は、「如何にしてこの一本に時雨けん、山に先立つ庭の紅葉葉」と和歌を一首詠みました。それ以来、この樹は紅葉をしなくなったのでした。実はこの女性は、この樹の精でした。僧に供養を頼んで、姿を消しました。
 僧は、女性の頼みに従い、御経を読んでいますと、先刻の女性が現れ、四季折々の草木の有様を語り聞かせて、更け行く月に夜遊の舞いを舞って見せ、明け行くままに、姿は陽炎となりました。


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