解説   熊坂


 京都より東国へ下る僧(ワキ)が居ました。美濃の国青野が原を通り過ぎる途中で、僧形の者(前シテ)に出会いました。
 その者は、今日は或る人の命日なので、回向して通るように云いますが、その故人が何者であるかは告げません。導かれて持仏堂に入りますと、仏像などはなくて、大薙刀や兵具が壁に立て並べられています。驚き怪しんで訳を訊きますと、この辺は盗賊が多く、通行の人々がその難に逢うことがよくあって、そのような時には、自分も薙刀を持って、駆けつけることがあるのだと答えました。
 夜になって、寝室に入って行くかと見えましたが、そのまま姿もお堂も消えて、旅僧は松蔭の草の上に座っていました。
 旅僧は、夜が更けても読経をしていますと、熊坂の長範の霊(後シテ)が現れて、この赤坂の宿で、牛若丸に討たれた昔を語り聞かせ、弔いを頼んで、夜明けと共に消え失せました。


解説目次へ    展示室TOPへ    平成13年1月1日更新