解説   花月


 筑紫の英彦山の麓に住む、左衛門という人は、男の子を持っていましたが、その子が七歳の時に、行方不明となりました。その悲しさから出家して僧となり、諸国を行脚して、春の頃、清水寺にやって参りました。
 そのころ、清水寺の辺りに、人々から花月と呼ばれている少年がいました。いつも、清水寺の境内にやってきては、当時の流行歌の小唄「恋は曲者」を謡ったり、又は、鶯が花を踏み散らかすからと云って、弓矢で射ようとしたり、さらには、清水寺の縁起を曲舞にして、舞い謡い聞かせたりします。
 筑紫の僧が、その少年をよくよく見ると、疑いもなく我が子です。早速に名乗って、再会を喜び合いました。
 花月は、人々との名残を惜しみ、鞨鼓を打って、七歳の時、英彦山の天狗にさらわれ、諸国を廻国した身の上話を聞かせた後、僧の父と共に、仏道修行の道に向かって、出立しました。


解説目次へ    展示室TOPへ    平成13年1月1日更新