解説   道成寺


 紀州道成寺の住職は、事情があって長い間無かった釣鐘を再興し、吉日を選んで鐘楼へ吊り上げて再興の法要を行いました。
 昔の事情もあって、今日の法要に女性を入れるなと言い付けられていた寺男でしたが、供養を拝みたいという白拍子の熱心な頼みに、遂に心安く中に入れました。実はこの白拍子こそ、この鐘に纏わる因縁の女性だったのです。
 寺の人々が寝静まったのを窺い、鐘の中に飛び入り、鐘は落下しました。この轟音に寺男達は驚いて駆け付けましたが、鐘は発熱して手も触れられません。
 住職は釣鐘の無くなった昔の事情を皆に語って聞かせ、祈祷をして鐘を再び鐘楼へ吊り上げました。鐘の中からは、蛇体となった女性の怨霊が出てきましたが、住職達の法力に祈り伏せられ、日高川に飛び込んで消え失せました。
 この曲は、能としては最も大掛かりな曲です。シテと小鼓の一騎打ちのような乱拍子、息も付かせぬ速さで舞う急之舞、その直後に舞台の天井から落下してくる釣鐘の中に飛び込むなど、特殊な修練の必要な部分が数多くあります。
 その一つ一つを会得して完成させ、始めて一人前の能役者となれるのです。そのような意義のある、大きな関門とも云える大きな曲です。


解説目次へ    展示室TOPへ    平成13年1月1日更新