解説   阿漕


 日向の国から、伊勢大神宮参詣を志した旅人が、伊勢の阿漕が浦まで、やって来ました。
 そこに出会った漁翁に、所の古歌などを引用しながら、所の名の謂れを、訪ねました。漁師は、漁具を置いて、話し出しました。此の浦は昔から、伊勢大神宮の御神饌の為の漁場であって、一般には禁漁の地とされていましたが、阿古木という孝行な男が、病気の母に食べさせるために、密漁をして露見し、その罪により海に沈められたことを語り、自分はその阿古木の幽霊であるといって、弔いを求め、俄に騒ぐ波間に姿は消え失せました。
 旅人が、経を読んで弔っていますと、阿古木の幽霊が現れ、網で漁をする有様を再現し、地獄にて受けている責め苦を見せて、その罪を助け給えと頼んで、再び波の底に姿は、消えて行きました。


解説目次へ    展示室TOPへ    平成13年1月1日更新