壇浦兜軍記 全五段 あらすじ


壇浦兜軍記といえば、もっぱら阿古屋琴責めの場しか上演されませんが、全段等してみると、錣引をベースに
波瀾万丈な話が展開します。


第一段目

鎌倉御所の段
東大寺大仏殿再興供養のため頼朝は御台所政子を名代に、
そのお供に根井大夫と岩永左右衛門を命ずるが、両名は言い争いとなる。
腹に一物ある岩永は錣引の一件で箕尾谷四郎を臆病者と非難し、
箕尾谷を娘婿とする根井とは一緒に行きたくないという。
根井は「娘白梅を箕尾谷に嫁がせることにした故の言いがかりか、箕尾谷四郎は臆病者にあらず」と応酬する。
じつは、岩永はかねてより根井大夫の娘白梅に横恋慕しており、今でも白梅を自分のものにしようとたくらんでいる。
根井は頼朝に暇を乞い、箕尾谷の消息を求めて白梅と旅にでる。
箕尾谷はといえば、錣引の恥をすすぐため、景清をつけねらい行方知れずとなっている。
壇浦兜軍記では、頼朝は思慮深く、慈悲深い人物として描かれています。

熱田の宮の段
根井大夫は白梅をつれ、景清の妻・衣笠のいる熱田神宮をおとずれる。
前大宮司通夏は息子に家督をゆずり、娘の衣笠と隠居暮らしている。
先に着いた白梅は、景清の思い人と偽り、衣笠を問い詰め一触即発となる。
そこへ駆けつけた根井大夫は前大宮司通夏に一切を打ち明け、お互いに誤解もとけ熱田神宮をあとにする。

春日の里の段
景清は平家譜代の薩摩五郎の手引きで頼朝の宿所をおそう計画をたてる。
討ち入ったものの宿所に頼朝はおらず、応戦するのは女ばかりで面食らう。
すでに岩永の手下となっていた薩摩五郎は、御台所を頼朝と思わせ、
景清をおびきよせたのである。
はかられたと知った景清は薩摩五郎の首を引き抜いて成敗する。

第二段目

辻講釈の段
阿古屋の兄・井場十蔵は関原甚内と名乗り、清水で辻講釈をしている。そこに前大宮司親子が景清の愛人阿古屋の所在を尋ねる。
関原甚内は景清に似ているため半沢に間違って捕らわれるが、人違いとわかり放免される。
半沢は畠山重忠の家来で、十蔵に丁重にわびて解放する。
その様子を見ていた景清は井場十蔵に名乗り出て我が身をあかし、自分の羽織を十蔵に与える。

五条坂の段
阿古屋は花扇屋の主人・戸平次のもとで遊女をしている。
戸平次は代官所からの呼び出しがあり出かけて行く。
花扇屋に前大宮司通夏と衣笠が押しかけ、阿古屋に景清の所在を問いただしている。
そこへ兄の十蔵が景清と出会ったいきさつを話そうとやって来る。
十蔵は景清の羽織を着ていたので一瞬景清に見まちがえられる。
通夏は娘の身を案じ、景清の代理として十蔵に衣笠を離縁するように頼む。十蔵はことわり、衣笠も納得しない。
押し問答しているうちに戸平次が帰ってくる。
景清詮議のため阿古屋を出頭させよとの命令に思案していた戸平次は、
阿古屋を自分の女房にして景清との関係をたち、かわりに本妻の衣笠を役人に引き渡そうと考える。
通夏親子は戸平次に謀られたことを知り、衣笠は戸平次を殺し、その場で自らも自害する。
阿古屋は白州にひかれて行く。

第三段目

琴責めの段
岩永左右衛門は独断で、景清の檀那寺の住職に、景清がきたら捕縛せよと強要するが、仏の慈悲に反することと断られる。
畠山重忠は住職の言い分に納得し、景清がきたら源氏につかえ命を大切にするよう道理を説いてほしいと依頼する。
その後重忠は阿古屋に琴、三味線、胡弓を弾かせ、その音色に乱れのないことから
嘘偽りないものとし放免する。

十蔵内の段
十蔵は老母と粗末な家に暮らしている。母の誕生日の祝いの折、十蔵はかねてより考えていたことを話す。
「自分が景清と偽り自害するれば、阿古屋の詮議も無用となり無罪放免。油断のすきに景清は頼朝を打ちやすくなるというもの」
その言葉に、老母はでかしたと言って十蔵をおくりだす。
阿古屋が無事に帰ってくると、老母は狼狽し、事情をきいた阿古屋は兄の自害を止めるため急ぐ。
その間に箕尾谷がきて、十蔵の老母に景清の行方を尋ねたところ、金をもらえば行方を教えてやると言われる。
無事、十蔵と阿古屋がもどってくる。箕尾谷に向かい、十蔵は我こそ景清と偽り戦うものの敗れ、打たれようとするが、箕尾谷はすぐににせ者とみやぶる。
老母は景清のことを頼むと言い残し自害する。
阿古屋と十蔵は景清をさがしに旅にでる。

第四段目

道行き旅寝の添乳歌の段
阿古屋景清の子を抱き、兄とともに、京から瀬田、草津、彦根をへて長浜へいたる道行きとなる。

辻堂の段
雨宿りした辻堂で、二人は景清と偶然出会う。
この地で景清は在所大工に身をやつし、仲間から背高と呼ばれ、根井大夫の屋敷の普請にかかわっている。
根井の屋敷に上洛途中の頼朝が立ち寄るとの話を耳にする。

普請場の段
景清は根井大夫に気に入られご馳走になったうえ、仕事をまかされる。
阿古屋は幼児を背に仕事場の景清に弁当を届け、景清は一緒にきた子の具合を気づかい、良きパパぶりを見せる。
根井屋敷の普請のため足場にのぼったところを、景清と見やぶられ捕り物となる。
そこに左官が加勢するが、実は箕尾谷四郎であった。
景清は箕尾谷に手柄を立てさせるため捕らえられ、箕尾谷と兄弟であることをあかす。
ためらう箕尾谷に鎌倉へ引いて行けと無理に命ずる。

第五段目

詰め牢の段
諸大名が交代で景清の牢番をしていたが、岩永の当番の日に牢を破る
自ら眼をえぐり取った景清は、阿古屋に手をひかれ杖をつきつつもどってくる。
岩永は好機とばかり景清に打ちかかるが、たやすく打たれてしまう。
頼朝は景清の心に感じて日向勾当の官位を受けさせる。

参考文献:日本古典文学全集45 浄瑠璃集 小学館