京都地方自治ネットレポート20080404
現業リストラ・賃金破壊攻撃に対抗する闘いについて
■はじめに
 地方自治がいま大変な危機に見舞われていると言える。「自治体労働者の賃金は地域や民間も厳しいのだから、ちょっと我慢する必要がある」「役場も無駄が多いのだから、民間化もやむをない」「住民もわがままだ。」「住民もがまんしなくては、なんでも役場にいう時代ではない」「お上の世話になるばかりではダメ」「自分のことは自分で」などなど、職場でも地域でも「がまん」と「自己責任」の思想が蔓延している。政府の地方切り捨てのなかで、一致して闘うべき職場や地域で、政府や一部の儲かって仕方のない大企業役員や富裕層に、まことに都合のよい気分や感情の広がりがある。
 実は、住民生活の組織としての自治体(団体自治の実態)の運営や理念から言うと、こうした思想や感情が職員や住民の中に広がることこそ地方自治の危機といわなくてはならないと思う。自治体が、住民より国を筆頭とする行政の一部としての役割のみに純化していくからだ。公務員に対する攻撃もこうした立場から考えないと、有効な闘いの方向を見いだすことが困難になるのではないかと思う。

■公務員制度改革という国民には役立たない公務員づくり
 現在、国会では2008年4月4日の公務員改革法案の閣議決定を受けて、公務員制度問題についての審議が始まろうとしている。公務員制度の「構造改革」が必要として、1月10日には「公務員制度の総合的な改革に関する懇談会」(内閣総理大臣のもとに設けられた)が開催され答申原案が出され、2月5日に「内閣人事庁」の創設や「キャリア・システムの廃止」などを盛り込んだ報告書を福田首相に提出した。
 この報告書の特徴は、第1に、改革論議の対象となる公務員の範囲が偏っていることである。法律や予算案などの策定に直接かかわる「企画立案部門」に働く者のみが公務員ではない。企画部門の公務員と実施部門の公務員は、求められる能力や専門性に異なりがあり、人材確保や育成の方策も一様でない。それらのことを斟酌せず、いわゆる「霞ヶ関の官僚」の人事管理を中心においた制度改革論議では極めて不十分である。
 第2に、行政改革推進法などによる画一的、一方的な人員の削減、「官から民」へという公務・公共部門の民間化がもたらす社会的な混乱や住民生活への悪影響などについてはなにも研究され検討された形跡がないことである。「行政改革」は正義とばかりに「構造改革の一環としての公務員制度改革」であり、最も重要な国民生活への関係を捨て去った公務員制度改革などは憲法上も疑義があるのである。この点で、京都自治労連などが中心に行った、「構造改革告発レポート」運動(2007年5月)などのとりくみの強化がいっそう望まれる。
 第3に、防衛省前事務次官の汚職事件など、様々発生している公務の諸問題と公務員制度との関係について、整理した検討がおこなわれていないことである。高級官僚で相次ぐ汚職事件が、育成過程での政治家や業者との「交流(癒着)」の構造的な仕組みに起因しているのではないかとの疑念がある。政治家と官僚・業界と官僚の交流について厳格な規制や、公務員倫理の一層の厳格化の制度改革が求められるはずである。また、民間企業での偽装事件が相次いでいるが、その背景に成果主義人事管理の弊害が指摘されている。長期勤続を前提とする「遅い昇進」の優位性も指摘されており、特性や現状をふまえた「公務の人事管理」を検討することこそ求められている。民間企業の人事管理を公務に持ち込むことが、公務員制度改革の中心課題とは必ずしもいえない。
 第4に、公務員の労働基本権回復の課題を曖昧にしたままでの公務員制度改革は、現状からしても、国内外の関心事とからしても許されないと言う点である。公務員労働者の無権利状態を解消することは、公務内部からの行政運営をチェックする機能を高めるためにも必要である。「市場化テスト」をはじめとする公務の民間化が進行するもとでの労働者保護規定や集団的労使関係の整備は緊急に求められる制度課題である。報告書は、このような点に言及していない。

■財界の公務員制度改革への思い
 政府内部の公務員制度改革の意図や今回の報告書などでの具体化が、「生産性、効率性の向上を図る観点から、公務員制度改革をはじめとする各種の行政改革を断行することが必要(2008年3月18日『道州制の導入に向けた第2次提言(日本経済団体連合会)』)」とする経済界の思いと一致していることは明らかである。
 財界の提言には「道州制の導入に伴い国、道州、基礎自治体の役割を定める前に、これまで官が担ってきた公の領域において民が活動できる範囲を拡げ、小さな政府、民主導の経済社会運営を目指すことが重要な課題となる。そのため、官の役割をゼロベースで見直し、規制改革の推進や官業の民間開放、PFIによる事業実施などを徹底する。あわせて、官の肥大化を防ぎ、公務部門においても生産性、効率性の向上を図る観点から、公務員制度改革をはじめとする各種の行政改革を断行することが必要である。加えて、様々な社会的課題に行政のみが対応するのではなく、企業、NPO・NGOなどが解決策を模索し、自ら実行することも重要である。」と述べている。
 公共部門の肥大化を防ぐという明文で、医療・福祉部門がリストラされ、制度・施策が個人負担方式(サービスを買う方式)になるにつれ、国民生活の貧困化がいっそう加速していることを政府も財界も「屁とも思わない」のである。現業リストラ・賃金破壊攻撃がこうした政府の方針、財界の意図の基にすすめられていることを多くの国民に警告する必要があると思われる。

■現業労働者への攻撃
 総務省は2007年7月6日に、「技能労務職員等の給与等の総合的な点検の実施について」という通知を全国都道府県知事・政令指定都市市長宛に発している。07人勧を受け、2007年8月21日に開かれた全国総務部長会議で総務省は 、「骨太方針2007」を受け、2.6兆円を上回る「公務員の総額人件費削減」を求め、地方の現技能労務職員等の賃金を名指ししたうえで 「地域の民間給与の一層の反映」を強調した。
 2008年1月〜2月には「技能労務職員等の給与等の点検実施」の進捗状況などのヒアリングなどを行い、本格的な「是正」なる賃下げ攻撃を開始しているのである。
 この民間との乖離を理由とする賃金攻撃が、実際に公共サービス分野での民間労働者の賃金水準や待遇の悪化と結びついていることは明らかである。

■民間公共部門での労働条件の劣化
 公共部門に働く労働者の賃金・待遇の悪化は、福祉や医療を支える人材の確保さえ困難にさせている。こうしたなか「民主党は介護労働者の待遇改善・賃金引上げを目的とした『介護労働者の人材確保に関する特別措置法案』を2008年1月9日午後、衆議院に提出した。介護労働者1人当たり月2万円の賃金アップを目指し、4月から介護報酬を3%加算する介護報酬の緊急改定を行うことなどが柱。1年間の時限的措置。」などの動きも出始めている。
 2007年3月16日付週刊ポストの特集は「年間実働190日なのに、給食のおばさん年収800万円は高すぎないか」だった。2007年4月18日付京都新聞には総務省の発表として「民間との給与格差鮮明」「京都市市バス運転手1.59倍、清掃作業員1.45倍」という見出しの記事が出された。マスコミも一斉にこうした記事を次々と出すことにより、現業賃金引き下げの「世論」づくりを進めているのである。また総務省は特別に「技能労務職員等の平均給与月額・各種手当の支給状況」という事項を2007年のホームページに掲載している。
 2008年3月時点の新聞折り込みの募集ビラにこんな中身のものがあった。宇治 北槇島小学校・大久保小学校の学校給食調理員の募集広告(西日本ゼネラルフーズ株式会社)だが、見るとなんと時給730円である。同時期に宇治の地域で配布された民間の職場での食品調理部門の募集広告を集めてみると、再びなんと学校給食調理員の賃金が一番低いではないか。参考までに、集められたビラに書かれてある募集内容は以下のようなものであった。
 ○無添「くら寿司」クッチンスタッフ時給750円〜1,150円(22:00〜は1,088円〜)、土日祝は+50円。
 ○イズミヤ大久保店内食堂は時給850円(調理師免許ある人900円)で、特養あじさい苑内厨房の調理補助は780円(株式会社ニチタン)。
 ○簡単な食品調理・盛付 時間帯により800円・930円・1,000円・1,005円(角井食品株式会社)。
 ○イトーヨーカドー六地蔵店内 中華惣菜製造・販売 時給860円、18:00〜は990円〜1,060円(アイワイフーズ株式会社)。
 ○城陽平川の医療機関の調理補助など900円(クッキングゆたか株式会社)。
 この募集広告を見て、「民間委託で学校給食は変わらない」という説明に終始した宇治市当局はどう思うのだろうか。子どもたちの給食についての宇治市の位置づけはどうしたことだろうか。委託された学校給食現場に働く労働者は、安心・安定して学校給食業務に専念しているのだろうか。子どもたちに必要な栄養の供給、食事の豊かさを教える食育、安全な給食の提供などが、民間委託された給食現場で本当に確保できているのだろうかと不安にすらなる。

■自治体が自主的に「官から民へ」を進めるしかけ
 地方交付税削減の「三位一体改革」から地方財政健全化法による「財政危機」への強迫観念が自治体当局者を包んでいる。こうした動きから自治体リストラの加速は避けられないという関係者の話が次々に行われている。経費の削減という名目が、何にもまして優先され「安ければ」ということになる。そして、公的な責任を免れるために「自己責任論」が登場するのである。現業部門では、委託契約の方式で「安上がり」の労働力が数多くつくられ、政府などが意図して民間との比較表をホームページなどに掲載して世論誘導を進めている。
 1999年に学校給食の民間委託を打ち出した大山崎町は、前年に教育長が給食調理員が集まった場所で「大山崎の学校給食は全国一である」と評価した。翌年には学校給食調理の民間委託提案である。交渉に出てきた教育次長は「結局、町財政が厳しいから仕方ない」「財政悪化の原因が給食でないが、いまさらそんなことをいっても仕方がない」「削れるところを削る」という回答に終始したのである。つまり「安上がり」にするために学校給食のもつ教育的な内容、食育の重要性などなどの本来の意義や仕事の質、公的責任などは吹っ飛ぶのである。
 現業リストラ・賃金破壊攻撃に対抗する闘いは、この「安上がり」攻撃に対しどう闘うかということが現在の状況での焦点ではないかと考える。

 またやっかいなことに、「純粋な安上がり」問題だけでなく「官から民」であればそれでよしとする動きもある。城陽市の給食センター問題などは、現状の嘱託やパートの雇用を前提に、民間への委託と直営の財政負担比較を行うと直営の方が安かったにもかかわらず、こうした組合の指摘に当局は「いまや官から民というのが大事なのだ」と居直ったそうだ。
 同じような「官から民」であればよいとする奇妙な動きに、京丹後市の派遣会社を設立(総合サービス株式会社)がある。市役所が直雇用する臨時職員を株式会社に移し、そこから派遣すると言うものだが、派遣法から見ても3年限度で直雇用にしなければ行けなくなるのだが??。財政効果的に見ても、収支シュミレーションで今まで以上(直雇用の臨時職員として仕事をしてもらっている現状に比べ)に管理経費の支出(本社スタッフ人件費約960万円、事務所運営費(賃借料金)約438万円、租税公課約1879万円(内消費税約1806万円))が増えるのである。臨時職員を派遣に切り替えるために約3277万円の余分な経費の支出となる。しかも100%京丹後市の出資だから当初の設立出資金2000万円も余分な経費である。こうした指摘には、財政当局ですら「理解できない」といいつつ実施されているのである。

 構造改革という掛け声が、自治体における「冷静で客観的な政策判断」も狂わせている事実を垣間見るものである。単に首長、議員や職員が「アホやからな」と言うだけでは済まされない深刻な問題を今後引き起こす(住民生活を支えるという行政原則からのミスマッチ、違法状態の蔓延、将来のいっそうの地域の寂れと財政困難等々)問題をはらんでいるのだが、今時点では、「構造改革」なるものが根本的に修正される状況には至っていない。
 こうした現状を踏まえ、現業分野のリストラ・賃金破壊攻撃をいかに闘うかであるが、以下の様な課題と運動が必要ではないかと考える。

■現業労働者の有利性を前面に闘う
 労働協約締結権を最大限生かすということである。自治体現業労働者は労働基準法の全面適用(一部制限はあるが)である。特に、賃金や待遇面で協約の締結権を生かすことは団交によらないと改正できないわけであるから、「これ以上、切り下げをさせない」という闘いでは大きな力となる。また、地方労働委員会なども活用できるので、社会的な運動をよりすすめる可能性を持っている。首長や議会が一方的に賃金・労働条件を改悪するケースが頻発する中で、特に現業へはマスコミを使った賃金攻撃を広げている最大の理由に、非現業のようには(かってに改悪するという暴挙)いかないという立場がある。なお、労働協約締結権を活用するためにも、職場の過半数の労働者(正規雇用・非正規雇用労働者すべてを含む)の組織化が重要である。府内では、府職労の現業評議会が労働協約を締結している。また、36協定について協定している単組がいくつかあるが、まだまだ広がっていないのが実態だ。こうした権利が行使できていない自治体でも、現行の賃金・労働条件について、すぐにでも書面協定を結ぶことから運動をはじめてはどうか。
 2008年3月28日、議会が市職員の労働組合費のテックオフ制度を廃止する条例改正案を可決した。「大阪市組合費天引き(チェックオフ)廃止へ」大阪市労連の3/2の現業労組・公営企業労組・学校職員組合は労働協約で組合費の天引きをしているため、議会の暴挙はおよばない。労働者の団結権をまもる上でも、現業労働者の有利な面をいっそう活用することが求められる。

■貧困と格差問題で民間労働者住民と共に闘う
 また、もう一つ重要で難しい問題は「安上がり」攻撃との闘いである。
 国会では、30年ぶりに最低賃金法が改正され、「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮」することが定められた。貧困と格差の根源と言われる不安定雇用とそれに関連する低賃金が蔓延する中での法改正である。京都総評などが多くの組合員と研究者の協力のもと、生活実態の調査を2年間にわたりつぶさに行い「格差社会への挑戦 最低生計費試算」(2006年7月30日発行)を行ったことは非常に重要な意義を持つこととなった。 グローバル経済における国際競争が激化する中で、世界の国々で「最低賃金の引き上げや制度の改善」が行われている。これは、資本の競争だけに社会制度を委ねていては、貧困とそれに関わる社会問題が世界的に広がっており、それを改善するために日本でも最低賃金を根本的に改善する必要があることを表している。
 「安上がり」攻撃との対抗は、自治体・公務関係労組あげて「最低賃金の大幅な改善」を求めることが「官から民へ」の流れを阻止する重要な環である。いま最賃闘争を行動として本気で取り組まない組合は「リストラに協力する組合」だと言わざる得ない。

 最低賃金改善と同様に重要な課題は、自治体の委託契約などの契約条項に、「その仕事を行う労働者の賃金・労働条件の適正な確保」を明記、もしくは「最低でもいくらの賃金を保障する旨の賃金条項(生活を保障する観点から)」を明記できる様に法律・条例で担保することである。全労連や全建総連などの「公契約」運動である。2008年2月の京都市長選挙では、立候補した弁護士の中村さんが、市発注の仕事の最低時給を1,000円以上するという公約を行った。これは、公共事業のピンハネ規制を行うもので、画期的な意義だ。またこれが実現すれば、青年雇用と働く人々の生活を守る新しい地方自治政策をつくることにもつながった。
 先に述べた国会での介護労働者の賃金改善法の提起など、ここにきて「貧困と格差社会」の修正のためのルールづくりなどがようやく社会的に議論される段階となってきた。この闘いが、現業リストラ・賃金破壊攻撃に対抗する重要な環であることをもっと強調し、これまた組織を上げてとりくみ必要と重要性がある。
 もともと日本のこれまでの経済関係の法制度などでは、企業への援助政策が中心であった。リストラしても減税、移転しても誘致補助、いまでは正社員を雇用しても補助金などなどである。しかし、いまや大企業栄えても労働者・国民・中小企業にはおこぼれは来ないのである。そんな構造に改革されているのに、いつまでも経済政策が企業援助というのは筋違いである。貧しい労働者と中小企業にメリットがある政策こそがいま求まられているということを銘記すべきである。

■運動と組織の発展に期待する
 現業リストラ・賃金破壊攻撃に対抗するための課題と運動の方向として、自治体で住民と共に働く現業部門が豊かに再生することを願って私見を述べさせてもらった。関係者のご議論と行動を期待するものである。

小川 進(ogawa susumu)


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