京都地方自治ネットレポート20080401
「改正パート労働法」は
自治体・公務員の職場でも活用できる
 2008年4月1日から「改正パート労働法」が施行されました。この改正法は、国際的ルールである「均等待遇」からは大きな乖離がありますが、「通常の労働者と均衡のとれた待遇」を確保することを目的としており、自治体職場でも活用できるものです。京都自治労連がその活用について以下の様な提言を行いました。公務・公共業務の中で、非正規雇用が激増し劣悪な労働条件が蔓延しようとしています。この動きは公共業務の低下と、結果的に住民へのサービス低下・負担増加につながっていきます。民間・公務と労働法体系は分断され、グレーゾーンの非正規雇用の労働者がもっとも法の下で弱い立場に置かれるという事は、法治国家の基礎をなすべき公務・公共業務の大きな矛盾と言わなくてはなりません。自治体・公務・公共職場に働く正規・非正規の労働者が自覚を持って改善に努力されるように、労働組合を大きく強くするように切に願うものです。

 以下の文書は、改正法の説明とその部分を活用するポイントを中心に解説していますので、自治体内での非正規労働者の賃金・権利の改善に活用してください。

1.活用のポイント1→法の考え方は自治体にも適用される
 地方自治体職員は、パート労働法の適用除外となっています。しかし、この適用除外は、自治体職員が勤務条件条例主義であることから除外されているものであり、法の考え方が除外されているものではありません。

□改正パート労働法第4条(国及び地方公共団体の責務)
 @国は、短時間労働者の雇用管理の改善等について事業主その他の関係者の自主的な努力を尊重しつつその実情に応じてこれらの者に対し必要な指導、援助等を行うとともに、短時間労働者の能力の有効な発揮を妨げている諸要因の解消を図るために必要な広報その他の啓発活動を行うほか、その職業能力の開発及び向上を図る等、短時間労働者の雇用管理の改善等の促進その他その福祉の増進を図るために必要な施策を総合的かつ効果的に推進するように努めるものとする。
 A地方公共団体は、前項の国の施策と相まって、短時間労働者の福祉の増進を図るために必要な施策を推進するように努めるものとする。

 上記のように、法第4条は、国や自治体の施策について定めており、当然国や自治体の職場においては、法の定める事項が遵守されることを前提としている。
 【国会における答弁】
 @総務省上田公務員部長答弁(07年4月11日、衆議院厚生労働委員会)
 今回のパート労働法、公務員は別になっているわけですが、短時間で働く方の処遇が不当に低いものにならないようにしようという考え方、これについては、公務員が別法だからといって潜脱するというたぐいのものではないと思います。ただ、法体系として公務員の場合は勤務条件法定主義ということで、法律または自治体の立法である条例によってそれを保護することになっておりますので、例えば東京都であれば、東京都の条例のレベルで適切な処遇を確保するようにすべきものであるというふうに考えます。
 A参議院予算委員会山下芳生議員に対する答弁(08年3月19日)
  桝添厚労相答弁
改正パート労働法の趣旨をきちっと生かされるように公務員法制においても考えられてしかるべきだと思います。
  増田総務相答弁
任命権者のそれぞれの判断はあろうかと思いますけれども、しかし、その中で、同じように働く人達が、違いが同じようなことによってあってはいけませんし、それぞれの基本的な、そういう処遇というものについてもいろいろ考えていかなければならないということがあるわけで…公共団体の非常勤の職員の人たちの問題というものについて直視をし検討していかなければと、思っています。

 上記の国会答弁は、勤務条件法定(条例)主義の現行体系のもとで、改正法の趣旨にもとずき、各自治体が条例等の整備を行うこと、また、育児休業などを含め、現行公務員法体系が、地公法22条に示されるように、臨時反復雇用を前提としていないなかでの矛盾について、法体制を検討すべきという答弁です。

○活用のためのステップ1−団体交渉で基本的立場の確認
1.改正法第4条の規定を確認し、各自治体で「改正法の趣旨」を遵守する義務があることを確認する
2.そのことは、国会答弁でも明らかであり、交渉のうえ条例・規則の整備を図ることを確認する

2.活用のポイント2→労働条件の文書交付・考慮した事項の説明義務
(1)労働条件の文書交付義務
□改正パート労働法第6条のポイント
 @事業主は、パートタイム労働者を雇い入れたときには、速やかに、「昇給の有無」、「退職手当の有無」、「賞与の有無」を文書の交付等により明示しなければならない。(違反は10万円以下の過料)
 A事業主は、1から3の事項以外のものについても、文書の交付等により明示するよう努めるものとする。

 文書で明示しなければならない事項は、第6条の3項目だけではありません。
この条項は、労働基準法第15条1項以外に明示しなければならないものを示したものであり、以下の労働基準法施行規則第5条は、当然のこととして明示しまければなりません。
□労働基準法第15条1項にもとづく同施行規則第5条による明示事項
 1.労働契約の期間に関する事項
 1の2.就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
2.始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
3.賃金(退職手当及び第5号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
4.退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
4の2.退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
5.臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第8条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項
6.労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
7.安全及び衛生に関する事項
8.職業訓練に関する事項
9.災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
10.表彰及び制裁に関する事項
11.休職に関する事項
(2)待遇決定にあたっての考慮した事項の説明義務
□改正パート労働法第13条のポイント
 @事業主は、その雇用するパートタイム労働者から求めがあったときは、その処遇を決定するに当たって考慮した事項を説明しなければならない。

○活用のためのステップ2−文書交付をさせる。
すべての非常勤労働者に、法的義務のある13項目(法の3項目と労基法施行規則の11項目)は最低文書で明示させる。
○活用のためのステップ3−考慮した事項を交渉で説明させる。組合をつくり説明交渉を配置させる
当局には、「何故この賃金なのか」などを説明する義務があります。労働組合として交渉で明らかにさせるとともに、非常勤労働者の参加で説明させ、改善させるための組合づくりを追求する

3.活用のポイント3→労働条件の差別的取扱の禁止、改善への努力義務
(1)賃金・教育訓練・福利厚生施設などの決定方法
□改正パート労働法第9条のポイント
 @事業主は、通常の労働者との均衡を考慮しつつ、その雇用するパートタイム労働者の職務の内容、成果、意欲、能力又は経験等を勘案し、その賃金(基本給、賞与、役付手当等)を決定するよう努めるものとする。
 A事業主は、職務の内容、人材活用の仕組みや運用などが通常の労働者と同一のパートタイム労働者については、その同一である一定の期間、その通常の労働者と同一の方法により賃金を決定するように努めるものとする。
□改正パート労働法第10条のポイント
 @事業主は、通常の労働者に実施する教育訓練であって、その通常の労働者が従事する職務の遂行に必要な能力を付与するためのものについては、職務内容が同じパートタイム労働者が既にその職務をに必要な能力を有している場合を除き、そのパートタイム労働者に対しても実施しなければならない。
 A事業主は、1のほか、通常の労働者との均衡を考慮しつつ、その雇用するパートタイム労働者の職務の内容、成果、意欲、能力及び経験等に応じ、そのパート労働者に対して教育訓練を実施するように努めるものとする。
□改正パート労働法第11条のポイント
 事業主は、通常の労働者に対して利用の機会を与える福利厚生施設(給食施設、休憩室、更衣室)については、その雇用するパートタイム労働者に対しても、利用の機会を与えるように配慮しなければならない。
 全期間とは、経験などをつみ、正社員と同一視できる状況となった時点からをいい、一定の期間とは、採用から、それまで(同一視できる状況となった時点)の期間をいいます。

○活用のためのステップ4−自治体内の非正規労働者(短時間もフルタイムも)の分析
 それにもとづく改善
 自治体内の非正規労動者が上記の4分類のどれにはいるかの検討を行い、分類にしたがった改善をさせる。
 検討事例1
 自治体内では、期間の定めのない(但し、法8条2項で、反復雇用されていることによって期間の定のない労働契約と同視することが社会通念上相当と認められる期間の定めがある労働契約は含む)、退職までの全期間において人材活用の仕組みで同一という条件のクリアーは、相当に困難です。
 しかし、保育士や看護士、保健師などの専門職、給食、清掃などの現業職は、比較すべき正規労働者も異動・転勤はありません。(一部の人が管理職などになることはあり得る)
 したがって、上記の事例ではAに該当し、慇懃などは「同一方法で決定する努力義務」がある。
 検討事例2
 事例1以外でも、職務の内容、成果、意欲、能力又は経験等を勘案して地温銀を決定する努力義務がある(上記B、C)わけですから、不当に低い賃金や一時金などの不支給、経験などを考慮しない一律単価は、許されるものではありません。

 臨時的短時間労働者=自治法203条職員ではない(茨木事件大阪地裁判決)
 大阪地方裁判所は、1月30日茨木市での非常勤職員への一時金支給に対し、地方自治法204条1項の常勤職員(手当が支給できる)は、任用形式のみならずその職務の内容及び性質等をも勘案し社会通念にしたがって決すべきものとし、おおむね3/4を越える勤務を要するものかどうかで判断すべき

○活用のためのステップ5−教育訓練(研修)の改善
 教育訓練は上記からも明らかなように、職務が同一の場合には職務上の教育訓練は実施義務があり、その他の教育訓練も努力義務があります。非正規労働者の場合、研修などをうけさせない場合が多く見られますが、改正にもとずき改善させる必要があります。
○活用のためのステップ6−福利厚生の改善、慶弔休暇などの改善
 また、福利厚生でも配慮義務があり、また、「短時間労働者の雇用管理改善指針」では、他の福利厚生施設、慶弔休暇など均衡を考慮した取扱に努めるとしています。
 したがって、ロッカーの使用や、慶弔休暇などの改善させる必要があります。

4.活用のポイント4→通常の労働者への転換への措置
□改正パート労働法第12条のポイント
 @事業主は、通常の労働者への転換を推進するため、その雇用する短時間労働者について、次の各号のいずれかの措置を講じなければならない。
 1 通常の労働者の募集を行う場合において、当該募集に係る事業所等に掲示すること等により、そのものが従事するべき業務の内容、賃金、労働時間その他当該募集に係る事項を当該事業所において雇用する短時間労働者周知すること。
 2 通常の労働者の配置を新たに行う場合において、当該措置の希望を申し出る機会を当該配置に係る事業所において雇用する短時間労働者に対して与えること。
 3 一定の資格を有する短時間労働者を対象とした通常の労働者への転換のための試験制度を設けると。その他通常の労働者への転換を推進するための措置を講じること
 A国は、通常の労働者への転換を推進するため、前項各号に掲げる措置を講じる事業主に対する援助等必要な措置を講じるように努めるものとする。

○活用のためのステップ7−試験制度などの活用
 法12条の措置は、1項の1号から3項までのいずれかを行えば良いものですが、3項で専門職については試験制度をもうけることが明記されていることは重要であり、活用させることが重要です。

5.脱法的雇用打ち切りを許さないために 
 東京都中野区非常勤保育士高裁判決の「反動的是正」とし、反復雇用し事実上の雇用の定めのない状況を避けるため5年有期の攻撃、さらに、府内自治体で3年打ち切りなどの事例があります。
 また、最近では過去に「民主的」といわれてきた職場や、憲法原理を守らなければならない大学などで、人件費削減のためだけに、労働者を人間扱いにしない新自由主義を「活用」する事例もみられます。
 しかし、その者の非違がない場合、雇用を打ち切ったにも関わらず、その職自体は存続し、新たに採用するなどの状況は、解雇四原則にも反するものであることは明白です。
 改正パート法の成立を受け、こうしたことが多発することも予測されますが、この間の運動は、キャノンなどの大企業での「偽装請負」の是正、「名ばかり管理職」是正の動き、政府自身が「国内消費」拡大のため「賃上げ」を言わざるえない状況に確信をもって運動することが重要です。

○活用のためのステップ8−自治体当局の両面の活用
 思想的「貧困」の側面
 一部大規模な自治体以外の人事当局は、地方自治体の正規・非正規などを問わず基本的に適用される労働基準法などについて、まことに「うとい」ものがあります。労働条件などについて、その基本の法的措置などについて熟知するのでなく、国・府の通知まち、他自治体事例など「受け身」の姿勢です。この傾向は、自治体の財政危機から「後退的受け身」となっており、これは、理論と運動とで打破する必要があります。
 あまりにも悪い、人が来ない−改善しなければの側面
京都自治労連資料集2008 vol47号で掲載したように、宇治市の給食関係のパート募集の時間単価は、民間委託校の業者が最も低いという、まさに公がワーキングプアを進めている実態がある。
 最低賃金そのもの(700円)もあり、人事当局の悩みは「人が来ない」というものに変わっている。「なんとかしなければ」という当局思いも活用し、改善に取り組むことが重要。



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