京都地方自治ネットレポート20070428
格差社会と働く者の健康問題
自治体の構造改革路線と自治体労働者
□はじめに
 「自治体リストラ」「自治体行革」「自治体構造改革」などという言葉が、「公務員バッシング」といわれる報道などと平行して、ここ数年マスコミ報道や国や自治体の方針などに頻繁に登場してきている。総務省などが資料をマスコミに提供し、「公務員は優遇」されているなどの報道がいまも続いている。こうした流れの中で、最近の自治体職場での労働者のなげきの声は「ゆとりがない」「やりがいがない」というものである。
 「親方日の丸」などと揶揄される自治体職場のなかで、なにか「ゆとり」がなくなってきたという実態は、「1988年に京都で国体が開催された」そのころから始まったという認識が職場・現場役員から出されている。実は、今日の構造改革の始まりは、経済のグローバル化が引き金で、1985年のプラザ合意(日米英独仏5カ国がニューヨークのプラザホテルで「ドル高是正で合意」した)から急速に日本の経済方針が変化し始めたと言われている。その後のバブル経済の破綻、異常な公共事業による財政の破綻などにより、自治体の行財政を大きく変えていくことにつながっている。
 おそらく官民をとわず、こうした時期から、職場の労働条件に関わって競争的な賃金・査定制度などの考え方が広がり、目先の効率化と利益優先主義の横行で、労働者が心身ともに「ぎりぎりまで働かざるえない」実態になっていると思われる。

□自治体構造改革(三位一体の改革は何だったか)
 「三位一体改革」は、一般的に税源移譲と国庫補助負担金の削減をセットで実現し、合わせて地方交付税改革を行うこと、補助金などの地方への関与をより少なくすることなどと(政府・小泉前首相の弁などを聞いているとそう思われるが)言われているが、結局は地方への支出を減らすということが最大の目標だった。この手段のために、税財源委譲もあるが、市町村合併の推進による「地方交付税の削減」や、自治体「行政改革」の強要など、地方への関与は実際にはより強まったのではないかと感じられる。
 さて、2004年〜2006年の3年間(実際には2003年の「改革」を一部含めるが)に「補助金改革」(国庫補助負担金の削減と補助金の交付金化)として4兆6661億円が削減された。そして、これに対応して、3兆94億円の税源移譲が行われた。
 こうした補助金と税源委譲の議論の過程で、教育費や福祉費(生活保護などを含む)の「行革」が強く求められ、様々な手法で削減が行われている。
 また、地方交付税は、2002年度小規模自治体への「段階補正」「事業費補正」(公共事業対応の地方債の後年度交付税への措置)の縮小で0.8兆円の減少、2003年度は県の留保財源率の引き上げ(20%→25%へ、一般的には都市部自治体が有利と言われる)等で1.5兆の減少、2004年度は三位一体改革の初年度であるが、これが衝撃的で1.2兆円の削減(臨時財政特例債を含めると2.9兆円の一般財源の縮小ということになる)、2006年度は地方財政計画における予算と「決算」の乖離の縮小などを含め1兆円の減(臨時財政特例債を含め1.3兆円の減)となった。つまり、三位一体改革中に総額(一般財源)で5兆円以上の減少となっている(臨時財政特例債は一般財源「等」に含まれる)。
 このように、三位一体改革中に国から自治体への移転財源は6兆円を超える「減少」となったわけである。

□自治体労働者、公共分野の労働者の抱える困難(労働安全・健康の面から)
 2006年3月国会に出された「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律」(行革推進法)は、「平成22年4月1日におけるすべての地方公共団体を通じた地方公務員の総数が平成17年4月1日における当該数からその1000分の46に相当する数以上の純減をさせたものとなるよう、地方公共団体に対し、職員数の厳格な管理を要請」すると規定しており、国はこうした行革を推進するために、「集中改革プラン」という行革計画の提出と公表を全自治体に求めている。
 こうした自治体「構造改革」は次のような状況を多くの自治体職場にもたらしている。
 ○「行政改革法」などのリストラ法により、自治体の正規職員数が減少を続けている。このことによって、仕事のアンバランスや健康を害するほどの長時間勤務についての改善がいっこうに進まない実態が広がり、「過労自殺」と思われる事故が続いている。
 ○職場の管理体制が、住民の生活をチームで考え対応する、または施策に反映させるなどの自治体職員としてのあたりまえの作業(業務)環境がつくれず、官僚的で競争的な業務の推進が広がり、職員自身の労働安全、住民へのケアなどについて、組織として把握できない実態が広がっている。
 ○福祉や医療の後退などで、例えば国民健康保険などの保険料(住民負担)は、冷静に見て高すぎるもので、政治がこのことについてしっかり改善の動きをする必要があるにも関わらす、与党などは逆の「構造改革」を進めている。当然のこととして、住民の「抗議」の矛先は、窓口職員・担当課・係の職員へ向けられる。仕事とはいえ、激しい住民の方の抗議に「心が傷つく」思いを職員は持つ。
 ○「官から民へ」という流れが、公共的な分野での「民間委託」「指定管理」などを推進している。しかし、公共的な仕事といっても委託費や契約費などは次々と削減されている。役所が委託する仕事で、ひどい賃金と労働条件で働かされる労働者が増えているのである。また、指定管理などは3〜5年後に再び指定されるために、「次も指定されたいのならリストラをしておけ」と言われたなどの話も出されている。

□構造改革路線からの転換を(労安運動を職場闘争の軸にして)
 具体的な動きは、公務災害件数などは一定の動きを示しているが、精神障害の請求が1999年頃から、目立って増えてきている。
 最近の京都市職員の健康問題での新聞記事である。「京都市は4月11日、職員に増加が目立つ「心の病」の対策として、「第二次職員のメンタルヘルスケアプラン」を策定した。休職につながる深刻な症状を防ぐため、人事異動で職場が変わる時期に専門家と面談する機会を設けるなど「予防」に重点を置いた。 市は2002年に第一次プランを策定したが、心の病による休職者が06年度に、5年前の約2倍に当たる68人に急増した。同年度1年間に発生した職員の新規休職者の休職理由でも、心の病が73%に上ったことから、ケアプランを練り直し、対応していくことにした。新プランを策定する際に市が調べたところ、休職者は人事異動後の4−6月に休みがちになる傾向があるほか、年代別では職場と家庭の問題を抱えやすい40代が4割と最も多く、20、30代が急増していることも分かった。」
 京都自治労連は、これまで府との交渉などを通じて、「職場の労働安全衛生・メンタルヘルスケア」については、労使双方で最重点としてとりくむことを確認し、市町村の職場でのとりくみを進めてきた。自治体構造改革が、職員の健康問題に対するとりくみの大きな障害であることをいっそう明らかにし、今後とも運動を進めたいと考える。

日向 誠ひゅーがまこと(自治体問題学習家)

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