京都地方自治ネットレポート20060531
京都総評の最低賃金改定審議にあたっての意見書
2006年5月31日
京都地方最低賃金審議会
会長 渡辺 峻 様
京都地方労働組合総評議会
議 長 岩橋 祐治 

京都府最低賃金の改定審議にあたっての意見書

 京都府最低賃金改定にあたって、最低賃金法第31条5項、同施行規則第15条1項にもとづき意見表明する。
なお、最低賃金の有効性を回復するため、京都の審議会として自立した審議を求める。とりわけ、現在の審議会は、最低賃金法による決定基準の中でも、生計費については事実上無視された状態が続いていると指摘せざるをえず、審議の改善を求める。



一、京都府最低賃金を、生計費を基準に、健康で文化的な生活を送れる金額に引き上げること。そのため、時間当たりの最低生計費1112円に近づけるため、京都府最低賃金を大幅に引き上げることを求める。
一、審議にあたり、広範な労働者の意見が反映するよう、最低賃金法第31条6項、同施行規則第15条2項にもとづく意見陳述の場を持つこと。

【趣旨】
1、大企業の多くが過去最高の経常利益を上げるなど、「景気回復」が言われているが、これは、外需とともに、リストラによる成果でもある。正規雇用労働者が減少させられ非正規雇用労働者の増加したことや、中小零細企業へしわ寄せがされたことなどから、「景気回復」の波及効果は限られたものとなっている。そして、小泉内閣が行ってきた「構造改革」「規制緩和」のもとで、低収入の労働者が急増してきたことを、どのように解決するのかが大きな問題となっている。低所得の労働者が急増している中で、最低賃金行政が果たさなければならない役割は大きい。最低限の社会保護としての最低賃金行政の有効性を高めるということは、今日では特別の位置を占めてきていると考える。「構造改革」「規制緩和」が進められている状況の下で、最低賃金の大幅な引き上げが必要である。
(1)下記に見るように、最近、労働者の賃金・家計がわずかながら改善されてきている。しかし、それぞれピーク時からの落ち込みが激しいとともに、低所得の労働者が増大していることから、低所得の労働者の賃金を中心に大幅な改善が求められている。
@雇用者報酬が05年に5年ぶりに増加した。名目で前年同期比1.8%の増加となった。この増加は、労働者間の格差や企業間の格差を前提としたもので、とりわけ低所得の労働者の生活が改善されたとは言いがたい状況にある。そして雇用者報酬のピークであった1997年と比較すると全体の実額は23兆円のマイナスで、7.2%下がっている。
A現金給与総額も05年に5年ぶりにプラスに転じた。05年は、前年比で0.6%の増加となった。しかし、これもピークであった1997年と比較すると9.89%下がっている。額でみると月あたり36760円、年間で441120円減少している。
B総務省の家計調査によると、2004年に7年ぶりに、それまで続いてきた勤労者の可処分所得の減少がとまり1%増加に転じた。しかし、ピークであった1997年の一ヶ月あたりの可処分所得497036円に対し、2004年は444966円で52070円減少していることになる。
(2)国税庁調査による民間労働者の給与実態調査をもとにした試算では、2004年までの5年間に、民間の雇用労働者は4498万3千人から4453万1千人へと45万2千人減少したが、300万円以下の給与の労働者数は175万1千人増加した。内訳は200万円以下159万5千人、200〜300万円以下15万6千人、それぞれ増加した。以前に比べて、低い賃金の労働者が急増した。300万円以上の給与の労働者数はすべての収入階層で減少し、その累計は220万3千人にのぼる。こうした、低賃金労働者が急増していることは、きわめて憂慮すべきことである。とりわけ、若年層での増加が著しいと見られている。
(3)非正規雇用は、05年末の3ヶ月を対象とした発表で1669万人を数え、役員を除く雇用者の中の33%を占めるようになった。昨年発表された労働力調査の詳細結果(平成17年1月〜3月平均)では、15歳から24歳層では半数近い48.2%が、25歳から34歳では、23.7%が非正規雇用となるとともに、15歳〜34歳の男子で非正規雇用が絶対数で14万人増えた。若年層を中心に自立した生活を形成していく点で困難をかかえており、絶対的貧困が拡大してきていることを意味している。
 以上のように、最近の「景気回復」を受けて下がり続けてきた賃金や家計が改善傾向にあるが、一方で、非正規雇用労働者を中心に低賃金労働者が大量に生まれ、これらの労働者の賃金改善が急務となってきている。労働者の低賃金の改善、生活の改善、そして、地域経済の持続性を保つという視点からも、最低賃金の引き上げによる対応が求められている。

2、低賃金労働者が急増する中、最低賃金の水準はどのようにすべきなのか、真剣な議論が求められていると考える。
(1)まず、現行の最低賃金は、1ヶ月の生計費に直すと、102413円にしかならない。(最低賃金額682円×150.16時間(平成17年、月間総実労働時間))で年収では約123万円弱である。長時間働いても年間で140万円程度にしかならない。1日8時間、月21日働いた場合、年収は137万4912円で、この場合の所得税は14320円となり、これに社会保険料が引かれるので、年収は100万円に満たない。京都総評青年部がこの間、毎年実施している最低賃金生活体験では、固定的な経費を除いて食費や交際費に使える金額は、2万円から3万円で、まともな食生活が送れないことや、さまざまな生活費や交際費を犠牲にし、普通の社会生活ができないということが明らかとなっている。人一人が経済的に自立した生活をすることができない最低賃金は、その有効性が失われていると指摘せざるを得ない。
(2)私たちは、2004年秋から、最低生計費はいかにあるべきかを明らかにするために、最低生計費試算のとりくみをおこなってきた。この試算は、以下のような手順をふんで行ってきた。まず、2005年3月から4月にかけて「生活実態調査」と「持ち物財調査」をおこない、この調査結果をもとに最低生計費のモデルを確定し、市場価格調査をおこなうとともに、その他の統計を利用した費用算出をおこない、今年1月に概略を発表した。現在、若干のモデルの追加を含め、近く本報告を発表する予定である。試算は、マーケットバスケット方式にもとづいておこない、京都市在住で自動車保有なしとし、若年単身世帯、夫婦と子ども2人の4人世帯、高齢単身世帯、高齢夫婦世帯の4つのモデルについておこなっている。このうち、若年単身世帯は、賃貸アパート住まいの男性の20代としてモデル設定し試算を行った。試算の結果は、今後若干の微調整はあるものの、消費支出144053円、貯蓄・予備費14000円、合計の最低生計費は158053円。非消費支出を含めた月額は185426円。年額で2225112円であった。消費支出に貯蓄・予備費を追加したのは、最低生計費は平均値で、個々人の身長や体重の違いでも異なることを考慮に入れるとともに、教養娯楽や冠婚葬祭などの交際はその時々の必要によって異なるからで、消費支出の10%を追加した。この最低生計費を、年間労働時間を2000時間と仮定して時間額をだすと1112円となる。私どもは、こうした最低生計費試算の結果からも、現行の最低賃金の引き上げは大幅に行わなければならないと考える。(考え方と最低生計費の総括表は別紙。各支出ごとの試算の内容は略)
(3)生活保護費は、日本で生活する上での最低限の生計費を示している。この生活保護費を最低賃金が下回っていることは問題がある。一般的な生活保護の計算は以下の通りとなる。1級地の1、平成17年度で、生活扶助1類42080円、生活扶助2類43430円、住宅扶助42500円、勤労控除25230円、冬季加算3090円×5ヶ月、期末一時扶助14180円、合計年額で1868510円となる。これに医療扶助等の給付がある。したがって、現行の最低賃金が異常に低いと言える。労働政策審議会最低賃金部会で、こうした生活保護と最低賃金の逆転現象問題が議論されているが、私たちは、これが是正されないと社会保護に関する政策の整合性は全くとれないと考える。
(4)本来最低賃金は、その国の一般労働者の平均賃金の50%程度は必要であると言われている。EUでは、こうしたことを意識して2005年4月に欧州最低賃金国際会議で「欧州最低賃金政策に関するテーゼ」を発表し、目標値として平均賃金の60%、短期の暫定目標として50%相当の最低賃金を実現することを求めた。これは、すべての労働者に家計上独立した生活を営みうる賃金が支払われなければならないという欧州の社会モデルの基本原則を示したもので、ワーキングプアー対策といえる。グローバル化が進む中、ILOが提唱するディーセントワークをめざす経済社会政策の具体化でもある。しかし、日本では、最低賃金の水準は一般労働者の約30%程度であり、その不十分さは明らかである。

3、上記のような状況において、最低賃金制度が果たさなければならない役割は大きいにもかかわらず、現行の最低賃金額の水準が異常に低いために、有効な機能を発揮できないでいる。最低賃金については、現在の金額の水準について、生計費の視点から真剣な討議を行うことが求められていると考える。少なくとも、これまでの目安にもとづく低賃金労働者の賃金の推移から引き上げ額を検討するという手法は、全く現実に合わないものとなっている。私たちが求める引き上げ額の目標はけっして高い目標ではなく、最低生計費ぎりぎりの金額である。また、これまでも主張してきたように、低賃金の改善と均等待遇の実現は密接に関連する。男女間の賃金格差是正を求められている日本の現状を改善するためにも最低賃金の改善を強く求める。
以上


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