京都地方自治ネットレポート20060421
公契約条例制定の意義と最低生計費
■はじめに
所得格差、貧困の拡大など社会的な格差拡大
賃金の最低規制の強化が必要

■公契約条例(法)と制定を求める主旨
 地方自治体から契約等で行う「税金を使ってする仕事」ので、賃金が著しく低く抑えられ、正月返上の仕事のやり方などがまかり通っています。競争の行きすぎで、公の契約事業でも、下請けや孫請けを含めて材料費も出ない、賃金はますます切り捨てられるという実態が広がっているのです。地域最低賃金違反の状況も広がっています。
 こうしたことは、事業(仕事)に関わる民間労働者の賃金や労働条件を劣悪なものとし、公的な仕事の質の低下や、モラルハザードを生み出す結果にもなります。同時に、公の仕事で税金も払えないような低賃金を放置することは、地域の経済にとっても大きなマイナスと言わざるをえません。
 原因は、入札の値引きやダンピングによる不公正な価格設定が依然として行われていることです。賃金の最低規制を求めている最低賃金法の第1条は「労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」としており、税金の生きた使い方としても、現在の公契約あり方を見直す時期に来ています。
 税金を使って行う公共サービス、公共事業で働く民間労働者、非正規労働者の賃金を安定させ、もって地域の企業・業者の過当競争を規制して、公正な競争と地域経済への貢献を図るために、「公契約条例」の制定が必要だと考えています。「公契約条例」とは、ILO(国際労働機関)第94号条約(公契約における労働条項)にしめされた考え方に従い、国や自治体が発注する公共工事に就労する建設労働者に支払われる賃金額に対し、条例(自治体の法律)の制定によって最低制限を設けて生活できる賃金を保障しようとするものです。
 その趣旨にそって、自治体の発注するすべての事業・業務について、「地方自治法施行令」にある「低入札価格調査制度」「最低制限価格制度」の適用、適正な単価・賃金・労働条件が確保されるよう受注企業への指導の徹底なども強めることが必要です。

■公契約条例の考え方の基であるILO94号条約(「公契約における労働条項に関する条約」)について
※ILO(国際労働機関)で採択…1949年(第二次大戦後)
<背景>
○1900年代初頭フランスのパリの水道業者と労働者が地域内外からの低単価・低賃金による協定破りを止めさせるために、パリ市発注の水道工事には地域の賃金水準を守ることを約束させた。
○1929年の大恐慌後、アメリカではニューディール政策により公共工事が拡大。南部の建設業者が安い労働力による低価格競争を持ち込んできたため、北部の建設業者が対抗し、「公共工事に従事する建設労働者の賃金額は地域の賃金相場を下回ってはならない」という内容の法律を作らせた。

<条約の骨子>
(第1条1項−a)
契約の当事者の少なくとも一方は公の機関であること
※第三セクター・独立行政法人などは検討課題(公かどうか)
(第1条1項−b)
契約の履行は次のものを伴うこと。@公の機関による資金の出資、A契約の他方当事者による労働者の使用
(第1条1項−c)
条約は次のものに対する契約であること
@土木工事の建設・変更・修理もしくは解体
A材料、補給品もしくは装置の制作・組立て・取り扱い、もしくは発送
B労務の遂行もしくは提供
(第1条3項)
この条約は、下請請負業者または契約の受託者により行われる作業に適用する。かかる適用を確保するため権限ある機関は、適当な措置を講じなければならない。
※幾重もの重層下請契約であっても、公共機関が発注した業務である以上、条約上の「労働条項」の適用を受ける
(第1条5項)
権限のある機関が関係ある使用者団体及び労働者団体と協議の上、管理の地位を占める者または技術的、専門的もしくは科学的性質を有する者であって、労働条件が国内の法令もしくは規則、労働協約又は仲裁裁定により規律されず且つ通常筋肉労働を行わない者をこの条約の適用から除外することができる
※当時の低賃金・不安定労働のほとんどが肉体労働者、現在の請負、派遣、パートなどの蔓延はこの条項の見直しを要求している

(第2条1項)
この条約の適用を受ける契約は、当該労働が行われる地域において関係ある職業または産業における同一性質の労働に対し、次のもの(@関係ある職業又は産業における使用者及び労働者の大部分をそれぞれ代表する使用者団体および労働者団体の代表者間の労働協約その他承認された交渉期間により、A仲裁裁定により、B国内の法令または規則により)により定められているものに劣らない有利な賃金(手当も含む)、労働時間その他の労働条件を関係労働者に確保する条項を包含しなければならない
※公共機関と取り交わす請負または委託契約には必ず「労働条項」を含まなければならない
※国や地方自治体が、「相場」以下の低労働条件で労働力を活用する業者に公共事業を発注するわけにはいかない、という主旨(単に同一労働同一賃金、公正労働条件という水準以上を求めている)
(第2条2項)
当該労働が行われる地方において前項に掲げられる労働条件が同項に掲げられる方法をもって規制されない場合には、契約中に挿入される条項は、右のもの(@最も近くの適当な地方において関係ある職業又は産業における同一性質の労働に対し、労働協約もしくはその他の公認交渉機関、仲裁又は国内の法令もしくは規則により定められるもの、A契約者が従事する職業又は産業において、一般事情が類似している使用者によって遵守される一般水準)に劣らない有利な賃金(手当を含む)、労働時間その他の労働条件を関係労働者に確保するものでなければならない
※日本の建設産業では業者団体と労働組合との間で労働協約を取交している地域がほとんど存在しない。

(第3条)
契約の履行に従事する労働者の健康、安全及び福利に関する適当な規定が国内の法令もしくは規制、労働協約又は仲裁裁定によりいまだ適用されない場合には、権限のある機関は、関係労働者に対する公平にして合理的な健康、安全及び福利の条件を確保するため十分な措置を講じなければならない
※日本では労働者の健康と安全に関する法令として労働安全衛生法やじん肺法などがあるが、公契約の当事者である発注機関や監督官庁にはこの監督義務があいまいになつている。

(第5条)
公案約における労働条項遵守違反措置
@公契約における労働条項の規定の遵守及び適用を怠る場合について、契約の手控えその他により適当な制裁を適用しなければならない。
A関係労働者をしてその正当の賃金を受けることを得しめるため、契約の下における支払い手控えその他の方法により、適当な措置を講じなければならない
※工事期間中のチェックなど労働組合と行政が共同して行える体制の確立、条例違反が発覚した場合の工事代金停止などの措置を講ずる。

■これからの運動
公正な社会のルールづくりめざし
(1)要求の整理…ILO94号条約における概説
公契約条例(法)の制定が具体化される前に、行政がどのような指標により地域の一般的水準の労働条件を決めるのか、どの水準まで賃金・労働条件を底上げするのか労働組合サイドで検討しておく必要がある。
この点で、京都総評が「最低生計費」を労働組合として明らかにした大きな意義がある

(2)地域経済との関係
公正な競争こそが、地域の経済を豊にし業者の営業も円滑になる
※実証的な積み上げで、世論づくりが必要
この点で、最賃法なども「公正競争」の考え方のもとに法律が作られておりとりわけ地場の産業や中小企業との対話・協議、共同した自治体と議会、政党への要請などの運動が必要

(3)研究会などの活動も平行して引き続きすすめる必要ある


小川進おがわしん(労働問題アナリスト)

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