京都地方自治ネットレポート20060401
今国会に出されている医療改悪法案…わしらに死ねと言うのか
 「医療制度改革関連法案」(以下、医療改悪法案))が、2月10日、国会に提出された。この医療改悪案は、@患者負担増、A国民皆保険制度の崩壊、B国の医療からの責任の撤退と自治体への押しつけなどが特徴で、日本の医療を崩壊させる史上最悪の改悪案であるとともに、自治体病院などにも重大な影響がでると考えられるものだ。以下今回の改悪案の概略について。

■高齢者の負担は2倍から3倍に(医療費の負担と保険料の負担)
 08年から、70歳から74歳の高齢者の窓口負担を1割から2割に。現役並所得者(08年から夫婦世帯620万円から520万円に引き下げ)は3割負担に。また、高額医療費の負担限度額が引き上げられる。さらに、高齢者の会費全額自己負担で1ヶ月約3万円アップとなる。これらは、現役世代(健保本人3割負担)との整合性と言われる。いずれにしても高齢者の医療費負担が現在の3倍(高血圧症と狭心症の71歳の患者さんの場合、1560円が3110円に)にもなってしまう。
 また、75歳以上を対象にした新たな「高齢者医療制度」の保険料は、次第に引き上げられる計画になっている。厚生労働省は、次のように試算は、制度発足時の2008年度、1人当たり保険料は年6万1000円(月約5000円)。これを2015年度には年8万5000円(月約7000円)に引き上げ。7年間で2万4000円も上げることを見込んでる。すでに高齢者は、介護保険料を年金から天引きされている。今年4月の介護保険料改定で、65歳以上は月平均約4000円になる見込み。新しい医療制度の保険料と合わせると、毎月約1万円も、年金から天引きされることになる。法案では、65歳から74歳の国保加入者についても、08年4月から国保科を天引きする計画。

■都道府県に責任が転嫁
 今回の改悪案では、予防・医療の提供・保険を都道府県単位にし、国は全体の調整責任のみを果たす計画だ。制度を運営する都道府県単位の市町村の広域連合は、高齢者の医療給付費が増えれば、保険料引き上げか、医療給付費の抑制しかない。国民健康保険制度には、住民の国保科負担軽減のため、市町村による一般財源からの繰り入れが認められている。しかし、高齢者医療制度について、厚労省は一般財源からの繰り入れを「原則的に認めない」としている。
 医療改悪法案で小泉内閣が狙う最大の眼目は給付費の総額抑制。医療給付費とは、医療費から患者の自己負担分を除いた部分で、抑制の手段のひとつに、高齢者の患者負担の引き上げなどによる対策をとろうとしている。またこれにとどまらず、中長所的な医療費抑制策として盛り込んだのが、「医療費適正化計画」。国、都道府県が5年ごとに「適正化計画」をつくり、医療費が計画どおりに抑えられているかをチェックする仕組み。「適正化計画」では、医療費の抑制目標とともに、平均在院日数の短縮、生活習慣病対策などの目標数値を設定し、都道府県の目標達成が「不十分」な場合は、厚労相の権限で、該当する都道府県ごとに診療報酬を下げる「特例」を設定するとしている。「在院日数の短縮」とは、患者の「早期退院」をうながすこと。医療費抑制のため、患者の病院からの追い出しを、国、都道府県あげて進めようとする体制づくりだ。

■政管健保保険料を県別に
 医療改悪法案には、政府管掌健康保険(政管健保)、市町村が運営する国民健康保険を都道府県単位を軸に再編・統合する方針が盛り込まれている。中小企業の労働者が加入する政管健保の運営を国から切り離し、全国単位の公法人「全国健康保険協会」を設立。同協会は、都道府県単位の支部をつくり、財政運営の基本にする。その結果、都道府県ごとに地域の「医療費水準」にもとづく保険料率を定めることになる。いまの政管健保の保険料率は全国一律で収入の8.2%(これを労使折半)。改悪案では、被保険者ひとりあたりの医療費が高い都道府県ほど保険料率が高くされてしう。厚生労働省の試算では、保険料率がもっとも高いところは北海道で8.7%、低いところは長野県で7.6%になるとしている。現在、政管健保は給付費の13%を国庫から負担してが、政管健保に対する国の責任が後退し、国庫負担も減らされる危険性がある。一方、国保は、「都道府県内の市町村の保険料の平準化、財政の安定化を図る」という名目で、都道府県内の市町村の共同拠出による「保険財政共同安定化事業」を今年10月からスタートさせるとしている。

■療養病床削減 23万人を追い出す
 医療改悪法案には、お年寄りが長朗にわたって入院する療養病床を大規模に減らす方針が盛り込まれている。現在、全国には約38万床の療養病床があるが、このうち医療保険適用型の約25万床を15万床に減らし、介獲保険適用型約13万床を全廃する方針だ(いずれも2012年度まで)。厚生労働省は「療養病床の入院患者のうち医師の対応がはとんど必要ない人がおおむね5割」だとして、「医療の必要性の低い患者」を「社会的入院」として、退院させると言う。療養病床の削減によって、入院ができなくなった人たちは、在宅療養の推進や、老人保健施設、ケアハウス、有料老人ホームなどヘの「転換」を支援すると国は言っている。しかし、所得の少ない人は有料老人ホームなどにとても入所できない。政府が介護保険で「在宅重視」をいいながらも、特別擁護老人ホームの入所を待つ人たちが全国で34万人を超えているのが実態。療養病床削減方針には「高齢者23万人が行き場を失う?」(『週刊東洋経済』2月25日号)と問題点の指摘が相次いでいる。

■保険業界が旗振る混合診療
 医療改悪法案の大きな特徴は、公的保険による診療(保険診療)と保険外診療を併用する「混合診療」を本格的に導入する内容になっている。いまの日本の医療制度は、「混合診療」を原則的に認めていない。例外的に認めているのは、1984年に導入された「特定療養費」制度。臓器移植など特定の「高度先進医療」は自己負担とし、診察、検査、投薬、入院などは保険で支払う。また、「差額ベッド代」など医療行為の本体でない「周辺部分」についてのサービスも自己負担としている。「混合診療」を無制限に広げてしまえば、「保険のきく医療」が縮小され、「保険のきかない医療」が拡大し、「保険証があればだれでもどこでも医者にかかれる」公的保険制度は崩壊する。
 改悪法案では、この「特定療養費」を再編成し、新たに「保険外併用療養費」を導入。「評価療養」と「選定療養」の二つがあり、いずれも厚生労働相が定めることになる。「評価療養」では、いまの「高度先進医療」に加え、必ずしも「高度先進」でない技術(対外衝撃波膵〔すい〕石破砕術など)でも、将来の保険導入の対象として「混合診療」が認められる。「選定療養」では、患者が「同意」「選択」すれば、現行の「差額ベッド」などにとどまらず、公的保険のきく回数を超える医療行為も新たに対象になる。

■だれのための医療改悪
 医療費の抑制は、財界が社会保険料の企業負担を減らすために強く要求している。日本経団運は、GDP(国内総生産)などを目安にして、医療費を「経済の身の丈」にあったものに抑えるよう主張。2025年度の医療給付費を42兆円にまで抑えることが必要だとして、外来1回当たり1000円の治療費までは公的保険の対象外とする「保険免責制」の導入や、診療報酬の合計10%の引き下げまで求めた。「保険免責性」は、今回の改悪法案では見送られたが、06年度の診療報酬は過去最大の3.16%引き下げとなった(4月実施予定)。改悪法案の医療費抑制策が先取り的に具体化されている。さらに、「混合診療」の拡大、解禁は、日米の民間医療保険業界が強く求めているもの。保険がきく医療が後退した分、民間の医療保険の市場を拡大するのが狙いだ。
 日本の企業の税・社会保障の負担率(フランス12.8、イギリス・ドイツ10.0、日本7.7)は、決して高いものではない。また、GDP(国内総生産)に占める医療費の比率をみると、日本は7.9%でOECD(経済協力開発機構)加盟国30ヵ国中17位で、決して過大ではない。逆にとびぬけて高いのは、公的医療保険における窓口負担割合だ。イギリスの2.0%、ドイツの6.0%、フランスの11.2%に比べて日本は16.1%という高さだ。

日向誠ひゅうがまこと(自治体問題研究家)

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