京都地方自治ネットレポート20060322
「格差社会への挑戦」考@(賃金闘争)
このテーマで少しの意見発表の場をつくります。まずは、1999年5月24日の小論を掲載
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「行革」規制緩和攻撃のなかで、賃金闘争を積極的にすすめるために

はじめに

 98年確定闘争は、地方財政の危機と超低額・賃金体系改悪の人勧のもとで非常に困難な闘いを強いられることになりました。99春闘も「ベアゼロ・定昇のみ」実質「賃下げ」などの回答が出される企業も多く、史上最低の賃金改定を更新する結果となりました。「春闘解体」という動きが本格的に始まっています。
 85年のプラザ合意により円高が進行し、東欧の崩壊、中国・ベトナムの市場経済採用など自由市場経済などの拡大で、海外に生産拠点を移す多国籍企業化がいっきに広がりました。中進国のGNPに匹敵する売上を叩き出している多国籍企業同士の激烈な競争、地球規模の競争が激突しあう舞台に日本の企業が遅ればせながら入っていったわけです。このなかで、財界や・政府が本格的な規制緩和路線をとりはじめ、90年代の中盤から大企業の賃金体系は、これまでの「年功序列」「終身雇用」を柱にした体系がくずれ「成果主義」が主流を占めようとしています。
今日の労働者の実態、これまでの賃金闘争の総括、財界や政府の本格的な「行革」規制緩和攻撃のなかで賃金闘争についての論議を大いに進め、21世紀をまえに労働組合の中心的な役員が賃金闘争に展望と確信をもって運動を推進しようではありませんか。

労働者のおかれている現状
総務庁が4月30日に発表した、99年3月の全国の完全失業者は4.8%・339万人と最悪の記録をさらに更新しました。中高年中心である世帯主失業率が3.4%と過去最悪で、家計への影響も深刻です。リストラなど非自発的離職による失業が106万人にのぼり、学校を出ても就職できない学卒未就職者も30万人にもなっています。また、労働省発表の同月有効求人倍率も3ヶ月連続の0.49倍ですが、京都での現状はさらにきびしいものになっています。また、総務庁5月17日発表の労働力特別調査(今年2月時点)では、雇用者(企業・役所・団体など)のうち正社員・正職員は前年比106万人減(減少記録)の3,688万人となり、雇用者(役員除く)数は、前年比54万人減の4,913万人でした。このうち、「パート・アルバイト」38万人増の1,024万人(構成比20.8%)、「嘱託・その他」14万人増の201万人で、正社員・正職員の減少と不安定雇用労働者の著しい増大が大きな特徴となっています。
 同月の実質賃金は前年度同月比で0.4%減とこれは、20ヶ月連続の減少となりました。同時に発表された総務庁の家計調査でも、これらの就業関係統計に比例して、勤労者の消費支出は前年同月比で実質3.6%減となり、98年度の実収入も1.3%減と過去最大の減収幅となるなど労働者のくらしは大きな困難に直面しているといえます。

財界の攻撃の特徴とねらい
 このような労働者の生活実態が生まれる原因は明瞭です。
 財界のねらいはきわめて明確な形をとっています。95年の日経連トップセミナーにおいて、当時の会長永野氏はこのように述べました。「物価も下げ、賃金もこれ以上増やさないという身近な例はアメリカにある。60年代〜70年代アメリカは世界一賃金の高い国になったが、同時に賃金上昇と物価上昇でスタフグレーションに苦しむ結果となった。そのため、アメリカ企業の海外進出がすすみ国内の製造業は急速に衰退し、経済成長の停滞と失業をまねいた。レーガン政権は、公務員の賃金の抑制、最低賃金の据え置きなど政府の手の届くところから賃金の抑制を徹底し、現在、実質賃金の水準が、30年以上前の1960年ごろと同じ水準になっている。また、産業誘致政策の推進などアメリカ製造業復活のベースつくり、「強いドル」からアメリカ経済の実力に見合う水準に切り下げるなど、アメリカ経済はみごとに復活した。おおいに参考にしたい。つまり賃金を下げ、物価も下げるというプロセスが必要ということである。」「恐らく『低生産性部門は賃金を上げるな』『下げろ』といってもそれは無理な話でしょう。経済メカニズムの中で、そうした問題を解決していくには、市場開放、許認可規制の見直し・廃止といった方法しかないのであります」とのべ、あからさまな賃下げ攻撃の口火をきりました。
 財界のこの主張は橋本内閣時の「橋本六大改革」という政府の政策にもりこまれ、財界の企業内でのリストラ、賃金体系改悪と結びついた雇用形態の急速な変化、労働法制の改悪などでいっそう拍車をかけています。そして、不況とあいまって賃金・労働条件切り捨てのシステムが形づくられてきていると言えるでしょう。

「上から決めていく」方式の日本の賃金決定機構
 日本の賃金決定機構といわれる流れは、3月(企業の決算期)に大手産業・企業の労使交渉による決定、4月〜6月中小企業での賃金交渉と決定(著しく未組織が多いが)などこれまでの春闘の流れ、8月人勧(5〜6月民間調査)で公務員関係の賃金水準決定、9月〜10月最低賃金発効(中央目安7月、地域最賃審議会8〜9月答申)というように形づくられています。この流れのなかで賃金水準の決定に、春闘は重要な位置を占めていたといえます。

日本の賃金水準は賃金決定機構にそったものに
 1975年以後、賃金引き下げ抑制・制度的な改悪が続き、賃金の低下・労働条件の改善が見られないことの大きな要因として次のようなことが指摘されています。@大資本と右翼労組幹部による賃金水準決定の管理機構としての春闘、A政府の政策誘導(民間中小労働者にも影響のある人事院勧告を使った低賃金や賃金制度の改悪の波及効果、最低賃金が低すぎると同時に違反は告発主義、労働法制の大改悪など、法違反の労働条件への不介入)、B圧倒的な未組織労働者の存在、C諸外国にみられない賃金格差の横行(産業別格差、地域格差、男女格差)です。これらの複合的な内容が、全体として賃金水準の決定に大きく作用し日本の低賃金構造を温存すると同時に、財界や政府の賃金・労働条件改悪の政策的な主導性を確立させているのです。
日経連が74年に「大幅賃上げの行方研究委員会」(現在の労働問題研究委員会)をつくり、賃上げのガイドラインを設定して以後、労働戦線の右翼的再編の流れと呼応した形で「管理春闘」がつくられていたことは周知の事実となっています。
 日本の賃金構造を低位固定化している大きな原因に賃金の格差構造があります。日本の賃金水準はおおざっぱに言えば賃金決定機構にそって、高い水準に大企業労働者、中位水準に公務員、中企業労働者、最低水準に不安定雇用労働者、出稼ぎ、外国人労働者がいると言われてきました。この格差に産業別、地域別、男女別の格差が加わって、団結の阻害と全体として低位固定化につながっていたわけです。
 春闘を管理春闘におきかえ、大企業の賃金抑制の仕組みに変えると同時に、この格差の温存(断固として最賃の全国一律を拒否しつづけるなど)は、賃金問題での財界と政府と労働組合右翼幹部の一貫した姿勢でした。また、「上から決めていく」方式の従来型賃金闘争の流れは、この格差構造を突破できなかった弱点を仕組みとして持っていたといえるのです。同時に、正社員・正職員の減少と不安定雇用労働者が政策的にも激増させられている状況に、これまでの賃金闘争の流れが、仕組みとしても対応できない状況に立ち至っているのではないでしょうか。

賃金闘争を発展させるために経験にとらわれない論議の発展を
 これまでの労働組合運動での賃金闘争における主軸は、例えば「シリーズ労働運動『人間らしい生活と賃金』より」に見られるような見方が主流でした。「このような低賃金をもたらしている"賃金決定の仕組み"をトータルにみておこう。日本の賃金を決定する主要ルートは、つぎの三つであり、その三つのどれもが賃金を抑制的に決定する場となっている。三つのルートとは、@春闘、A人事院勧告制度、B最低賃金制である。このうち、とくに春闘が日本の賃金決定において抜群の役割を果たしている。というのは、春闘における賃上げの結果(春闘相場)が、人事院勧告制度をつうじて公務員の賃金を「民間準拠」ということで規定し、同様に最低賃金の改定に対しても春闘相場(小企業)が参考(というより事実上の改定基準)にされるからである。つまり、春闘の結果しだいで、公務員の賃金や最低賃金の改定が左右されるのである。」と、「管理春闘」を打破すれば賃金闘争に大きな光明が生まれるという激励文となっているわけですが、多くの階級的労働運動をめざす労働組合も、このような主張のもとで方針が組み立てられてきました。
 たしかに「管理春闘」に、賃金闘争がこのような状況におちいっている大きな原因を求めることができると考えられます。そして、財界や連合の一部幹部がその中で果たした役割も明らかです。しかし、原因がはっきりしているにもかかわらず春闘における賃金闘争は前進せず、むしろますます後退し、もはや「管理春闘」とも言えない状況になっています。少々「春闘万能論(春闘が抜群の役割)的」主張におちいり今日の状況を打開する糸口を見いだせていないことも率直な問題としてみる必要があります。
 また、今日の賃金闘争での困難な事態の要因に、財界と政府による「行革」規制緩和の流れが本格的に動き始め、賃金の体系が個々人の「成果主義」(年俸制賃金や退職金の先渡しなど含め)に転換しつつあること、大量に正規社員からパート・臨時・嘱託・派遣などと言われる労働者群に置き換わっていることがあります。このことが加わって、複雑で困難な局面を向かえていると言わざるえない状況なのです。

賃金闘争の流れを春闘方式から「全労連」方式の確立へ
 日本の階級的な労働運動をめざす潮流は、「春闘」を本格的な政労使の交渉で国民生活全体を課題としてたたかう「国民春闘」とするために、春闘での弱点問題について指摘し、多くの教訓を示し運動の強化のために奮闘しました。春闘は1955年当時の総評が核になり、民間の大産別共闘(8単産共闘)の形で始められました。その後60年代、70年代初頭にかけて、その運動方式は統一要求・統一行動・統一交渉日の設定と発展し、日本全体の労働者の賃金水準決定に大きな力を発揮しました。また、年金制度の改善などを政府に求めるなど国民生活擁護の政策的な運動にも結びつく「国民春闘」につながって行きました。
 しかし、一方で大企業中心の交渉と、労働組合の組織形態・闘争形態などで産別闘争として未熟な弱点をももっていました。大企業中心に企業内主義での交渉で、いわば「上から賃金水準を決める」形態は、下請けを含む中小企業労働者や未組織労働者全体を包含する産別闘争としての弱点があったこと。政府に対する国民的な要求もひっかまえ、財界と政府を政治的に包囲して政治革新を展望しつつ運動を広げるという、統一戦線を強化する立場が弱かったことです。
 統一戦線支持の労働組合は、とりわけ賃金闘争の方向として、企業内主義の弱点を克服するために地域春闘を重視し、中小企業、不安定雇用労働者をはげまし賃金闘争での全労働者の要求組織と団結を広げることの重要性を指摘しました。同時に春闘の弱点を克服する努力のなかで、最低賃金制度の拡充など、賃金の格差構造を是正するたたかいを重視しました。このなかで、74年の全国一律最低賃金制度をめぐる四野党(社会・共産・公明・民社)共同法案の提出を頂点とする運動が形づくられたことがありました。
 その後、階級的なナショナルセンター全労連が結成されているなかで、労働組合の組織率の低さ、不安定雇用労働者の激増など労働と雇用の中での変化を見逃さず、最低賃金から賃金闘争が始まる(ヨーロッパなど参考になる例がある)ような、つまり「下から賃金を決めていく」たたかいについての発想がなぜ提起されないのでしょうか。前述の「シリーズ労働運動『人間らしい生活と賃金』」の最低賃金制の項をみると、最低賃金制度は「諸刃の剣」で賃金を低める効果もあり、労組の力関係が弱いときには得策でないような取り方のできる記述がありますが、日本ではどうもそういう思いこみだけで議論が停滞しているようです。
 これらの問題に対して個々にも大局的にも検討を加え、新たな方向性を大いに論議しながら確立することが必要です。

大きな変化が賃金闘争発展の力にもなる
 今日の「日本の形」をつくりかえようとする「行革」規制緩和の強烈な動きのなかで、異常な失業者の増大、正規社員の減少や派遣・不安定雇用と低賃金労働者の拡大、労働者のなかでの「不満や不安」の増大、労働組合組織率の引き続く低下など、労働者のなかでのあらたな矛盾が拡大しています。また、企業内での中堅社員であった中高年層への激しいリストラが、従来の「企業主義」などの意識を崩壊させるなど労働者のなかに大きな変化が生まれています。賃金・労働条件問題をすべての労働者の共通要求として、運動のエネルギーの方向を再組織することが必要となっています。
財界と政府が進めようとしている雇用形態の強制的な変更は必然的に賃金水準を低下させ、「成果のあがったものは特別に優遇される」という餌をあたえても、多数の怒りや要求を押しとどめることはできません。これは、労働運動の側から言えば、団結できる要求水準が労働者の気分・感情にあえば大きな広がりをつくれる土台となることを示しています。
 運動の方向としては、すでに端緒的ですが「全労働者を目標とした要求アンケート活動」や「総対話と共同路線」が提起されています。こうしたとりくみを発展させるには、これまでの経験的な要求の確立、闘争スケジュール、闘争形態などを、労働者のおかれている実態分析のもとに骨太く組み立て直す必要があります。

多様な形の賃金要求と運動の大きな流れをつくりだすために
 「賃金は労働力の価格」であるという、賃金の本質について変わるものではありません。生活に根ざした要求論議をますます強化すると同時に、賃金の基本について繰り返し学習を強めることがもっとも重要な課題であることはもちろんです。同時に賃金闘争を進める場合、要求に「支持と共感」を広げ確信を持って運動を進めるために全体として何が重要な問題になっているのか、運動の方向はどうあるべきかを明らかにしなくてはなりません。
要求問題では、労働者の実態が賃金体系の変更と雇用の流動化のなかで、格差構造の拡大と同時に低い賃金水準での労働者層の増大をみる必要があります。この傾向は規制緩和を主要な政策とする多国籍企業の国際的な要求のなかで先進各国が政策的に推進している問題で、これに対する各国労働者の運動でも模索がはじまっていると言えるのではないでしょうか。
 アメリカでのユナイテッドパーヤルサービス(UPS)のストライキ闘争の勝利と連動したクリントン政権の最低賃金引き上げ、99年4月から実施され全労働者の9%(約200万人)の賃金改定を実現したイギリスの最低賃金法、「ワークシェアリングの発想」のもと2000年1月1日から賃下げなしの週35時間の時短を実現したフランス、2月18日4.2%の賃上げ協定をかちとったドイツ金属労働者や3月上旬3.1%の賃上げかちとったドイツ公共産業労働者など国際的には教訓に満ちた前進がかちとられています。
また、97年6月6日欧州連合労使がパート賃金の差別に対し「フルタイム労働者と同一待遇に」で合意しました。世界におけるたたかいの突破口が「底上げ要求」であることに注目することが重要です。
 概括すると、規制緩和とたたかうキーワードは「最低賃金」と「労働時間」における要求と運動になっていることに注目します。
さらに、アメリカでは約30の自治体で「自治体の仕事を請け負う業者にたいして、そこで働く労働者に生活賃金を支払うよう義務づける条例」が制定されて、全米で労働組合・市民団体の共同した運動として広がりつつあります。これらの「行革」規制緩和で苦しめられる諸国民のあらたな運動は、とりわけ日本の自治体労働者にとっても検討すべき内容をもっているのではないでしょうか。
 これら諸外国の運動と要求は、「人間らしく生きるためのルール」を求め、「生活するうえでの公正な賃金」の要求が基本となっています。アメリカの自治体での条例制定の運動は、最低賃金が貧困賃金である現実から、本当に「健康で文化的な最低限」を実現する生活賃金の要求となっています。これら、諸外国の運動の成果・状況から見ても、労働基準法の改悪や人材派遣の自由化など、働くルールの改悪のなかで、職場の実態や賃金の実態について社会的な告発を強め、賃金や労働条件問題で、政治・政策的に財界と政府を包囲する運動が重要です。
 日本の財界ですら、規制緩和の流れのなかで労働者の大きな不満が広がることを予想し、次のような方針をもっています。97年5月の日経連産業活性化特別委員会最終報告の「人の活性化で新しい産業社会の構築を」によると(人と企業の活性化の基本的方向-2改革の基本的方向-(1)キーワードは「自由化」への対処)「一方、市場調整、規制緩和により雇用その他で不利を受ける人も出てくる。社会的弱者に対する保護は適切なレベルで行うという前提のもとに、構造改革を推進すべきである。企業においてもミニマムの保障を図りつつ、能力主義・業績主義を徹底する考え方が必要である」と述べています。
春闘の弱点を克服するために、統一労組懇などが奮闘した課題をいまこそ中心課題として、地域に根づいた賃金闘争を展開する必要があります。

京都自治体労働者の賃金・労働条件の運動についての課題
 今日的状況のなかで、自治体労働者が全体的な賃金・労働条件改善の運動ではたす役割や課題は、次のように考えられます。
 これまでも自治体労働者のすぐれた賃金闘争の到達点は、ローカルミニマムの確立に貢献するたたかいであったといえます。例えば大阪衛都連の有名なスローガンは「住民の幸せなくして自治体労働者の幸せはない」ですが、とりもなおさず民主的自治体労働者論とローカルミニマム確立の視点を貫いて賃金闘争をすすめようというものです。今日的な課題として考えれば、不況克服と地域経済の活性化、リストラに反対し不安定雇用の低賃金労働者の賃金引き上げに自治体労働組合が真正面からとりくもうということになってくるでしょう。
この点では、予算闘争と賃金闘争の結合の重要性はいうまでもありません。自治労連はこの観点から定期大会日程なども春闘直後に変更し、組合の重要な意思統一の日程も予算闘争に対応したものに変更しました。京都自治労連もこのスタイルに大会などを変更しました。しかし、実際は全国も地方も、賃金闘争の流れや考え方が従来方式のため、予算闘争と賃金闘争を結合して推進するものになりきっていないのです。
 今後の賃金闘争で、特に予算闘争との関係では、賃金問題における格差問題に自治体労働組合として本格的にとりくむが重要だと思われます。なお、格差問題はつきつめれば「人権」と「社会保障」の理念に結びつくものであり、自治体行政にとっても重要な構成部分となることを付言しておきたいと思います。
 身近な例としても、自治体内格差問題(職務職階給問題、職務別給料表問題、正職員と臨時、自治体と外郭団体、男女問題)は現に職場・単組でも賃金闘争の重要な課題となっています。さらに、委託予算等に人件費はどのように位置付けられ積算されているか、現に払われているのかなどの実態調査と「最低それ以下で雇ってはいけない」という規制が重要な課題ではないでしょうか。すでにアメリカの例を紹介しましたが、ILO94号条約(公契約における労働条項に関する条約:日本未批准)など賃金保護に関する条約(日本の場合未批准となっている)などの実効を政府や自治体に求めるなどの運動方向も検討にあたいするのではないでしょうか。
 その根幹に最賃闘争を(現行地域最賃はあまりにも低すぎるが、本来のローカルミニマムの基軸としなければいけない)据えながら、地域生活賃金要求を軸とした運動の検討が必要です。京都自治労連としてこうしたとりくみを進めるために、まずは学習活動、調査活動、団体署名運動を強化する必要があります。

賃金闘争と予算闘争の結合した運動の流れは
 第一段階は、秋の予算編成期にむけ住民要求運動を強化することが重要です。そのためには、4月〜8月にかけての「住民要求アンケート活動」、賃金問題では「ハローワーク前調査活動」「要求大アンケート活動」「アルバイト賃金調査」など人勧闘争や夏期一時金闘争と結合した、組織内外の未組織・不安定雇用労働者への調査活動を重視することが必要です。これらの結果を、地域労働基準局・地域最賃審議会などへ資料提供と交渉、自治体へも申し入れ行動を強めることが必要でしょう。なお、定期大会で生活改善と自治体要求を決定する方が、組合員の要求と運動の関連を理解(「賃金を含むこの要求を実現するために予算闘争・賃金闘争をこのようにすすめます」という論議ができる)するうえからも望ましいと思われます。
 第二段階は、8月〜12月にかけて予算編成での「住民要求懇談会」、要求での共同を求めるオルグ活動、自治体・政府への要請活動などを強める時期です。これを、自治体確定闘争と結合してダイナミックにすすめることが必要でしょう。確定は実質的な賃金問題を組合員に突き付ける時期であり、徹底した学習会と団結して行動する(決起集会等々)ことを学ぶ時期でもあります。自治体内最低賃金の確立や不安定雇用労働者の賃金・労働条件改善、地域の生活賃金要求など地域要求を含む、地域での統一要求・統一行動などを設定する努力も必要です。
第三段階は、11月〜3月にかけて自治体議会・国会への要求・要請行動を強める時期です。具体的な条例・法案等に対して、その実現をせまる地域総行動を主体とする行動を展開し、徹底した大量宣伝、デモやストライキなどの行使なども必要となってくるでしょう。
 これらの流れを作り出すうえでは、要求の確立について工夫が必要となっています。要求の組織のしかたについても練り上げる必要があるでしょう。また、賃金・労働条件に関する要求も組織内の組合民主主義を徹底した議論とともに、例えば地域労連や民主団体との連携や討論も必要となってくるでしょう。
 また、自治体労働者を含む公務員労働者の労働基本権が大幅に制限され、労働者として自主的に賃金を決定することができないことは重大な問題です。その"代償措置"としての人事院勧告制度という"制度そのもの"に根本的な問題があることは、今日の勧告の数々が民間準拠の名のもとに制度や制度の根幹にかかわり"代償措置"というものでなく、政府の賃金政策を押しつける機関となっていることからも明らかです。この人勧体制打破という問題は、従来の日本の政治経済体制を打ち破ることに匹敵する問題でもあると思われます。したがって、日本の「経済民主主義」実現のための戦略目標として、民主的な政府を確立する統一戦線運動の発展と結びつけた運動が必要でしょう。

おわりに
職場から賃金闘争が大きく変わるということではないにしても、運動の矛先やねらいについて今日の事態を打開することが必要となっているのは明らかだと思います。また、ローカルの一産別である京都自治労連のみで運動がかわるはずもないでしょうが、もっとも矛盾の現れるところに運動のウイングを広げることが必要だと思います。忌憚のない議論が進むよう期待するものです。

小川進
おがわしん(労働問題アナリスト)


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