京都地方自治ネットレポート20060309
府内で相次ぐ自治体病院廃止・民営化の背景を考える
1、自治体病院をめぐる三重苦
京都府内では、昨年は府立洛東病院の廃止とともに町立大江病院の民営化と職員解雇が強行され、そして今、本年4月からの町立精華病院の民間移譲を前提とした民営化問題に加え、年明けには突然、舞鶴市民病院の解体・縮小・民営化方針(本年4月から)が発表されました。自治体が、地域医療や住民の健康実態などを無視し、また、住民・患者・職員の声をまともに聞くこともなく、一方的に病院の動向を決定し、地域医療への責任を放棄・縮小する動きが一気に表面化してきています。洛東病院の廃止問題にみられる、京都府の地域医療への責任放棄、そして患者・住民・職員の声を無視した異常な行政運営が、その後、府内自治体に蔓延して、民営化等の動きに、大きな拍車をかける状況を生み出していると考えられます。こうした事態の背景として大きく三つの事が考えられます。

2,「医療構造改革」で、病床削減と公的病院も「官から民へ」
一つは、「官から民へ」「国から地方へ」のかけ声のもと、小泉改革で進められている「医療構造改革」です。政府・財界は、医療に対する国の予算を削減し医療で利潤追求ができるようにするために、医療保険制度の改悪のみならず医療提供体制の改悪として、病院経営への株式会社参入の解禁などとともに、病院や病床の絶対数を減らす政策をすすめてきています。そして、この重要な柱の一つに、国立病院・社会保険病院・自治体病院などの公的病院の縮小・統廃合・民営化を位置づけています。2002年11月に、自民党の医療基本問題調査会の「公的病院等のあり方に関する小委員会」が、公的病院等についても「民間にできることは民間に」の考え方に沿ってあり方をみなおす「報告」をまとめ、その後、政府は、関係省庁ごとに、廃止・民間移譲・民営化等を具体化にすすめています。 
今の府政は、こうした国の政策をそのまま持ち込んで、洛東病院の廃止にみられるように、都市部では積極的に病床を減らし、一方、医療過疎地では、町立病院等の運営困難に積極的な対策をとらず、むしろ再編・民営化等を助長しているといえると思います。

3,「自治体構造改革」で、「自治体病院の民間化」
もう一つは、「自治体構造改革」です。この間、政府は、「自治体の民間化」で自治体の役割や中身を変える動きを強め、地方独立行政法人制度や指定管理者制度はじめ自治体リストラの様々なツールを制度化してきました。総務省は小泉内閣の「骨太の方針」等をふまえ、2004年4月、自治体に対して「地方公営企業の経営の総点検について」の通知を出し、病院をはじめとする地方公営企業について、その必要性の是非から見直し、業務の廃止・民間移譲・民営化などを推進するよう指示していましたが、昨年3月に発表した「新地方行革指針」の中では、新たなリストラのツールの活用を含めて、いっそうの具体化を自治体に迫ってきています。こうしたもと、市町村合併の押しつけや、「三位一体改革」による財政面からの締めつけなどと相まって、地域の実態を無視して、自治体が病院運営の責任を縮小・放棄する状況が作り出されてきていると思います。
大江病院の民営化の主な要因は、中丹一市三町の合併問題で、合併後に二つも直営病院はいらないという福知山市の態度に町当局が屈服したためですが、総務省の公営企業アドバイザーとともに、京都府はこれに協力してきました。

4,「医師確保の困難」が、「病院再編・縮小」に拍車
三つ目は、医師確保の問題です。1980年代の後半から政府は、誤った「医師過剰論」に基づいて医師養成の抑制政策をとってきており、このもとで医師の過酷な勤務条件、地域偏在、産婦人科・小児科・麻酔科の医師不足など、積年の課題について、公的責任での解決が放置されてきていました。そして2002年度から始まった「医師の臨床研修の必修化」のもと、大学医学部や医科大学での「医師不足現象」が発生して、大学から地域に派遣している医師の引き上げ等がはじまりました。医局からの派遣に依存している自治体病院をはじめ多くの病院で、医師確保の困難に拍車がかかり、全国的にもこのことが、自治体病院の再編・民営化等を促進する要因になってきています。「臨床研修の必修化」は、研修医の処遇と研修内容の改善など、懸案の課題の解決に向けての重要な一歩ですが、それに伴う条件整備がおこなわれてこなかったことに主な問題があります。
精華病院の民営化、舞鶴市民病院の縮小・民営化の口実の一つに、医師確保の困難がいわれ、京丹後市弥栄市民病院での新規分娩の受け入れ休止など、医師の確保困難が地域医療に重大な問題を引き起こしています。京都府は遅ればせながら、来年度予算案で、「ドクターバンク」など一定の対策を打ち出しましたが、府北部をはじめとする医師不足の状況を解決するには不十分で、他県の先行事例なども参考に、医師の確保・定着のための緊急で抜本的な対策の具体化が求められています。

5,自治体病院を柱にした「健康で安心して暮らせる町づくり」を
自治体当局は、自治体病院を「健康で安心して住み続けられる町づくりの柱」として位置づけるとともに、民間医療機関等とも連携して、地域住民の健康実態や医療ニーズなどを踏まえて、保健・福祉・医療を一体的にとらえた行政運営をすすめてゆく必要があると思います。そのもとで自治体病院は、@地域に欠けている医療を確保する(不採算医療、欠けている診療科、救急医療等)、A規範的医療を推進する(安全安心の医療、患者さん・住民の権利保障、高度・先進医療等)、B保健・福祉・医療を一体とした自治体行政を推進する(民間医療機関や福祉施設などと連携して)などの役割があると考えます。そして、自治体や病院当局は、医療情勢等の激変や住民の健康実態・医療ニーズに機敏に対応して病院を充実・発展・進化させるとともに、住民・職員の英知を結集した病院運営で住民とともに歩む病院づくりを進めることが求められています。自治体病院がその地域で十分な役割を発揮できるよう、積極的に支援する府政が求められているのではないでしょうか。

山本 裕 やまもとゆたか(京都自治労連)

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