犬山城
[ ホーム ] [ 上へ ]

 

天守閣(67年7月)

名鉄各務ヶ原線に乗る。列車は冷房付きの新車、車窓に目をやりながら、犬山遊園へと向かう。しばらく窓の外の景色に目をやっていると、小さな森の上に頭を覗かせた、犬山の天守閣が見えてきた。『国宝・犬山城』その名の通り、森の緑の上にのっている天守は、光り輝くように、雨の中に見えた。まもなく電車は橋を渡り、犬山遊園駅へ。駅前の広場より、木曽川に沿って城に向かう。右手は、赤茶けた岩の間を、水が流れている。道は、天守のある小高い森にと続いている。右手を木曽川に洗われ、絶壁のようになっているその上に姿を見せる天守は、一輪の花にも似ている。道はその丘の下に来て、トンネルになる。丘を木曽川に沿って大きく回り、大手前らしき神社の前に出る。そこより急な道を登る。左手に昔の、いや今の城主である、成瀬家の家がある。『国宝・犬山城』の額のある門を入る。この門はコンクリート製である。たぶん後に復興したものであろう。門をくぐって広場に出る。そこに天守閣があった。そばに杉の老木がある。天守閣がぽつんと、昔の栄華を思い出しているように、立っていた。中に入る。入ったとたんに外界から離れ、何百年前へと引きずられて行くような錯覚く。(67年7月)