坪庭


職業柄坪庭は専門分野です
幾つもの坪庭を造って来て想うのはその宇宙観
小さく狭いスペースに大きく広い想像性を駆り立てられる


京町家を特徴付けるのはハシリと呼ばれる吹き抜けの土間と坪庭
京町家の坪庭とは、職住一体型の家の場合、
住居と店を隔てる玄関の背後にある庭のことで、
奥座敷に面した「奥庭」ではない



従って全ての町家に坪庭があるわけではないが、
細長い京の町家で坪庭は大きな働きをする
店と住まいの美しい緩衝地帯であるだけでなく、通風、採光の装置
しかし、そんな寸庭ならどの町でも見かける
なぜ、坪庭が「京都らしい」のか?
それはハードたる庭ではなく、「庭の使い方」というソフトにあるのではないか
細長い京の町家は光や風が行き渡りにくく
夏は蒸し風呂のごとき状態となるが、この坪庭によって風を起こすことができるのだ

つまり、坪庭にたっぷりと水を撒き、奥庭を乾燥させることによって家の中に対流が起き、
ソヨとも動かなかった空気が流れ、風を起こす

その風を冷やすため、水を含んだ葭簀(よしず)を庭先の軒に吊すのも
風情というよりはむしろ科学
濡れた葭を通過した空気は浄化され、冷却されて奥庭に向かって座敷を流れるというしくみ
坪庭という自然の冷房装置を美しく手入れするのは、科学ではなく生活の美意識で、
この二つが相まって坪庭は京都らしいのである


つづく・・・