リコリスの正体

ヒガンバナの葉を見たことがありますか?
ある講習会で質問したところ、「ヒガンバナって葉があるんですか?」と逆に聞かれました
まだまだ残暑が厳しく、秋風が恋しくなるころに、
ヒガンバナはにょきにょき伸びた茎の先端に燃えるような緋色の花を咲かせます
その姿を見ると確かに茎のみで葉はありませんね

実はヒガンバナの葉は、花が終わった後に出てきます
細くて光沢のある葉です
春を過ぎると葉は姿を消し、やがて茎だけが地面から伸びて
夏から秋にかけて花を咲かせます
此花の印象があまりにも強過ぎて、花が咲いていないときには、
誰もがヒガンバナだと気付かないのですね

ヒガンバナは曼珠沙華(マンジュシャゲ)とも呼ばれますが、
別名や方言名が実に多く、その数は千を超えるととも言われます
数例を挙げてみると、シビトバナ、ユウレイバナ、ジゴクバナ・・・
どうやら、どの地方でもあまり芳しくないイメージを持たれているようです
墓地に多く見られるためでしょうか

でも、それには理由があります
ヒガンバナの球根が有毒で、その毒で犬やネズミなどから土葬した遺体を
守るために植えられた、といわれています
また、土手や田んぼのあぜにもヒガンバナが多く見られますが、
これもネズミやモグラの侵入を防ぐのに効果的だったのでしょう



不吉な花としてのイメージが残るヒガンバナですが、最近「リコリス」と呼ばれ、
急に人気が高くなってきました
花色もピンク、黄、白、青と、さまざまな品種が作られ、
庭や花壇、コンテナの寄せ植えによく用いられます
私も事務所前の植え込みにリコリスを寄せ植えしていますが
その華やかさが、通りすがりの人の足を止めることも少なくありません

リコリスは乾燥しない半日陰地を好み、球根は六月から九月に植え付けます
球根は堀上げずに、そのまま植えっ放しにします
夏の花々が色を失ってくるころ美しい花を咲かせ、
つやつやした葉が、花がなく寂しい冬の庭を彩ってくれます

そのライフサイクルも他の植物には無い不思議な魅力をもっています

リコリスという愛らしい名前が、これまでのヒガンバナのイメージを
完全に払しょくする日も、近いのではないでしょうか