マツは手で慈しむ

「・・・木高き松を吹く風の、声も秋とぞ聞こえぬる・・・」(「梁塵秘抄」より)
「松風」という言葉がありますが、マツのこずえを渡る風で季節を感じる感性は、
わが国独特のもの。
姿の良いマツは心地よい音色の松風を奏でます
特に、幹の美しいアカマツは庭木の女王
姿の良いアカマツが一本あるだけで、その庭は身の引き締まるような格調の高さと、
一句ひねりたくなるような風雅な気品を備えることができます

修業時代、初めてアカマツに触った時、「いとしい女性に接するように大事に優しくな」と
親方に言われたものです
実際、マツの手入れは鋏みを使わず、慈しむように手で行うにが原則です

マツは春に枝先に数本の新芽が発生します
この新芽を「緑」と呼びますが、緑が10cmくらい伸びたら、
指で摘み取らなくてはなりません。
この作業を「緑摘み」といい、これを行わないと緑が伸び過ぎて、
著しく樹形が乱れてしまいます

なぜ手でつむかというと、鋏みを使うと葉を切ってしまい、
切れた葉先が赤くなってしまうからです
摘み方は地方や人により千差万別ですが、勢いのいい緑を短く、
ほかを長めに残すといったように、
後々の姿を思い描きながら強弱を案配するのです

もう一つマツの手入れで大切な年中行事が、秋に行う「もみあげ」。
もみあげは、今年の葉を残して古い葉を手でもむようにしてしごき落とす作業です
これも上枝を多くむしり、下に行くほど多く葉を残すなど、
うまく案配して作業します

とにかく日が短い時期なので、要領よく行います
もみあげが終わると、マツは見違えるほどすっきりします
「きれいになりましたね」のお客さんの一言ですべてが報われる思いがします

ところで、「マツにセンチュウ」という言葉をご存知ですか?
センキュウは漢方薬局で売っている生薬ですが、
これを煮出した液を、弱ったマツの根元に溝を掘って与えると、
すっかり元気を回復するのです

その根拠はよく分かりませんが、実際、京都のある名園のマツは
センキュウを与えて実に生き生きしていると聞きます
センキュウは血液循環をよくする効果があるので、
その効能がマツの生理もととのえるのでしょうか?

ご存知の方がいたら、ぜひとも教えていただきたいと思います