植木職人の鋏

手になじみ、切れ味鋭い物を・・・

若い職人が、植木の手入れをしています。
チョキッ、チョキッ、チョキッ・・・。
随分と良い音を出すようになりました。
長年、この仕事をやっていますと、音を聞いただけで、職人の技量が分かるのです。

彼が使っているはさみは木ばさみ、または植木ばさみといって、小指くらいの
太さの枝までを落とします。親指くらいの太さの枝になると、バネ付剪定鋏を使います
これは、もともとは果樹剪定用のハサミでした。
手首位の太さの枝になったら、ノコギリを使うしかありません

私たちの「技」の様子が光るのは、木バサミの使い方によってだと思います
木バサミは、枝先の細かい部分の剪定に適しています
特にモミジや雑木類のような木では、僅かな風で、枝先がサワサワと
そよぐような柔かさを出せるかどうかが命で、これは木バサミの使い方次第なのです

木バサミは独特の形をしています。指を入れる部分である「蕨手」(わらびで)が、
大きく湾曲しているのが木バサミの特徴ですが、これは枝を落とす際、
周囲の枝を柄で挟んで傷めないように工夫された物なのです

実は、江戸時代には、はさみといったら木バサミのことでした
元禄時代以降、泰平の世となって刀剣の需要が減り、
鍛冶屋の職人の仕事が無くなってしまいました
そこで鍛冶職人達はその技術を、
日常生活に必要な刃物類の製作に応用したのです
その中の一つが、木バサミです
この木バサミから裁ちバサミが生まれ、今日一般に見られるハサミの形と成ったのです
木バサミははさみの原形なのです。

若い職人や、時にはお客様からもよく聞かれます。
「どんなハサミを買えばよいのでしょう?」と。
「実際に手に取り、大きさなどがよく手に馴染んで使いやすい物、
そして刃と刃のかみ合わせがいい物ですね」と答えるようにしています

刃と刃のかみ合せがよく、切れ味が鋭い、こんな事は、商品として当り前の事。
私達の使うハサミだけでなく、大工の使うカンナだって、左官の使うコテだって、
野球選手のグローブだってそうです
初めからいい道具なんてありません。道具ってものは、
日々きちんと手入れして、使い込むほどに手になじみ、
使い勝手のいい物に成っていくのです