8月 尾岱沼の朝
(おだいとう)
解説:
北海道の東端、知床半島と根室半島にはさまれ、エビが体を曲げたよう
な形の半島に囲まれた湾が尾岱沼である。
夏はエビ漁の白い三角形の帆を張った打瀬舟。風をいっぱいにうけ、青い
水面をゆらゆらとすすむ打瀬舟のさわやかな姿は夏に欠かせない風物詩に
なっている。
また、冬は白鳥の飛来地としても知られる。
私が初めて北海道の地を踏んだのは1983年冬のこと。
千歳空港から札幌に向かうバスから見る風景は殺伐とし、まさにこれから
始まる生活を暗示するような暗い景色だった。
折しも札幌は『さっぽろ雪まつり』に向けての雪像作りの真っ最中。そん
な中、大通り公園近くの出張所に入った。
この日から9ケ月間、札幌での一人暮らしをすることになる。
当時私が在籍していた会社は、全国展開に向けてサービスブランチを各地
に開設した。メンテナンスの仕事をしていた私は、初代所長として札幌に
飛ぶ事になったのだ。
奈良大和路をライフワークと考えていた私にとっては、全く逆の方向に飛
ぶのは耐えがたい事ではあったが、所詮会社が決めたこと、従わざるを得
なかった。勤務体系は、土日もポケットベル対応というもの。ただし、そ
のかわりとして2ケ月に一度、10日間くらいまとめて休みを与えるとい
うのが条件だった。それだけが唯一の救いだった。
最初に休みを取ったのが、2月の半ば。
「せっかく北海道に来たのだから、流氷の写真でも撮りに行くか....」
そんな思いが北海道旅行の始まりだった。
最初に目指したのがサロマ湖。札幌発網走行きの夜行列車に乗り、遠軽で
乗り換え。さらに中勇別で勇網線に乗り換える(今では廃線)。
芭露駅で下車。ひたすら湖岸に向かって歩けば、日の出に間に合う計算だ。
ねらい通りだった。
あの位置からすればおそらく知床半島だろう。凍てつく寒さのなか昇る朝
日はことのほか美しく、感動に言葉はなかった。
軽い気持ちで出かけた旅だったが、広い雪原、流氷の海、澄みきった空。
北海道の魅力に引き込まれていくのは、ごく自然のことだったかもしれな
い。
その後、道東,道北へと幾度となく旅をした。
この写真はその年の夏、三度目の旅をした時のもの。
こんなに美しい朝焼けを見たのは、その時が初めてだった。
あれから15年。当時のことを思い出すと、また北海道に行ってみたくな
る。今年の夏も、多くの旅人が『北の大地』を目指すのだろう。