「誰も知らない」

2004年・日本
141分
(監督)是枝裕和
(主な出演者)柳楽優弥/北浦愛/木村飛影/清水萌々子


「STORY」


トラックからアパートに荷物が運び込まれてゆく。
引っ越してきたのは母けい子(YOU)と明(柳楽優弥)、京子(北浦愛)、茂(木村飛影)、ゆき(清水萌々子)の4人の子供たち。
だが、大家には父親が海外赴任中のため母と長男だけの二人暮らしだと嘘をついている。
母子家庭で4人も子供がいると知られれば、またこの家も追い出されかねないからだ。
その夜の食卓で母は子供たちに「大きな声で騒がない」「ベランダや外に出ない」という新しい家でのルールを言い聞かせた。

子供たちの父親はみな別々で、学校に通ったこともない。
それでも母がデパートで働き、12歳の明が母親代わりに家事をすることで、家族5人は彼らなりに幸せな毎日を過ごしていた。
そんなある日、母は明に「今、好きな人がいるの」と告げる。今度こそ結婚することになれば、もっと大きな家にみんな一緒に住んで、学校にも行けるようになるから、と。

ある晩遅くに酔って帰ってきた母は、突然それぞれの父親の話を始める。
楽しそうな母親の様子に、寝ているところを起こされた子供たちも自然と顔がほころんでゆく。
だが翌朝になると母の姿は消えていて、代わりに20万円の現金と「お母さんはしばらく留守にします。京子、茂、ゆきをよろしくね」と明に宛てたメモが残されていた。

この日から、誰にも知られることのない4人の子供たちだけの"漂流生活"が始まった―――。


「感想」

この映画のモチーフになったのは、「西巣鴨子供4人置き去り事件」と呼ばれる事件です。
母親から置き去りにされた彼らは出生届も出されていなかったんです。
つまり、法律的に言えば存在していなかったのです。
学校にも行かせてもらえてなかった子供達。

この作品を観て、最初に感じたのは「大人の責任」というもの。
無責任な、「母親」「周りの大人」そして「それぞれの子供の父親(4人とも父親が別なんです。)」
この子たちに大人は全然真正面から関わろうとしないのです。
彼らの悲惨な生活、悲しい心の叫び、そんな中であっても幸せと感じる心。それらを誰も知らないのではなくて「誰も知ろうとしなかった」のだと思う。
救えるチャンスはいくらでもあったはずなのに、悲しい結末を迎えることになります。
それがとても悔しかったです。
そして、子供を守るという大人の責任を痛感しました。

次に感じたのは、人間はどんなことをしても生きてはいけるが、生活をするということはたやすいことではないということ。
子供だけの力で、現代社会で生活をするということは無理だったと思います。
社会的にに見ればかなり不幸で常識から逸脱した生活でも、母親がいた頃には、この家族にはそれなりに(めちゃくちゃですが)きちんと家族のルールがあり秩序が存在しているのです。
そしてその生活は決して不幸ではなくて幸せが存在しているんです。
でも母親が失踪してから少しずつその秩序が崩れていき生活も崩れていく。
汚れていく部屋。水道や電気の停止連絡の紙。その紙に無邪気にお絵かきする子供。底をついていくお金。
そんな状況に長男はじめだんだん焦りを感じていく子供達。
自分も普通の子供でいたいと感じ、悲しいほどの葛藤を内に秘めながらそれでも必死で妹弟を守ろうとする長男。
その様があまりにもリアルで胸が締め付けられました。

さて、この作品で主演の柳楽優弥君はカンヌ国際映画祭で史上最年少の最優秀主演男優賞に輝き、
とかくこの話題だけが先行しがちですが、柳楽君だけでなく4人の子供達全員が素晴らしいです。
演技の面でいえば、どうなんだろう?って思うところもありますが、とにかく雰囲気と表情に惹き付けられました。
是枝監督の生きることに対する真摯な態度と社会に対する厳しい批判。
そして子供に向けられた優しいまなざしが、見事に表現されていましたが、これにはやはり子供達の力が大きく影響していると思います。
但し、これほどまでに子供達が魅力的なのは、
子供達には事前に台本を渡さずに撮影当日監督が口頭で伝える。リハーサルはなるべくしない。
など是枝監督の撮影方針によることろが大きいと感じるので、やはり是枝監督にしてこの作品なのではないでしょうか。

ところで、この作品のモチーフになった事件にはこんな続きがあります。
兄は心ならずも死なせてしまった妹を山中の雑木林に埋葬し、電車に乗って何度もお墓参りに出かけていることが明らかになった。
後に母親と再会した兄は、彼女の期待に応えられなかった自分を責めて涙を流したとのこと。

監督はこう言っています。
「この一連の事件の登場人物の中で、唯一この少年だけが、自らの責任を全うしようとした。そして、全うできずに自分を責めていた。14歳の彼だけが・・・。」
そして、この少年のことをいとおしくてたまらなくなってしまった・・・・・・僕の心の中で彼をしっかり抱きしめるためにこの映画を作ることを決意した。と。

映画では、このエピソードは描かれていません。それは、あえてそうしたのです。
そうすることで、監督はこの悲しい事件のその先にある決して甘いつもりはない「可能性」を描きたかったのです。

偶然にも、僕にも4人の子供たちがいますので、この作品にでてくる4人の子供達が他人に思えず、親として、大人として、とても心が痛くなりました。
そして、自分は子供達に責任を持って真正面から向き合っているだろうか?社会の子供達にも目を向けているだろうかと自問自答しました。

一人でも多くの大人に観ていただきたい、そう感じた素晴らしい作品です。

何故なら、子供の笑顔を守る責任は大人にあるのですから。。。


2004/09/04 Kid