「電車」
君は 僕を乗せていた
熱でうつろな僕は
母の背中で
君のガタゴトを感じていた
君は 僕を見ていた
不安と希望の僕は
真新しい背広もぎこちなく
君の警笛を聞いていた
夕焼けに続く線路跡
ゆっくりと腰をおろす
赤茶けた石達は
あの時代をそして君を
静かに懐かしんでいる
ひとつを握りしめ
目を閉じてみた
その時
優しい風が通り過ぎた
今のは 君かい
黄金色に燃える稲穂の向こうで
高らかに響く警笛が
聞こえたような気がした