”日本最長”天塩川100マイルカヌーツアー
「ダウン・ザ・テッシ-オ-ペッ スペシャル」


 北海道・旭川の北東・手塩岳に端を発し道北・天塩町で日本海に注ぐ大河、天塩川。この天塩川は約160kmに渡り人工物で遮られることなく、日本最長のカヌーツーリングができる川である。まさか自分がこの距離を下ることになろうとは思ってもいなかった。
 なんと、アウトドア雑誌「Be-pal」のツアー招待に当選してしまったのだ!・・・しかし、カヌーや現地でのキャンプ道具などはすべて自分で準備しなくてはならない。まあそやけど、何とかなるやろ! と息子・俊介との参加を決めた。 そして2002年7月20日、二人で旭川空港に降り立ったのだった。

風連町で、スタート前の写真 天塩川での4日間、それは、雨と風と寒さ(?)の4日間。しかし、人の優しさ、温かさにも触れた4日間だった。
 バイクで走れば2時間で着いてしまう距離。そんな天塩川の157kmをカヌーで1日およそ40kmずつ漕ぎ下る。決して楽なツアーではない。しかも今回は連日の雨。さらに道北の涼しさは予想以上。持って行った半袖は、雨の北海道では役に立たず、長袖やレインウエアが大活躍だった。

 スタートは風連町。風連20線堰堤下のスタート地点には200艇を越えるカヌーが集結していた。ほとんどはカナディアン、ぽつりぽつりとファルトやダッキー、それに手作りカヌーも混じっている。
 天塩川は結構流れが速い。これだけの数だと、スタートするだけでもたいへん。
 スタート合図を待つまでに沈してしまう艇もあり、小雨まじりの天候の中、まさに試練の幕開けなのだった(^_^;)。 (風連町のwebサイトはこちら。)
(写真はスタート会場で。このノボリをつけて下りました(^^ゞ 。)

 初日は「びふかアイランド」までの40km。瀬が少なく、川全体としては比較的穏やかな天塩川だが、前半には天塩川の名前の由来となった「テッシ」と呼ばれる、天然岩が「やな」の様に流れをさえぎる難所が何ヶ所かあり、気が抜けない場所でもあるのだ。

スタート直後の写真 スタート後は、近くにいる艇と挨拶したり、声を掛け合いながら進む(まだまだ元気)。 私の艇には「川辺川を守ろう」のノボリをつけていたせいもあり、いろんな人から声をかけられた。
 「川辺川ってどこですか?」「熊本です。」「えっ、熊本から来られたんですか?」「いえいえ、私は大阪からです。」「大阪ですか、遠いところお疲れ様!」と行った具合。
 なかには「熊本の川辺川ですね。私もダムには反対です!」と言ってくれる人もいたりして、思わず嬉しくなったりするのだった。

 それにしても、お昼前スタートの40kmは結構きつい。慣れないシングルパドル。しかも、ラダーストロークと云って後ろの漕者はパドルを漕ぎながら舵のように使い、カヌーの方向を修正しなくてはならない。普段ダブルパドルを使っているものにとって、これが結構面倒くさいのだった。
(スタート直後の模様。このカヌー隊が何キロにもわたって続く。)

 3時間近く漕いで遅い昼食。肌寒い小雨の中、正直「えらいもんに参加してしもうたなー。」と思いながら大きなおにぎりにかぶりついた。横では俊介が寒さに震えながらおにぎりを食っている。こいつも同じこと考えてるのかな?

 午後からも一面の暗い空を恨めしく睨みながら黙々とパドルを動かす。はっきり云って景色を楽しむ余裕はなかった。でも橋の上から多くの人が応援してくれているのが嬉しい。そんな橋をいくつかくぐり、夕暮れ迫るころ、ようやく「びふかアイランド」に到着したのだった。

 この「びふかアイランド」、結構いいキャンプ場なのだ。芝生のサイトに温泉がすぐ目の前。道の駅にも隣接しており、かなり便利。しかもキレイ。今度バイクでツーリングに来たときにもう一度キャンプしよう。 (美深町のwebサイトはこち

びふかアイランド、カヌーポートの写真
 夜の交流会では、最高齢参加者の方から手作りカヌーの話を聞かせてもらい、おまけにメロンまで分けていただきました。メロン好きの俊介は大喜び!

 その後、熱燗をちびりちびりと飲みながらテントで眠りについたのでした。



 (2日目のスタート前。びふかアイランドのカヌーポート。)

 2日目はびふかアイランドから中川ナポートパークまでの57km(!)。カナディアンカヌーで57kmでっせ。まさに持久漕。漕ぎっぱなし。しかもこの日も雨。いや、この日は昨日よりひどい雨だった(泣)。

 一所懸命カヌーを漕ぎながら、前の俊介に声をかける。「しんどないか?」「・・・うん。」−−しんどいのだろう。 「寒ないか?」「・・・うーん。いや、ちょっと。」−−寒いのだろう。 そりゃそうだ、ワシだってしんどいし寒いのだ。

天塩川の上で、雨の中の写真

(2日目の模様。雨の中ひらすら漕ぐ。

 前を行くのは「市町村長カヌー駅伝」の艇。

 流域の首長が順番にカヌーに乗って川を下る。

 こうやって行政の長が実際にカヌーからの視線で川を見ると、無駄な開発もなくなるだろうと思う。)

雨の昼食場所で、考える俊介?



(2日目の昼食場所で。    

雨の中、何を考える?俊介)
 
 2日目の昼食場所、音威子府で約半数の艇がゴールを迎える。今回は「ダウン・ザ・テッシ-オ-ペッ」のスペシャルステージということで、AコースとBコースの二つがあり、Bコースは約半分の距離でゴールするのだ。
 雨の中、2日間漕ぎ続けて、ここでゴールする参加者の表情には安堵感が漂っている。ここから帰宅の途に就くもの、まだ漕ぎ続けるもの、お互いの労をねぎらいながら別れるのだった。
 最後まで漕ぎ続けるものの心の中には、このとき、多少の不安とともに大きな決意があったことだろう。・・・私も含めて。

 2日目のゴール、中川ナポートパークに着いたのは、次第に夕暮れがあたりを暗く染めはじめ、クルマのヘッドライトが灯るころ。暗く、視界が悪くなった川の上から、ヘッドライトを照らして応援してくれるサポーターの人たちの気持ちがありがたかった。

 カヌーポートにカヌーを上げたころには、あたりはすっかり暗くなっていた。しかも今日は本格的な雨の中、これからテントを張らなければならない。同じくBe−pal組で参加した神奈川の女性ペアとともにテントを張る場所を探していると、ちょうどええところに”あずま屋”があるではないか!・・・しかしそこには先客が。

 ところが、ちょっと入らせてもらえないかと尋ねると、どうぞご一緒にと歓迎してくれた。しかも網焼きの肉や魚介類、熱燗(!)までご馳走してくれた。冷え切った体に染み渡る熱燗の美味さ。酒好きのオヤジは大喜び!

 あずま屋のすぐ横にテントを張らせてもらい、その夜は遅くまで先客である風連カヌー愛好会の方たちと楽しく話した。雨の中、疲れた体で夕食をどうしようかと考えていた中、地元の人たちの暖かい気遣いが、ホントありがたかったです。

 ここも天気がよければきっとええキャンプ場やったに違いない。芝生のサイトに綺麗なトイレやランドリーなどもある。すぐ隣のホテルで温泉にも入れた。 (中川町のwebサイトはこちら.中川町のホームページへのリンク 

 3日目は強風。それもそのはず、今日のゴール地点・幌延は風力発電の風車で有名なところなのだ。中川から40km先、幌延の手塩大橋上流河川敷が今夜のキャンプ場。ゴールの目印は二つの大きな風車です、とのこと。
 下流では川幅が数百mにも広がる天塩川で、強風にさらされるのは恐怖である。どないなるんやろ?

追い風に押されて傘をさすの図 午前中はそうでもなかったが、案の定午後からは向かい風が吹き始めた。強い向かい風の中ではカナディアンはなかなか進まない。前漕の俊介はそれなりに頑張って漕いでいるが、そこはやっぱり中学生、大人の漕力とまではいかない。力いっぱい漕ぐものの、その場に留まるのがやっとという状態の時もあった。正直、このときが一番しんどかった。

 それに、広い川幅の中での強風はやっぱり厄介なものである。横から強風に吹かれると、方向を保つのがままならず、岸に張り付けられたり、逆にどんどん川の真ん中に持っていかれたりするのだ。ひえ〜(泣)。
 
 ところが、ゴールが近づくにつれて、どっちかというと追い風に変わった! ここで活躍したのが、折りたたみ傘だった。俊介が前で折りたたみ傘を持っているだけで、一人分の労力が不要なばかりか、後ろで漕ぐだけで二人で漕ぐ時以上に速く進むのだった(愉快)!!

 追い風のおかげで、この日は予定時刻より早くゴールの手塩大橋上流河川敷に到着した。

 3日目のキャンプは、ようやく雨は上がったものの、強風の河川敷。テントを張るのにも風で苦労した。ここではスタッフのクルマに同乗させてもらい、豊富温泉に連れて行ってもらった。この温泉、成分に石油が入っているという珍しい温泉だった。肌はスベスベやけど、なんか風呂上りに石油のニオイが・・・(^_^;)。
(幌延町のwebサイトはこちら。)

強風の夜のキャンプ風景

(強風の河川敷でキャンプ。
 7月下旬だというのに、毎晩寒くて寒くて(泣)。
 ちなみにキャンプ道具はスタッフのクルマで
 運んでもらっていました。
 スタッフの皆さん、ありがとう!)

最終日のスタート前の写真、行くぞー!
 4日目、最終日。今日はいよいよ最終ゴールの天塩川河口を目指す。天塩町・河川公園まで20kmの道のりだ。

 しかしこの日も強風だった。天塩川河口近くにはオトンルイ風力発電所があり、巨大な風車がずらっと並んで回っている。(なかには何故か回っていないのもありますが。) それだけここが強風地帯であるということだ。スタート前、向かい風なら今日はかなりの苦労があるだろうと云う説明を受ける。

 でも、漕ぎ出してみると昨日と同じくほとんど追い風。またまた折りたたみ傘が大活躍した。

 いつも、どこに行っても、雨に悩まされる私だが、ひょっとしたら風の運にはついているのではないかと密かに思うのだった。
 
(最終日のスタート前。Be−pal組の神奈川の女性ペアと)   

 この日はようやく雲の隙間から晴れ間がときおり覗くほどに天候は回復した。4日間漕ぎ続け、いよいよゴールが目前である。相変わらず黙々とパドルを動かすものの、周りの参加者の顔からは笑顔もこぼれている。

ゴール後、ゴール地点を写す 
 天塩川河口大橋をくぐり、正午過ぎ、ほぼ予定どおり河川公園にゴール。
 4日間、ほとんど雨の中157kmを漕ぎ続け、最終ゴールを果たした。みんなの顔から笑みがあふれ、感情を爆発させている(大喜!)。

 この時の正直な感想は、ゴールした達成感とともに、もうこれ以上漕がなくてもいいという安堵感。ああ、やっと終わった!てな感じでした。いや、ホンマ。

 このあと、鏡沼公園に場所を移し表彰および閉会式が行われた。

完漕万歳! 喜びの図
 完漕者全員に完漕を証する「テシ・オ・ペッ・マスター」のパスポートとともに記念のパドルが贈られた。このパドル、一生もんの思い出ですわ。

 完漕者はAコース参加者232人中、150人(64.7%)だったらしい。この完漕率、高いと見るか低いと見るか。
 それは実際、参加したものにしか分からない感覚だろう。

 ここ、鏡沼公園にはライダーハウスもある! しかも「てしお温泉夕映(ゆうばえ)」が至近距離。2000年夏、バイクでここを通った時は通り過ぎただけだったが、ぜひもう一度訪れてみたい。そしてあの日の感動をもう一度思い出してみたい。

(天塩町のwebサイトはこちら。)

(完走を喜んで気勢をあげるBe-palからの参加者一同) 

 「まるで修行やのう、シュン。」思えばこの言葉を何度繰り返したか。
 このツアー、きっと彼にとっても忘れられない思い出となったに違いない。ツアー中、雨の中で寒さに震えながら、参加者の誰かが言ってました。「つらい目をしたことほど思い出に残るんだ」って。
 もちろん、思い出に残るのはつらかったことばかりではありません。パドリング中、カヌーに立てた「川辺川を守ろう」のノボリを見て声をかけてくれた多くの人たち、キャンプ場で親身になってお世話してくれた地元の方たち、寒さに泣かされたツアーでしたが、ホンマに心温まる人たちとたくさん出会いました。

 天塩川から見た、どこまでも続く原野の風景とともに、北海道での人の温かさは忘れられない思い出として心に残るでしょう。地元の皆さん、そしてスタッフの皆さん、本当にありがとう!


ツアー主催者・北海道カナディアンカヌークラブのページ

このツアーを紹介した北海道新聞のホームページ(私も最後に出ています(^^ゞ 。)


天塩川マップ
天塩川マップ

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