初恋または土曜の会話

春の日か秋の日かそれはもう忘れた
ぼくらは土曜の午後と流氷のために
川にダムを作り
緑の流れをせき止めたのだ
雑草の中に腹ばいになり
美しい和音をさがした
雨水に足をひたし
かえるの卵をそっと持ち帰った
ぼくらの薄い羽虫が
凍てつく水晶を溶かした
それから広い河原で平たい石を見つけ
あの雲母を剥がし
君の細い銀の腕輪を水にひたす
ぼくが雨乞いをして
君は鉄橋の下から
短い音楽を見つけ出す
ロンドンへ行かねば
ロンドンへ行って
光沢のいいパイプを買わねば
ぼくは一気に森を飛び越え
あの空の高みから
君の名を呼び
上空の秋風を
この小さな花瓶に詰め込む
  ああ ぼくらの羽虫
  ぼくらの砂丘
  ぼくの花瓶

それからぼくらは丘に登り
樹木の名称を覚える
だが時には今朝見た夢を
一度に思い出すことがある
砂時計の砂は
始めはゆっくり
徐々に速度を増して
掌から滑り落ちる
  ああ なぜ
  砂丘のしわの一つ一つが
  ぼくに尋ねる
  ああ なぜ
  砂丘のしわの一つ一つに
  ぼくが尋ねる
やがて西日は平原を透かし
ぼくらを午後の眠りから
覚醒した
大粒の心地よい夕立が
一度に降って
一度に止むと
ぼくらの羽虫は花瓶の中の
白い泡に隠れてしまった
それからぼくらは土手を歩き
立ち止まり
足先を見つめた

  ぼくらの羽虫
  ぼくらの砂丘
  ぼくの

  花瓶

by Kenichi Asano


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