Zawinulと書いてザヴィヌルと読む。彼はオーストリア人のJazzPianistである。Joseph Zawinulが本名。
どちらかと言えばWeatherReportのメンバーとしての方が有名であろう。
ここに紹介する彼のアルバム「Zawinul」はWeatherReportのデビューアルバムが発売される直前にレーコーディングされたもので、彼個人の音楽を知る意味で貴重な作品である。
発売は1971年で、これはおそらく69年から70年にかけて彼がMiles Davisのグループで演奏する傍ら、密かに自分だけの音楽を求めて来た、その集積であろう。WeatherReportはこのZawinulとMiles Davisの音楽を融合させたものであり、Zawinulのオリジナリティは当然このアルバムのほうがずっと濃く表れている。
このアルバムを一言で表現することは難しい。
これはJAZZか?いいや、フュージョンか?いいや、現代音楽か?いいや、これはそのいずれでもない。強いて言うならば、JAZZの一部であろうか、私が今までに聴いた音楽の中でおそらくもっとも哲学的でもっとも内省的な音楽とでも言うべきもので、とにかく印象的なものであった。
普通、リーダーアルバムと言えばリーダーが前面に出てきて派手にアピールするというパターンが多いが、このアルバムではそれがなく、ザビヌルはどこにいるのかと探さねばならないほどだ。しかし、聴いていて分かったのだが、これはそのように聴いてはいけないアルバムなのである。ここで聴かれるサウンドの全体がザビヌルなのである。一個人として、プレイヤーとしてではなく、ここに参加している演奏家の集団全体がザビヌルと化している。このサウンドの象徴的な響きの素晴らしさ。これこそ究極の表現なのではないだろうかと思わせる。
ここで彼が取り上げているのはすべて彼の内面の音楽である。リズムやメロディがどうのという音楽ではなく、内面の表出としての音楽である。どのようにすればここまで写実的になれるのか分からないが、ここに流れる音の空間は、聴く者を遠くオーストリアの草原や雪深い山奥の村へと運んでくれる。しかも、単にその景色を見せてくれるという安っぽいものではなく、その時のザビヌルの気持ちを追体験させてくれるというものである。
私は今までこんな作品を聴いたことがない。知られざる名作である。
残念なことに日本版はない。現在はタワーレコードなどで手に入るのみである。
この作品群に対してあのMiles Davisがライナーノーツを認めているということを見ても、このアルバムのものすごさが伺えるであろう。「ザビヌルは我々がここ数年暖めてきた考えを拡張して作品化した、おそらく他のどんな音楽家も表現し得なかったものである。」という一文がそれであるが、まさしくその通りである。一度、聴いてみることをお勧めする。とにかく、心に残る名作である。
「Zawinul」 JOE ZAWINUL ATLANTIC 1579−2
Joe Zawinul & Herbie Hancock:electric pianos
George Davis & Hubert Lewis:flute
Woody Shaw & Jimmy Owens:trumpet
Earl Turbinton & Wayne Shorter:soprano sax
Miloslav Vitous & Walter Booker:basses
Joe Chambers、Billy Hart、David Lee & Jack DeJohnette:percussion