とにかく傑作である。初期の実験的な音楽とは違い、極めて完成度の高い作品だと思う。世の中ではこれがミニマル・ミュージックであるとかないとか議論されているが、そんなことはどちらでもよい。もはや、この音楽はそのような理屈を超えているのだ。
はじめは音である。そして、それはすぐにリズムになり、音色という色彩になる。やがて、音もリズムも消えて、音楽は静かに私の心の中に消えて行った。
夏の初めのころであろうか、蛙がゲコゲコと鳴いている。あちらでも、こちらでも、まさに田園は蛙の合唱である。やがて蝉も鳴き始める。暑い夏の到来。芝生の上にあお向けに倒れて、空を見上げる。くっきりとした青が恐ろしく美しい。雲が静かに流れている。羊のような形であったものが、ゆっくりと流れ、少しずつ形を変えていく。おお、ここはなんという静けさだろう。太陽の音がする。じりじりと照りつける光の音が聞こえるのだ。あまりのまぶしさに瞳を閉じると、そこには一枚のモノクロームの写真。砂浜で足を海水に浸した君がこちらを振りかえって笑っている。そのノースリーブのワンピースのスカートを両手で摘み上げた仕草が一枚の写真として焼きつき、記録されている。虫が鳴いている。絶え間ない調性の循環の中から、私の記憶が次々と脈絡なく蘇ってくる。なんという至福の時。これは過去なのか、現実なのか? 私は目を閉じたまま君を見つめ、君は色彩の中に解き放たれる。
MUSIC FOR 18 MUSICIANS (1976)
STEVE REICH (1936〜)
Steve Reich and Musicians
Oct 1997 at NYC
NONESUCH 7559-79448-2
By Kenichi Asano Sept.1999