1.「安心生活」まで高めましょう

 徳川家康は、「人の一生は、重荷を負うて、遠き道を行くが如し、急ぐべからず。不自由を常と思えば不足なし」と詠みましたが、天風さんは、「持たずともいい重い荷物を、誰にも頼まれないのに頼まれたように思って、一生懸命ぶら下げて、重い重いと困りながら歩いて、しかも放さないでいた」と嘆きました。これらの先人のように世の多くの人は、“重い荷物を背負って歩くのが人生だ”と自然と思い込まされているのではありませんか。
 しかしながら、天風さんは、「持たずともいい重い荷物だった」と結論付けています。ご縁があって天風哲学を学ぼうと思われたからには、“重い荷物を降ろして”、「安心生活」までは到達して欲しいと思います。しなくてもよい無駄な努力を止めて、是非とも“生活にゆとりを取り戻そう”ではありませんか。心と体を思いっきり伸ばす「安心生活」を実現してみると、これまでの人生(言わば「心配人生」ですね)がウソのように転換し“豊かで、有意義な人生が送れること”を体験されることでしょう。

 さて、「安心生活」とは、どんな生活か想像できますか?。それは、西洋でも「神に祝福された生活」だと言われてきています。天風哲学を深く学ぶにつれて、安心生活の段階が上がっていくと考えられますが、とりあえずは“心配のない、恐怖感を克服した生活”だと考えてください。それが実現した暁には、間違いなく、人生に前向きなあなた自身を発見するはずです。
 「安心生活」のイメージが持てたなら、次は、そんな安心生活をどのように築き上げればよいのかが問題です。そのことについて、天風さんは、口先だけの話に終わらせず、実際に「安心生活」を築いていく方法を見つけ出し、自身でも実践し、天風会員や他の多くの人達にも指導しました。

2.「安心生活」が実現していくプロセス


  第一段階の安心生活は、その実現までを一口で説明すれば次のようになります。(第二段階の「魂のレベルでの安心生活」は、霊性生活の中で自動的に実現してきます:この分については省略)
《「恐怖や不安」というものを冷静に学び、恐怖感を意識から拭い去る実際の方法を学び実践することによって達成します》。
 人間を含めて全ての動物は、「生命維持の本能」として、“危険なことから身を守る自動防衛装置”を持っています。そのため、常時外界の警戒を怠りません。だから、動物としての自然な意識で生活していたら、自然と“オドオドした生活”になってしまいます。何かあれば、ギクッと驚き、逃げ出す体勢を取りがちです。“特別な勉強をしていない”普通の人間が、とかく「いつも不安感を持っている」のがこの理屈で理解できます。
 ここまで書けばお解りいただけるように、「安心生活」は、動物としての意識で生活していては実現できない性質のものなのです。
 では、どうすれば「安心生活」が実現するのでしょうか。天風さんが口癖のように言われた「万物の霊長としての人間」という言葉の中に大きなヒントがあります。現在の人間は幸いなことに、古代の人間とは違って、ちょっと油断すると他の動物の餌食にされてしまうようなことはありません。今日の日本ではありがたいことに、次の食事の蓄えがあるのが普通です(世界には飢餓にに苦しむ多くの人間がいますが…)。このような「豊かな環境に暮らす人間は、人間としての本領を十分開花させた人生を送らないと、勿体なくて罰が当たる」というものです。天風哲学は、まさにこのようなありがたい環境の下に生活する人間に、どのような人生観をもって生きていくのかを問いかけ、正しい答を出していった結果のものだと言えます。

3.恐怖感と実際の危険をどう処置するか


 冷静に考えると、「恐怖感」と「実際の危険」の違いはすぐに解ります。前者は、感じの問題で、心の感じ方から引き起こされます。後者は、現実にある危険で、危機管理と危機回避を実行する必要があります(心を乱さず、冷静に対処します。危険が予測できれば、適切に対処できるので、その対処に不安感・恐怖感を抱く必要はないのです)。後者の危険に対しては、平常心をもって冷静な判断を下し、正しく具体的に対処することが肝心です。一方、前者においては、心の感じ方が違えば、「恐怖感」の内容が違ってくる可能性があります。逆に“怖い”と感じなければ、怖くも何ともない理屈です。この心理的メカニズムをさらに分析すれば、「安心生活」のイメージがより深く解ってきます。実は、不安感や恐怖感こそが「持たなくてもいい重い荷物だった」のです。この荷物を降ろすだけで、ムダに続けてきた苦労が、うんと減ることが解ります。そして、その重い荷物を肩から降ろしたら、伸び伸びした自由さで、これからの人生に、より一層前向きに取り組める気持ちになられるに違いありません。

4.「安心生活」の実現には、
  
「正義の実行」が実践出来ることが必須


 「安心生活」は、思う以上に素晴らしい生活ですから、実現させるにはそれなりに努力がいります。しかし、いくら頑張っても手が届かないというものではなく、正しく努力すれば、確実に「安心生活」に辿り着けるとわかれば、努力のし甲斐もあるものと言えます。
 「安心生活」の実現には、「恐いと感じない心」を作る必要があります。そのためには、天風哲学の大発見である思考素材の入れ替え法(観念要素の更改法)を継続して、「すぐに恐いと反応してしまう過去の弱い心の内容を」入れ替える、心の中味を作り変えることが重要です。それと同時に、「自分自身の言動から、人から非難されるようなことを取り去る」必要があります。理屈から言えば“安心するためには、まず心配事から遠ざかる”必要があるわけです。「悪いことをしたら、当然安心できません」。そのことから解るように、「安心生活」のためには、「まず何より、人から批判非難されるようなことをしない」ことが大切です。そのための実践を天風哲学では「正義の実行」と言っています。“自分の気持ちにやましいことをしない”ことがその内容です。また「正直、親切、愉快に」という実行すべき3つの心掛けがあるのですが、その「正直、親切」が、安心生活のために大事な心掛けになるのです。「正義の実行」と「正直、親切」を心掛けてしていたら、“自分の生活にやましさが無くなり、胸を張って生きられる”ようになることは理屈の上からも想像できますよね。このように安心生活の第1段階は、「正義の実行」に努めることです。そして同時に、「不安や恐怖感と言ったものは、心の中で自分が作り出して来ている」ことを十分に納得するまで頭に入れることです。“怖いと思えば、ますます怖くなり、ついには恐怖感にまで大きくなります”。気にしないとか、怖いと思わなければ、「怖くない」のです(心の作り替え)。危険は常に有り得るわけで、「冷静に危険に対処することが、肝心なのです」。
 前もって心配したり、怖がったりしても「起きるものは起き、起きないことは生じない」のです。「取り越し苦労」はする値打ちがないのです。心配は、“言わば、実在しない危険の先取り”なのです。起きたら冷静に対処する覚悟を固めておけば、無用の不安・恐怖感から脱却出来るということになります。恐怖感に囚われると、冷静な判断力が発揮できなくなり、より悪い結果を導いてしまうことになるのです。天風さんは、「事があるのが人生だ。起きてから対処しても遅くはないのだ」と教えました。この教えの通りに日常生活を送れば、その内に第一段階の安心生活が送れるように成るということです。

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