消えゆくものを追って〜淡路島

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消えゆく思い出の淡路フェリーを記憶しておきたくて...

須磨港,25kb

 淡路島。免許を取って2年目、4度目のソロ・ツーリングで行った地。周りにバイク乗りがいなくて、初心者ひとりで危なっかしいツーリングをしていたころ。まだまだ出会う出来事全てが新鮮で、走るだけでも懸命で、だからこそ去年のツーリングなんかよりもずっと4回目までの場所の方が印象に残っている、そんな、ある意味思い出の地。


 淡路フェリー。初めてバイクで乗ったフェリー。そして、来年春に明石海峡大橋ができれば無くなってしまう、そんなフェリー。

 私は橋ができる前の淡路島を見ておきたくて、消えゆく思い出の淡路フェリーを記憶しておきたくて、旅に出る。

きっと見逃しやすいに違いない。そう思おう。

 天気予報は晴れのち雨だった。空を見上げると今は雲がない。これなら行けるだろう。私は天気につられて家を出た。

 阪神高速に乗り須磨に向かう。神戸線に入る前くらいから混み始め、低速でしか流れなくなった。私はすり抜けをあまりせずに4輪に合わせて走る。その横をバイクが次々にすり抜けていく。私も友人と一緒ならすり抜けただろう。一人だと誰にも気兼ねせずに自分の好きにできるのがいい。ゆっくりでいいと思えばゆっくり走れる。何も急ぐことはないのだ。

 阪神高速神戸線を若宮でおりて須磨のフェリーポートを探す……探す? そんなに距離は無いはずだ。おかしいと思ってスクーターのおじさんに「フェリー乗り場はまだですかね?」と尋ねる。おじさんは「明石?」と逆に聞いてきた。須磨と答えるとかなり行きすぎているとの答え。もちろんUターンした。今度は無事発見。なんと降りてすぐのところだった。フェリー乗り場という看板を見逃したらしい。きっと見逃しやすいに違いない。そう思おう。

 淡路フェリーに乗り込む。フェリーはすでに着いていて、すぐに乗れた。誘導に従ってバイクを船体内の駐車場側壁に着ける。そしてロープとタイヤ止めで側壁に固定するのだ。倒れることはまずないだろうが、しっかりと固定してから船室の方へ。船室といっても短距離フェリーだから、背もたれのついた長椅子が並べてあるフロアといった感じだ。それに売店と自動販売機が置いてある。7時半というのは早いのか、乗っている人は少ない。私はゆっくりと船内を眺め、窓から見える景色を眺めた。そして動き始めてからは須磨港を眺め、そしてエンジンの鼓動を感じていた。もう2度と乗ることはないのだから。見たもの、感じたものを記憶できる様に。

売店でおばさんに「座っていき!」と声を掛けられる。

 淡路島西岸にある大磯港に着く。そのまま国道28号を南下。結構混んでる。市街地だから仕方ないだろう。諦めて4輪の後ろについて景色を楽しむモードで走る。別にそんなにいい景色でなくて、港町でも、それこそ単なる市街地でも、見知らぬ土地を見ているだけでも楽しいのは楽しい。家や店というのはどこにでもあるけれど、その家、その店、そしてその集まりとしての町並みというのは世界でただ一つしかないもので、見慣れない景色であることには変わりないのだから。

 洲本から県道に変わる。洲本城跡という看板が見えるが行きすぎてしまう。そこから見る景色が綺麗だという話を思い出したのでUターンして行く。城跡への道はちょっとしたワインディングだったので峠道で遊ぶ。走り屋みたいに攻める、なんてのはできないから、遊ぶという感じ。本丸から少し下の駐車場にバイクを止めて登る。

洲本城から、サントピアマリーナ

 荒く積まれた石垣を眺めながら本丸へ。本丸は少し広い空間になっていて売店があった。売店でおばさんに「座っていき!」と声を掛けられる。先に見てきますと言って天守閣のあるところへ。なるほど、眺めはいい。朝の陽光の中に浮かぶ港と海は、淡い色彩でとても綺麗だ。でもおもちゃの様なコンクリートでできた天守閣風の展望台(しかも窓が小さくてとても見にくい)が建ててあって、それが気分を盛り下げる。この景色だけで充分価値があると思うのだが、どうして人はこういうものを立てたがるのだろう?


 売店に戻ってジュースを飲みつつ、他には誰もいないのでおばさんと話をする。淡路島のこと、フェリーのこと。旅先で見知らぬ人と何気ない会話ができるってのはいいものだ、と思う。人と話すだけでその土地を感じ、そして安らぎを感じるのだ。

 城跡を出ていきなり道を間違う。戻って海岸沿いを南下。集落とワインディングを繰り返す道が続く。これで自動車がいなければもっと楽しいのだが。やはり自分の好きなペースで走りたいものだ。今回は結局ほとんど自分のペースで走ることができなかった。

言っていること自体は難しくなかった...

 12時、鳴門岬。鳴門大橋を横に見る展望台だ。数年前と同じ景色が広がっている。橋と四国とそして鳴門海峡。特にここは瀬戸大橋と違って橋脚を間近に見ることができるのだ。この頃には空には雲が出てきていたので、それほど綺麗な景色という訳ではなかったけれども、前のツーリングのことを思い出して感慨に耽る。ここでルートの参考にした雑誌を忘れて帰ったこととか、当時の感動、変わらない景色とか、そういう他人にはどうでも良いだろう、そして2度目だからこそ思い出す感慨を。でもその思い出がなければここには立たなかっただろう、私にとって大切な思い出だ。

 食堂で鯛丼を食べた後、なんとなく大鳴門橋記念館へ向かう。入ると3Dの映画があって、そんなのは花博以来見ていないだろうか、何かなつかしくてちょっと見てみた。内容は観光案内っぽいありきたりなものだったけれど、3Dしててなかなか面白い。終わって外に出ると雨。改めて記念館で雨宿りしようと併設されている淡路人形浄瑠璃館へ入った。人形浄瑠璃は初めて見たけど個人的には楽しめた。様式美というか、人形の動きなどを見ていると面白い。ちょっと台詞がわかりにくいのが残念だった。独特の節回しと三味線の音が大きくて聞き取りにくいのだ。言っていること自体は難しくなかったと思うのだが。

 3時。終わって外に出ると雨はやんでいた。私は横に止まったバイク乗りに挨拶をしてから西に向かって走り出す。海岸沿いだが、反対側は山が迫っている、そんな感じの道を、軽く遊びながら走る。途中で止まって海を眺めたりしたが曇っているのでいい風景と言えないのが残念だ。

 香りの館パルシェというところに行きたかったので探しながら行く。…見つからずにお土産屋で道を尋ねて(もちろんお土産買って)Uターンする。よく見るまでもなく大きな案内板が出ていた…。香りの館パルシェはハーブ園とハーブのお店、レストランが入ったところだ。以前も来てハーブティーを買ったのだった。入らなかったけれどハーブの温泉もある。当時はガラガラだったが、今日は結構な人数がいる。有名になったのだろうか。あのとき話した店員と会ってみたいという想いがあったのだが、あまり顔を憶えていなかったし、それになによりみんな忙しそうだ。私は諦めてハーブティーを買って出た。外は雨が降っていた。台風の影響だろうか。私は淡路島一周は諦めて西岸から横断して津名港に急いだ。しかし津名港に近づくにつれて物足りなさが募る。走り足りない・峠で遊び足りないという不満だ。雨があがった頃にはやっぱり一周すれば良かったかと思ったが、ここまで来れば仕方ない。無念を感じながらもフェリーポートに着けた。

旅人の勝手な感傷だと思われるのだろうけれど...

 津名港からは西宮行きの甲子園フェリーが出ている。このときは知らなかったが甲子園フェリーは縮小して残るらしい。知らない私は最後になると思ってフェリーを身体と目で記憶しながら帰途についた。帰りのフェリーは「旅の終わり」というもの悲しい気持ちにさせてくれる。そして私は今回の旅について考える。不満は多かった。でも、何故だろう。今回はあらためてバイクで旅するのが好きなんだと認識した。不満が多かったのに、それでもよかったと思ったからだろうか。帰ってからも旅への想いは募り、しばらくしてまた旅に出ることになる。フェリーはそんな考える時間も与えてくれたようだ。

 橋…。あればとっても便利だろう。バイク乗りだから橋の上を走る楽しさも知っているのだし。しかし、それでも、捨てがたい魅力がフェリーにはあると思うのだ。おそらく、旅人の勝手な感傷だと思われるのだろうけれども。


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