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あとがき 主人は、日頃から常に、 「人の一生は、その死ぬ時が勝負だ」 と、申して居りました。 死の瞬間が、その人の人生の総決算と申してをりましたが、 この病床にありました三ヶ月の間、一日もかかさず、 真心こもった数々の御手料理を、毎日々々お届け下さいました 小田様始め、多くの方々の温い御厚情を頂きまして、毎日の様に、 「僕は、今度病気して始めて本当に人の心の温かさが分かった。 こんな嬉しい事はない。これだけでも病気した甲斐があった。 治ったら、今度こそは、只無駄に生きては申し訳ない」 と、涙を浮かべて感謝の言葉を繰り返へして居りました。 「もう、何の欲も無くなった」 と、枯れ切った心境で、真澄みの様な瞳を輝やかせ 「治ったら、今度こそ無駄に生きては申し訳ない」 と、心の底から悟り得ました事は、百年無為に生き続けました処で 得られない心境であると信じまして、久遠の生命から見れば、 只一瞬の間の、この肉体の生き様こそ、その寿命の長短には 関係ない事だと、教へられました様な気がいたします。 静かに、主人の大好きだったレコードの音楽を聞き乍ら、 ありありと瞼に浮かびます亡き人の笑顔に向かって、 「私も、やがてお迎へ頂きます日迄、貴下に負けない臨終を 迎へられます様、心の準備怠り無き日々を過して参ります」 と、あらためてお誓ひいたしました次第でございます。 「心配せんでもいいよ、心配せんでもいいよ、何にも心配はいらんよ」 と、お通夜の晩、生きてゐるままの声で、 ずーと私の耳許で囁いてゐて下さいました主人の言葉の意味が、 今はっきりと分りました。 それは、此の様にして、私は生涯主人と共に、 死も生も無き本当の世界に生きてゆく事が出来ますと、 確信持たせて頂けました事でした。 最後に当たりまして、大変お忙しい中を、御無理に御無理を 重ねられまして、主人の為に尊いお心のペンお運び下さいました 小田様への筆舌に尽くされませぬ感謝と、 浪高時代から、京大卒業後の生涯を通じましての、長い間の御友情に、 変り無き御真情頂きました句友の方々には、どんなにかお懐しく、 嬉しく頂戴させて頂きました事かと、主人の感慨しみじみと、 私の胸に伝って参ります。 殊に不染様、桂女様、両先生には私共夫婦共々、俳句への道、 御手引き頂きまして、やうやう今日拙い乍らも並べさせて頂けます様に なりました事、本当にありがとうございました。 尚その上に不染先生には御忙しい御仕事のお時間を おさき下さいまして、いろいろと御教示賜はり御校正下さいました御真情、 主人共々深く御礼申し上げますと共に、この御高恩、 霊界の主人に変りまして、現世に居ります私の身に現はせて頂きまして、 万分の一なりとも、皆様方へお返へし申し上げねばと念願致して居ります。 只、只本当に有難うございました。 永遠に生く目次 |