永遠に生く

 我が故郷の家

 或る夜、私の魂は故郷の家に帰へって居りました。

 それは、小高い丘の上に建てられた桧皮葺の屋根の、
 まだ木の香の匂ふ桧造りの数奇屋風の平屋で、
 小高い丘一面に大躑躅(つつじ)が丸く手入れされて、
 真赤な花を付け段々に植ゑ込まれてあり、
 丘の麓にある門を入ると
 その躑躅の廻りを曲がりくねって登る小道には
 小砂利が敷き詰められて、塵一つなく掃き清められ、
 丘の上の玄関にまで続いてゐるのです。

 又その小道の左側の広い庭には、
 大きな自然石の、奇石、珍石の大小様々の石が姿形良く、
 彼方(あなた)此方(こなた)に配置され、
 その壮観な有様は、筆舌に尽くしがたきまででした。

 出入りの門は門柱のみで、閉すべき門扉は無く、境界の塀も無く、
 小さな丘全体が我が家の庭の様で、
 穏やかな静寂さの中に清々しい気に満たされ、
 自ら心気清朗となる様な心地が致します。

 穏やかな坂を上りつめた所に、
 真新しい玄関の格子が見えます。

 ふと気が付くと、私は優しい夫の笑顔に迎へられ、
 いつの間にか鏡の様に磨かれた縁側に立って
 美しい庭の風景に見入ってゐるのでした。

 夫は、
 「お前は毎晩此処に帰って来てゐるんだよ。」
 と申します。

 ”ああ、此処が私達の本当の住ひだったのだ”
 と、はっきり分った様な気が致しました。
 ・・・・・瞬間、私は目が覚めました。

 矢張りこの世は旅でした。
 仮の宿であったのです。

 今迄、どうしても死んでしまったとは思へなかった夫は、
 矢張り生きて、こうして何の変わりも無く、
 私共は楽しく暮してゐたのでした。

 私の目が曇ってゐたばかりに、夫の本当の姿が見えなかったのです。
 どんなにか歯がゆい思ひで叱咤勉励し続けてゐた事でせうに。
 今、やっと分りました。

 毎夜の夢に相見る、生前そのままの姿!
 そして、度々に懇々と諭されました一々に神としての御霊示!

 正に、私は只、勿体なさに身の置き処無き心地が致しました。

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