御開祖物語
光照
 [えぴろーぐ]

聖堂の南側の大きな窓から、
虹色に輝いた一筋の光が射し込んでいます。
その光の中で光照は、
一人瞑想をしていました。
暖かい光を感じながら、
ゆっくり目を開いたのです。

窓の隙間からは清々しい風が入り込み、
カーテンを揺らしています。

 神聖な空気を吸い込み、大きく深呼吸をした光照は、
 安穏な境地で今までの人生を思い返すのでした。

 高知で生まれて、幼い頃に家族がバラバラになってしまったわね。
 あの時は本当に寂しかったわ。
 20才の時だったかしら。愛する人と結婚して、あの時はバラ色の日々だった。
 だけど、その人は戦死してしまった。
 私も後を追って死のうと思ったけれど、二人の息子のために自分が
 しっかりしないといけないと思ったわ。

 息子達を抱えて戦火の中を逃げ回って、あの時は凄く怖かった。
 生きた心地がしなかったわ。
 やっと戦争が終わったのに誰も頼る人もなくてね。
 これから息子達とどうやって生きていけばよいのか途方に暮れていた。

 その頃だったかしら。不思議なことが起こったのは。
 寝ている時に観音様のお言葉を書き記していたわ。
 でもあの頃はあまり気にも留めずに只々、無我夢中で働いていたわね。
 そんな折、勲さんが目の前に現れたの。
 この人となら一緒に人生を歩めると確信したわ。

 聖堂の窓の外から、小鳥のさえずりが聞こえ、それはまるで光照の人生を
 讃えるかのようでした。

 更に光照は思い返すのです。
 夫と共に新興宗教にも入信したけれど、不幸は絶えなかったわ。
 やっと授かった待望の息子は数日で亡くなってその上、
 孫の義継までも5才で亡くなってしまった。
 あの時、義継を私の命に代えてでも助けてあげたかったの。
 何とか成仏して欲しいと一心不乱に仏像を彫った。

 そして、真理を求め求めていた時に、密教大阿闍梨の師匠と縁を結んで頂いたわ。
 それから主人と二人で修行して奥義を修得させて頂いたの。
 あの時は、密教との縁を信じて最後までやり遂げることができた。
 あぁ…でもその主人も亡くなってしまった。
 けれど、いつも心の中にいてくれて、私の守護神として今でも
 導いてくれているわね。
 死生を越えた法縁こそが、私達の真の夫婦道なんだわ。

 光照が感慨深く思いにふけっていたその時
 「先生、せんせ〜い!」
 子供達が階段をバタバタと駆け上がって来ました。信徒の子供達です。
 「わ〜いわ〜い」
 元気に聖堂道場の中をはしゃぎ回っていました。
 光照は、その様子を優しい満面の笑顔で見つめています。
 天空から四方八方に放たれた金色に輝く光が、光照を包み込んだのです。
 それは、まさに『慈母観世音菩薩』のお姿でした。
 この菩薩のご意思は、必ずや次世代にも引き継がれていくことでしょう。

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