一実の道

 第三十一之御諭し

 汝、「散る花の命にも似て、我は又春の名残を如何にとやせん」
 との歌の意味、如何に悟るや。
 何故現世をば左程にも名残惜しくぞ思ふかや。
 此れ、己れを生かし切らざる故なり。

 一瞬の間を惜しみて、生かさるる使命に精進致しゆき居らば、
 何時の日、如何なる事態の発生致さんとも
 泰然として死に臨み、永遠に生くる己れを悟るべし。
 生死は互いに隣り合わせなり。
 襖を一枚開きて入れば、次なる部屋は「生の部屋」、
 襖を閉ざして用足し済ませば又、退きて返るは元の部屋なり。
 此れ、己が部屋なり。居間なり。

 心安らけく打ち解けて、安息致す己が部屋なり。
 即ち、現世は「客間」なり。
 客との要談済ませなば、又退くは己の部屋なり。
 此れ、安息の安けき部屋なり。

 如何で拒まん理由の有らう。
 安息の居間とも知らず、 
 肩肘張りし客間に執し、己が居間をば忘れたるは、 
 余の眼より眺むる時、只不可思議と言うの外無し。
 一瞬の間も客を引き止め、己れ客間に執着なすは、
 居間散らかりて、不潔なる故、
 此れ業障の塵と積もりて、足の踏み入れ場所も無く、

 安息どころか苦悩に満ち、不愉快なる部屋、
 己れ創りて、己れ厭うとも、
 誰ぞ整頓をば致しくるるべき。
 己れ散らかせば、何時の日かやがて、
 己れに整頓致さねば、相成らぬなり。

 日頃より、塵積もらざる間に掃き清め、
 いつ何時(なんどき)に入らうとも、
 心を休め、身を安楽と致すべき部屋と成しおき備へおくなら、
 陰険なる客に何時いつまでも引き回され、
 相患はされ、尚引き止むる要は無し。

 要談済めば早々に客を送りて、己れの部屋にて安息致せ、
 又来るべき客に備へて、心も豊かとなりおるべし。
 暖かき炎の燃えて部屋は温もり、 柔らかきしとねに常にふくらみ
 己れを待つのも此れ皆、親の慈悲の手配、
 窓辺によりて眼休めば散ることなき花の香り、
 麗しの小鳥美声にさへずり、
 只寂光の光に包まる快き楽の音、耳に響きて
 極楽の身は永へに憂い成し。

 如何でや 此の部屋拒むべき、
 只懐かしく喜び溢るる部屋ぞかし。
 此の備へ、無き故にこそ厭うなり。

 厭うべき己が部屋とは、成しおくべからず。
 客間は常に客間なり。
 相手ある部屋、いつ何時(なんどき)に
 客立ち去らんも計りがたきを
 如何なる因縁廻り来るも、
 常に心の備へこそ、此れ修行して保つべきことなり。

 修行とは、己れの部屋をば常に寂光に保ちおくべき事なり。
 客間に執して、己が部屋をば忘るべからず。

 合掌

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