一実の道

 第三十之御諭し

 愛しき者共よ。
 秋の気配の空高く、地上爽やかにして、 
 人身一入(ひとしお)清らけく、身清浄とはからるるを
 汝の心境如何に悟りのひらけたるぞや。
 法華経は諸方実相なることをば些(いささ)かなりとも
 体得致し得たるかや。

 汝、見よ。
 温かき家庭に和やかなるまどひ、
 平和の明け暮れ、此れ浄土に非ずして
 見らるる姿なるべきかや。

 佛、はしてとりもち給ひ、慈悲の光明捧げ給へばこそ
 此の果報なり。
 何に例へん、身の光栄、余の満足も亦一入なり。
 然るをなどて恥ずべきことの如何にあらん。
 うつし世の像げに移りゆく、回り灯篭の絵の如くにして、
 仮の契りに親子と結ばれ、夫婦となりて相和し、
 同朋と睦み合うのも此れ亦、
 浮世の灯篭に描き給ひし御佛の図絵なり。
 何故御心のままに描かれゆかずや。

 次に回れば、又過去の因縁手繰らせ給ひて、
 果報も罪障も、皆又御心のままに描き給ふを
 未来を知らず、過去をも悟らぬ愚かな凡夫(ぼんぶ)の
 只現世の図絵にのみ囚はれて、
 筆持ち給ふ御佛の御心に背き奉りて、
 御心ならざる色に塗るとは、
 不遜の輩、未来の罪障、如何なる図絵にと現はれゆくかを
 悟らねばこそなり。

 汝、法華経諸方実相なるを些かなりとも悟りしなれば、
 己が生命握り給ふ御佛が、御心のままに
 などて現世を描かれゆかぬや。

 虚栄も屈辱も自尊心も増上慢(ぞうじょうまん)も
 御佛が御眼にて眺め給へば、
 此れ皆、赤子の喚くにも足らざるぞや。

 秋の大気を何と悟る。
 大空に広きをなどて己が心と体しゆかぬや。
 広き天地に雄飛致さば、狭き心の煩悩五欲、
 笑止笑止と片腹痛し、何故斯様なる心境に
 大覚一番目覚むることの出来得べきかや。

 悟れよ 悟れよ

 合掌

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