「ねぇちょっと、ロストルドスいってきてくれる?」
ある晴れた・・・オーシュはいつも晴れてるな。
とりあえず、とある日。
今日の狩りのスカウトは、低レベルの狩場ってのもあって遊里が行ったからと、リビングのソファーでゴロゴロしていた。
すると、香水らしきものが入った瓶を持ったライデスが、唐突にそんなことを言い出した。
「はぁ?何でこんな時期に?つい最近発見されたとかいうロストルドス管理の死者の大地になんかあんのか?」
「いや、このオクタイト香水の効果試してきて欲しいだけだよ。」
ライデスの手にあった香水が俺に渡される。
「これって・・・最近売り出された奴じゃん。どうしたんだ・・・・よ・・・」
ソファーから起き上がった俺はライデスの額に血管が浮き出しているのを発見して固まってしまった。
「燐火がね・・・」
「そ・・・そうか」
超絶笑顔なライデスのその一言で何があったのか理解できる俺が嫌だ。
多分、いや絶対に珍しいもの好きの燐火が勝手に買ってきてしまったのだろう。
「あ、ついでにこれも持っていってね」
ぽいっと渡されたのは車輪。
ロストルドスで作れるもので、亜栖が付けていたはずだが・・・。
そういや、これも最近売り出されていたな。
「まさか、これも・・・」
「そう、燐火がかってきたもの。一日で効果きれるし、おいといても意味無いから、誰かつけといて。じゃ、頼んだよ」
言いたいことだけ言って、ライデスは実験室に戻っていった。
燐火らしき、悲鳴が聞こえたのは聞かなかったことにしておこう・・・。
あれから数時間後、俺はとりあえず魁斗と瞑璃を誘ってロストルドスに来ていた。
車輪は魁斗が付けている。
理由は、瞑璃の『似合うから』。
真顔で言わないでほしかったぜ・・・どこのバカップルだよ。
魁斗も満更じゃねぇ顔してたしよ。
まぁ、それはおいといてだ・・・。
「ここで何するんだよ?」
「さあ、私にはなんとも。」
「俺もさっぱり・・・。とりあえず香水の効果試したからいいんじゃないか?」
瞑璃と魁斗はあっさりとそういう。
「まぁ、それもそうか。じゃかえ・・・」
「・・・・・・・・・人の目の前でわざとらしいな」
びきって音がしそうな程引きつった顔をした男が、ようやく口を開いた。
「あんたが、さっさと声を掛けたらよかったんだろ?」
「部屋に入ってきたと思えば、行き成り人の目の前で座り込んで会話しはじめた連中にどう話しかけろと?」
・・・・・まぁ正論だな。
「そりゃそうだ。わりぃな。すぐ出て行くからよ」
「・・・待て」
出て行こうとしたら止められる。
なんなんだよ、一体・・・。
「あ?なんだ?」
「私の部下にならないか」
「断る」
男の言葉に、俺は即断で切り捨てる。
二人も勿論依存は無く、何も言わない。
俺の言葉に、男は眉をひそめた。
「何故だ?」
「俺達はやっかいになってるだけで、家門主じゃねぇし」
「仕事だとおっしゃるならお受けしますが」
にっこりと、笑う瞑璃に男は肩を揺らして笑う。
「報酬の無い仕事はやらないか・・・。くっ、面白い奴らだ。私にそこまでいうやつは珍しい。いいだろう。では仕事を頼もう」
男が懐から封筒を取り出す。
「これを死者の大地にいる私の部下に渡してくれ」
「おいおい。それぐらい自分でいけよ」
人を雇ってまでする仕事か、それ?
他の部下にでもやらせりゃいいものを。
「私がここをでると、リンドンの部下どもが襲ってくるんでな。」
「分かりました。では、行ってきますね」
瞑璃が書類を受け取って、俺達は部屋を出た。
ロストルドス内にいたじいさんに話しかければ、死者の大地にへと続く扉に案内された。
そこをあけると、目に入るのは一面のススキと緋い月の光。
そして、大量の死者の群れ。
「うげぇ・・・ゾンビだらけだぜ」
「死者の大地・・・。その名の通りですね」
「ま、そんなにえぐくないし、いいじゃん。それより、さっきの奴どこかで見たこと無いか?」
「いーや、まったく覚えが無い」
魁斗の問いに考えてみるが、俺の脳内のデーターベースにはあいつの顔は乗っていない。
瞑璃も首を振っている所を見ると、知らないらしい。
「おかしいな・・・記憶違いか」
「ま、気にしても仕方ねぇし、さっさとその部下とやらが居る場所にいくぞ」
「そうだな・・・いくか」
細剣と拳銃を構えた魁斗がすっと目を細める。
それを合図に、俺達は駆け出す。
何十匹とゾンビを倒し、辿り着いた岩を調べると、後ろから空洞が出てきた。
「この奥らしいな」
「いかにもな場所ですね」
「確かに」
定番すぎる隠し場所に、これでは返って見つけてくださいと言っている様なものではないか?
と、首を傾げる。
まぁ、俺には関係ないからいいが。
「ま、中に入ろうぜ。このままいたらまたゾンビに襲われるだろーし」
そういって中に入る。
中は、洞窟で何も無く蝋燭が少しあるだけで薄暗い。
どうやって暮らしてんだ、あの男の部下は。
「お邪魔するぜー」
「誰だ?!」
そこに居たのは、隠れるには目立ちすぎるほど真っ白な服をきた男。
「私どもは・・・」
中にいた警戒心も露に剣を向けてくる男に説明しようとした瞑璃だが、後ろの気配に言葉を止め、振り返る。
「ちっ、もうここまで嗅ぎ付けたかっ!」
そこには、多数のゾンビがいた。
「いや、あれで見つけられなかったらおかしいだろ」
俺は、つい何時もの癖で突っ込みをいれるが、男は無視してゾンビに切りかかる。
「無視かよ・・・」
「・・・倒す」
「へぇへぇ。いって来い」
敵をロックオンして、戦闘モードに入った魁斗を俺は見送った。
細剣で切り刻み、拳銃で止めを刺す魁斗を見ながら、隣に立っている瞑璃をみる。
「瞑璃はいかねぇのか?」
「この状況だと当ててしまうので」
誰に・・・とは、聞くまでも無い。
「・・・魁斗にはあてねぇーのな」
「当然です」
にこりと言われては、ため息をつくしかない。
男にも当てない技術をもってながら、当てるということは業とで。
(こりゃ、魁斗に剣を向けたのに怒ってるな・・・)
聞いても、「それがどうかしましたか?」しか返ってこないから聞かないが。
「終わった」
話をしているうちに、全て終わったらしい。
倒れたゾンビが、消滅しかかっているところだった。
「お前たちは・・・?」
「これと、これを預かっている」
「これは・・・あの方からの使いか。すまない、あの方を狙う輩かと・・・」
「どのような意味でも違います」
「ああ、見ればわかる。すまなかった」
「いえ、分かっていただければそれで」
「って、お前わかるのか?!」
正直いって俺達の関係は、勘違いされまくりだ。
一年ぐらい一緒に住んでいる、あいつらだって気づいたのはつい最近だ。
近所のお嬢さん方からは、俺を二人が取り合ってるだなんて本気で思われる始末。
「そこのファイター殿と散弾銃を持っている方がお付き合いされてるのでは?」
間違いでも?と男は首をかしげる。
すげぇ、ほんとに分かってやがる。
「いや、間違いじゃねぇよ」
「それはよかった。では、あの方にこれを渡してください」
「りょーかい」
男から手紙を受け取ると、俺達は洞窟からでた。
また、先ほどと同じように群がるゾンビどもを蹴散らしながら、ロストルドスに辿りつく。
こりゃあ、何回も往復することになったら激しくめんどうだぜ・・・。
「これ、預かってきたぜー」
もっていったのより、大分小さい葉書サイズの封筒を手渡す。
「ふむ・・・。すまないが、また頼みごとができた」
手紙をざっと読んだ男は、済まなさそうにこちらを見る。
「なんだ?」
「キャプテンチーフと呼ばれるゾンビがいる。そいつのポケットを持ってきて欲しい。」
「外見はどのような?」
「ファイターと同じ服装をしていて、通常の三倍以上の大きさをしているらしい」
「ああ、それなら、あの方の隠れ家を探している間に一匹倒しましたね。無窮」
確かに、やけにでっかくて硬い敵を一匹倒したな。
其の時、ポケットみたいなのを拾った気が・・・。
担いでいた荷物いれを、あさってみる。
しばらくすると、そこのほうから白い布が出ていた。
「あ、あった。ポケットつうのはこれか?」
「・・・ああ。確かにそれだ。これを拾ったとき何か変化が無かったか?」
「ネジが切れたように動かなくなった後、砂のように崩れて消えた。」
「そうかやはり・・・」
魁斗の言葉に予想していたとばかりに頷く。
「何かしっているのか?」
「ああ。死者の大地のゾンビはオタイトで動かされている。」
「屋敷の人形と同じか」
「あれよりも純度は高いがな。人の形を取っていないゾンビを倒せば落とすはずだが・・・。」
「じゃ、これか?」
俺は、ポケットと同じく荷物入れに入れていたオタイトらしきものを取り出す。
「ああ、それだ。しかしよくそれだけの量を集めたな」
「かたっぱしから殺していってたからな。」
「これは、私達には使い道がありませんので、どうぞお使いください」
「済まない、助かる」
「その変わりに・・・このメモ用紙について教えていただけますか?」
すっと瞑璃が懐から取り出したのは古ぼけたメモ用紙。
死者の大地の壊れたコロニーの所にあったものだ。
所々読めないところがあるが、大体の所は解読できた。
「貴方は・・・詳しく知っていますね?」
何を・・・とは瞑璃は言わなかった。
しかし、男は頷く。
「・・・リンドンの部隊が何故、不死鳥のように何度も蘇ったのか・・・分かるか?」
「この話の流れだと一つしかねぇな」
大方ゾンビを大量生産して、部隊に使っていたって所だろう。
「貴殿の考えている通りだ。ヒューゴ・リンドンは、ネクロマンサーと手を組み、オタイトを使ってゾンビ部隊を作り上げた。私は、そこで隊長をしていた」
「やっぱり、何処かで見たことある顔だと思ったぜ。あんた、カート・リンドンだろ」
「いかにも、手配書でもあったか?」
「ああ。」
「私は、あまりにリンドンの秘密を知りすぎたらしい。いや、元々駒扱いだったのか・・・。戦争が終わった後、死者の大地に捨てられた」
「それで・・・」
「私を完全に始末したと、ヒューゴは思っていたらしいがな。生憎、私は生き残ってしまった。ファイター殿がみた手配書は、私が生きているのを知ってヒューゴが出したものだろう」
「お前、復讐のために生きているのか?」
「ここにいる、私はそうだ」
男・・・カートの瞳に、復讐の強い炎を感じられたから聞いてみると、やはり肯定の言葉が返ってきた。
こりゃ、殺されかけた以外に何かあるな・・・。
「ボス!大変です」
「どうした」
「ネクロマンサーとヒューゴのやろうを死者の大地で見かけた奴がいる」
突然飛び込んできた部下の言葉にカートは顔色をさっとかえた。
「そうか・・・。ここもそろそろ安全ではないようだな。貴殿達には世話になった。これ以上私の事情に巻き込むわけにもいかぬ。そろそろここから出たほうがいいだろう」
カートはそれだけ言うと、部下と共に部屋をでていった。
部屋に沈黙が走る。
「なぁ、このままほっとけるか?」
「私はどうでもいいですね。」
数分間の沈黙の後、俺は二人に尋ねる。
しかし、瞑璃はきっぱり、にっこりと言い切る。
「お前、ほんと興味ないことはあっさり切り捨てるよな・・・」
「わるい、俺も結構どっちでもいい」
「魁斗・・・お前もか」
「復讐なんて、関わってもいい事はありませんからね」
「でも、無窮が行きたいって言うなら、手伝うぜ?」
優しそうに微笑む二人を見て、俺はため息をついた。
お前らのそういう俺に甘い所が、周りに関係を勘違いさせ続けているんだっての。
「・・・じゃあ、まずは一回屋敷に帰るぜ」
下手したらヒューゴ・リンドンに喧嘩を売りかねないこの状況は、俺がどうこうしたいといっても、ライデスの奴に相談しなきゃどうにもならん。
それを二人も分かっているのか、頷き一つでWPを起動させる。
一瞬の浮遊感の後、目を開ければそこは見慣れたオーシュの街並み。
サングラスしてるとよくわからんが、あの薄暗い場所に比べればここは非常に明るい。
ロストルドスの連中が街まで出てこない気持ちがなんとなく分かる気がした。
一瞬、気分が落ち込んだが、首を振ることで振り払い、屋敷まで走った。
「ライデス!」
急いで屋敷に戻ると、やけにご機嫌なライデスと所々焦げた燐火がソファーで紅茶を飲んでいた。
「どうしたの?そんなに急いで」
「・・・・この家に、ロストルドスの奴を連れ込んでも大丈夫か?」
「ふーん。オタイト香水はちゃんと効果あったみたいだね。ロストルドスの謎の男でしょ?顔も嫌いではないし、別にいいよ〜。」
ロストルドスという言葉だけで、大体のことは察したのかライデスは笑顔で許可をだす。
「サンキュウ」
「お礼は燐火に払ってもらうから大丈夫だよー。」
「え?!」
礼の言葉もそこそこに、駆け出した俺達の背中に聞こえたライデスと「うげっ」と言わんばかりの燐火の声。
わるいな、燐火。
だが、ライデスの出した紅茶を無用心にも飲むのがわるいんだぜ!
何度もひっかかってるのに、性懲りも無くひっかかるから犬とか言われるんだぞ・・・。
何かが倒れるような音と引きずるような音は、やっぱり聞かなかったことにした。