「ふう・・・久しぶりの休みだな〜」

火曜日の早朝、魁斗はオーシュの街をぶらぶらしていた。

この日は、一週間に一回ある『午前中は開拓禁止』の日。

開拓本部が何を行っているのかは、知らないが、屋敷・・・もしくは街からは出れない日だ。

そして、今回はいつもと違い、少々時間がながかった。

その上、今までタダだった、『新大陸滞在費』が取られるようになった。

その為ライデス達三人は話し合いをしている為、家の中で一人という状況になり、暇をもてあましていた。

(無窮は、いつも一人で疲れを癒したいのか姿を眩ましている)

だから仕方なく、一人街中を散歩なんてしていたのだが・・・。

「オーシュにきてよかったな。リボと違って静かだ」

開拓本部があるリボとは違い、反開拓本部なオーシュでは人は殆どおらず、静かな空気を好む者にとっては、絶好の場所だった。

「店は開いてるのかな・・・?」

人が多いリボではこの時間でも店は開いているのだが、ぱっと見、オーシュでは閉まっている店ばかりだ。

しかし、散策をしていると少し奥まった所にある一軒の店が、開店していた。

「おや、こんな時間に人とは珍しいですね」

その店は、銃を取り扱っている店でつい、しげしげと眺めていた魁斗は、店の奥からでてきた店主に声をかけられた。

澄んだ空気の中に良く通ったその声が耳に入った瞬間、ざわり・・・・と魁斗の中の感情が揺らめく。

(・・・なんだ・・?)

「い・・・いや、こんな時間にやってるこの店のほうが、オーシュでは珍しいんじゃないのか?」

一瞬、その揺れに戸惑ったが、話しかけられたのに無視していては失礼だと店主のほうに顔を向けた。

そこには、まだ若い青年が立っていた。

薄い茶髪に黒い瞳。そして、薄っすらと浮かべられた微笑。

また、ざわり・・・と心の中に波が立つ。

「たまたまですよ。今日は仕入れの日でしたので。」

「そ・・・そうか」

ニッコリと笑う店主に魁斗は眼を合わせられなくて、すっと視線をそらした。

と、その先にあった銃に眼が行く。

「へぇ・・・すごいな。手入れが行き届いてる」

「私の趣味ですから」

とても愛しげに、銃を扱うその店主の光りが当たって蒼くなった瞳を見て、魁斗は唐突についさっき、何故目線を合わせられなかったのか、理解した。

「・・・なぁ、お前名前は?」

「瞑璃と申します。」

感情を理解した途端、名前を聞きたくなった魁斗は、自分の欲望に素直になって聞いた。

答えないか、苗字を言われるかと思ったが店主はあっさりと答えた。

(瞑璃・・・いい響きだなぁ・・・)

「貴方のお名前をお伺いしても?」

うっとりと、名前をかみ締めていると瞑璃にたずね返された。

「あ、失礼。俺はカイト・・・・魁斗。今はビライダー家に世話になっている。」

「魁斗・・・さんですね。」

薄く、形のいい唇で、自分の名前が紡ぎだされ、魁斗の心の揺れは更に激しくなっていく。

(ああ・・・もう、だめだ!)

「なぁ・・・、つい数分前に知り合った奴に言われても信じないと思うんだが・・・」

「なんでしょう?」

魁斗は少し首をかしげ、自分を見あげる瞑璃の肩を掴んで・・・

「俺と付き合ってくれ!」

一息で言い切った。

恥ずかしくて、肩を掴んだまま顔をしたに向けた魁斗だが・・・。

「いいですよ」

「え?!」

瞑璃の返事にがばっと顔を上げる。

しかし、瞑璃の瞳と眼があうと、何かを感じ取ったのか通常の状態に戻る。

「じゃあ、これから宜しくな、瞑璃」

「ええ、宜しくお願いします、魁斗」

そうして、どちらからとも無く抱きつくと、キスを交わし、一目ぼれ→告白の怒涛の数分が終わり、一組のカップルが誕生した。




恋は突然やってくる。

(あっさり恋人になりすぎだー!!)

と、心の中で叫んだのは偶然一部始終を見てしまったどこかの苦労性のスカウト(男)である。