全ては、ここから始まった。
地図にも載っていないような小さな村。
山の中にあり、滅多に人もやってこないようなこの村の平和が今、心もとない人間によって壊されようとしていた。
「さぁ・・・その紋章を渡してもらいましょうか」
燃え盛る村。
その赤い光に照らされた二つの影。
女性は傲慢そうな笑みを浮かべ手を差し出す。
少年は、自分の右手を庇いながら、女性をにらみつける。
「大人しく渡せば楽だというのに・・・そんなに苦しみたいならお望みどおりにしてあげるわ!」
女性の手に魔力が溜まる。
少年は覚悟を決めて・・・それでも右手をぎゅっと抱きしめながら瞳を閉じた。
しかし、いつまでたっても衝撃が起こらない。
恐る恐る目を開けると、そこには地面に顔から突っ込んでいる女性と、それをなしたであろう二人の少年がいた。
「いたいけな子供に何してんだ」
ぐりぐりと、バンダナをしたほうの少年が女性の頭を踏みつけている。
女性の化粧で塗りたくられた顔が泥だらけだ。
「弱いもの虐め?流石年増。することが幼稚すぎるね」
「ぎゃぁ!」
緑の法衣をきた少年も、女性の背中を踏んづける。
こちらは、今にもぼきりといってしまいそうなほど、強く踏まれている。
「こ・・・このっ」
「ナニ?俺達に勝てるつもり?」
激しい痛みにも耐えて、気丈にも睨み付けた女性。
しかし、エンジェルスマイルだが、目の笑っていない笑みに言葉を詰まらせる。
「お・・・覚えてなさい!」
捨て台詞をはいて、一瞬で女性は消え去った。
「ふん。」
「あ・・・あの」
「あ、わりぃ。もう時間だ。少年、世界は自分を中心に回ってるんじゃない。自分で回すもんだ。世界を自分で回すぐらいには逞しく生きろよ。」
「自分のものは自分のもの。敵のものも自分のもの。これ、鉄則だから。」
少年が何か言おうとしたが、二人を淡い光が包み込んだ事から遮られる。
「はっ、はい」
余りの俺様発言に、少年はちょっと固まる。
が、次の瞬間には勢いよく頷いていた。
少年が頷いたのを確認すると、二人は消えた。
「はぁ・・・・かっこよかったなぁ・・・。」
少年は、さっきの笑ってない笑顔を思い浮かべてうっとりと呟く。
どうやらたった数分間の出来事は、幼い少年には刺激が強すぎたようだ。
すっかり、洗脳されたようである。
「よし!俺もあんなふうになるぞ!世界を手のひらの上で転がしてやる」
オー!と、焼け落ち廃墟になった村に、少年の元気な声が響いた。
全てはここから始まった。
やがて少年は宣言したとおりの成長を遂げる。
そして、少々間違った歴史のまま、150年の月日が流れた・・・。